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弁護士・元ロースクール教授宮武嶺の社会派リベラルブログです。

さらばホイットニー アルコール依存症は飲酒のコントロール障害 原因において自由な行為は自由じゃない

2012年02月16日 | 法律と裁判・事件

 

 ホイットニー・ヒューストンさんがグラミー賞の前日にビバリー・ヒルトン・ホテルで亡くなったことが明らかになりました。48歳でした。

 ホイットニーさんは、同ホテルでグラミー賞前に開かれるクライヴ・デイヴィスのパーティーで歌う予定だったそうですが、ホテルの部屋で意識不明で見つかったということです。

 死因は今のところ不明と発表されていますが、自殺かも知れないとも言われています。

 ヒューストンさんはストレス回避を理由に、アルコールとドラッグへの依存を加速的に深めていったと言われており、2004年など何度かリハビリ施設にも入っています。

 1980年代が青春だった私は彼女の歌声の大ファンでしたので、このニュースを聞いてショックを受けながら、頭の中では「All at once」が流れだしました。

 

 

 そして、刑法判例百選の授業に臨んだら、最初の判例がなんと、アルコール依存症の被告人の事件でした。


判例百選 刑法Ⅰ 36 故意犯と原因において自由な行為(大阪地裁判例昭和51年3月4日)

 「被告人は、アルコール嗜癖(アディクション。依存症のこと)に陥っており、飲酒酩酊して他人に暴力を振るったこともしばしばあった。被告人は本件犯行の前年に、裁判所で、飲酒酩酊による心神耗弱状態(限定責任能力なので刑法39条1項で刑が減軽される)における窃盗、住居侵入および刃物による脅迫・暴行を手段とした強盗未遂の各罪により、懲役刑と保護観察付き執行猶予の有罪判決の言い渡しを受け、その際、特別遵守事項として禁酒を命ぜられていた。

 ところが、被告人は昭和49年6月8日午後5時過ぎ頃から仕事先で1級酒2~3合を飲んだ後、飯場に戻り2級酒2合を飲んで外出し、さらに午後8時頃までの間に3~4合の1級酒を飲んだ結果、病的酩酊(心神喪失で本来なら無罪)に陥った。

 同夜遅く、被告人は飯場から牛刀を持ちだし、翌日9日午前1時10分ころにタクシーに乗車して間もなく、タクシー運転手の左手首をつかんで引っ張り、刃体の一部を風呂敷で巻いた牛刀を同人の右肩越しに示して脅迫し、右牛刀の刃以外の刃体をもって同人の顎筋等を叩く暴行を加えた。」

という事件です。よくこれだけで済んだなという感じですね。

 

 

 この被告人はタクシーの運転手さんに脅迫・暴行をしたときには心神喪失になっているので、普通なら責任能力がなく無罪になります。

 しかし、酒を飲んだら暴力を振るうことが分かっていて酒を飲んだのに、それでわけがわからなくなって犯罪を犯したら無罪というのでは、法益(保護されるべき法律上の利益)が守れない。

 ということで考え出された理論が、「原因において自由な行為」の理論です。

 お酒を飲んだのが原因行為。脅迫・暴行は結果行為。結果行為の時には心神喪失でも、原因行為の時には責任能力=是非弁別能力(物事の良い悪いの判断をする能力)と行動制御能力(良いことはするが悪いことはしない能力)があった。

 そして、この人が酒を飲むとしばしば暴力を振るうのだから、この人がそれをわかっているのに酒を飲んで犯罪を犯すのは、いわば判断能力がなくなった自分を道具として犯罪を犯しているのも同然で、酒を飲む行為から殴る行為が自然に発生する以上、この人が酒を飲む行為は人を殴る行為と同じくらい危険性の高い行為である。

 だから、酒を飲む行為が脅迫・暴行の実行行為であり、その時には責任能力があったのだから完全に有罪にできる。

 というのが、判例・学説の考えた「原因において自由な行為」の理論です。日本語として少し変ですが、原因となった飲酒の時には自由意思が完全にあったのだから、責任を問えるということです。

 もちろん、この事件でも、被告人は刑務所に行くことになりました。

 

 

 前の年にも事件を起こしていて、その時にはギリギリ執行猶予にしてもらい、「禁酒」を言い渡されているわけです。それでも飲んでしまったのだから、それは意志が弱いのだ、責任を問われても仕方ない、という裁判官や学者など法律家の気持ちはよく分かります。一般の人でもそう考えますよね?

 でも、アルコール依存症は、飲酒のコントロール障害です。

 意志の力ではどうにもならないのです。回復はしますが不治の病ですし、一度この病気にかかったら、飲酒は一生コントロールできないのです。

 ドラッグはともかく、お酒はほとんどの国で合法です。また、「これ以上飲んだらアルコール依存症になる」とわかって飲むわけではありません。いつの間にかなるわけですから予防も不可能です。お酒にだらしないからなるわけではありません。

 また、この被告人は、飲んだらダメだと分かっていたのに飲んだのが悪い、というわけですが、アルコール依存症は飲まないではいられない病気なんですよ。いわば病気がこの人に酒を飲ませ、暴行・脅迫をさせたのです。


 


 アルコール依存症は以前はアルコール中毒といい、アル中と略されていました。これほど、だらしない姿がリアルに思い浮かぶ病名もありません。

 道ばたで、だらしなく、人目もはばからず酒をく飲んで、ぐだぐだ訳の分からないことを言っている。それがアル中のイメージです。意志薄弱の極みです。

 ところで。

 アルコール依存症で薬物依存症だったホイットニー・ヒューストンさんは、2001年8月に6枚のアルバムで1億ドル(約76億円)という音楽史上最高額の契約をアリスタと結んだことで知られています。

 映画 『ボディガード』が大ヒットし、『ため息つかせて』『天使の贈りもの』などの映画にも出演しました。

 これまで売れたアルバムやシングルは1億7000万枚以上。その何枚かに私も貢献しました。

 元祖セレブリティです。

 


 彼女が、天性の歌声だけでこれだけの実績を築き上げられたと思いますか?

 いまだにグラミー賞の前夜祭で歌うことになっていたのです。その努力、超人的とも言える意志の力は容易に想像できるはずです。

 しかし、いったんアルコール依存症や薬物依存症になってしまえば、彼女の強烈無比な意志力をもってしても、どうにもならないのです。リハビリ施設に入っても決して治りません。アルコール依存症になった人が助かる道は自助グループしかありませんが、助かるかどうかは、それこそ、神のみぞ知る、という話なのです。

(でも、見事に回復はします。社会復帰できます。自助グループが有効である事は専門医達も認めています。

 世界的規模の団体で日本にもある自助グループがAA=アルコホーリクス・アノニマス=無名のアルコール依存症者たち。日本独自の自助グループが断酒会=全日本断酒連盟。

 希望はあります。どちらも全国津々浦々まであります。是非、お酒に問題があると思われる方ご本人でも、ご家族でも連絡してみてください。)

 一説には、日本のアルコール依存症患者の数は50人に1人。200万人をはるかに越えていると言われています。

 また、アルコール依存症患者の平均寿命は、アルコールによる病死・自殺・事故死などのために52歳程度という話もあります。

 ホイットニーほどの才能があっても、一時どれだけ名声がありお金を稼いでいたとしても、飲酒のコントロール障害には勝てませんでした。名誉もお金も役には立たない。最後は破産状態だったとも言われています。

 享年48歳。

 アルコール依存症患者の平均寿命までも達しなかった、早すぎる同世代の死を悼みたいと思います。


 

 

哀しいね さよならは いつだって。

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これぞ国歌斉唱。歴史的名演。

 

 

 ホイットニー・ヒューストン、48歳で死去 


Photo : Tibrina Hobson/WireImage
現地時間の11日、米シンガーのホイットニー・ヒューストンが死去したことが明らかになった。広報担当者が同日にMTVに伝えた。享年48。(写真=2月9日に撮影)

ヒューストンは同日に米カリフォルニア州ビバリーヒルズのホテルの一室で遺体として発見された。ホテルからの通報を受けて現場に駆けつけた地元警察は、事件性はないとしており、現在は死因を調査中だという。

1963 年にゴスペル歌手シシー・ヒューストンの娘として誕生したヒューストンは、1980年代初頭にアリスタ・レコードのドン、クライヴ・デイヴィスによりその 才能を見出され、歌手としてのキャリアをスタートした。公式サイトによると、キャリアを通じて1億7000万枚以上のアルバムやシングルを売り上げたとの こと。「The Greatest Love of All」から「I Will Always Love You」まで、彼女の遺した数々のヒット曲は今も世界中で愛されている。

1980年代から1990年代後半まで全世界の音楽チャートの常連だったヒューストンは、その歌声と美貌で『ボディガード』や『ため息つかせて』といった映画でも活躍。後者のサウンドトラックは大ヒットを記録した。

私 生活では『ボディガード』が公開された1992年にシンガーのボビー・ブラウンと結婚。翌年に一人娘のボビー・クリスティーナさんを出産した。ブラウンと ヒューストンは14年にわたる結婚生活を通じて薬物中毒に苦しんでおり、一時は歌手としてのキャリアも低迷していた。ブラウンとは2006年に離婚。 ヒューストンは2009年にステージに復帰した。

その類まれな歌声は若い世代の多くのシンガーに影響を与えた。マライア・キャリーは訃報 を受け、「私の友人、比類なきホイットニー・ヒューストンさんのショッキングな死に、悲しみに打ちひしがれており、涙が止まりません。ホイットニーのご遺 族や世界中の何百万人ものファンの皆様に心から哀悼の意を表します。この地球を彩った屈指の歌声の持ち主として、彼女は決して忘れられないでしょう」とツ イッターを通じてコメントした。

リアーナはシンプルに「言葉が出ないわ。涙しか出ない」とツイートし、「親愛なるホイットニーへ」という ハッシュタグを付けた。女性ラッパーのニッキー・ミナージュは、「ジーザス・クライスト、ホイットニーはやめて。史上最高の存在よ」とつぶやき、ヒュース トンとマイケル・ジャクソンのツーショット写真を掲載した。

ヒューストンの死を「多大な損失」としたジェニファー・ロペスは、「現代における屈指の歌声の持ち主でした。ご遺族のために祈っています…」とツイートし、「ホイットニーよ、安らかに眠れ」というハッシュタグを付けている。

ディ ディは「ホイットニー・ヒューストン!!! オーマイガッド!! 本当に信じられない…これまでで最も悲しい日だ…」とコメント。クリスティーナ・アギレラは「また伝説的存在を失ってしまいました。ホイットニーのご遺族 に愛と祈りを。彼女の死は惜しまれることでしょう」とツイートした。

アッシャーは「ホイットニー・ヒューストン、安らかに眠れ…僕らの時代における真のアイコンだった。逝ってしまうのは早すぎるよ。辛い時を過ごしているご遺族にご同情申し上げます」と綴っている。
          
MTV News

 


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1 コメント

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哀悼 (はてな)
2012-02-18 21:20:46
ホイットニー・ヒューストン、大好きでした。
20年前、武道館でのコンサートに行きました。

彼女の歌には、癒され、励まされ、多くのパワーをもらいました。華やかなスポットライトを浴びる一方で、深い闇を抱え、苦悩されていたのですね。アルコール依存症のことは、過日の報道で初めて知りました。

さまざまな病気、障がい、その苦しみは当事者でなければわからないことが、多いですが、当事者気持ちに少しでもより添える様な心のゆとりを、心がけたいです。
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