Kakuma News Reflector 日本語版

カクマ難民キャンプの難民によるフリープレス
翻訳:難民自立支援ネットワークREN
著作権:REN(無断引用転載禁)

2018年2月号 “難民の不動産”をめぐるケニアの闇市

2018年05月13日 | コミュニティーとカルチャー
執筆:コリー・ロジャーズ

ケニアを含めたほとんど地域の難民キャンプでは、非公式にシェルターを所有する不動産業が公然と存在しているが、規制もなく正規の法的保護も受けられない中、脆弱な難民がさらにすべてを失ってしまうケースもある。

「それはただの収入源ではなく、私たちの家とも言える場所でした。それが今、取り上げられ人手に渡り、ただの場末の酒場と化してしまいました」

ダニエルからのメールは敗北感を漂わせるものだった。添付された写真には、カクマのシェルターの庭に妻と共に建てた印刷会社の前で誇らしげに立つ姿が写っている。そのビジネスが突如終わりを迎えた。賃料不払いで地主に訴えられ、警察から滞納家賃の請求と立ち退きを科され、拘留され、やっと解放されたものの、新たなシェルターに入居することもできなかった。ダニエルの元の家の前の道は、太陽が降り注ぎ、賑わっている。店員や自転車の整備士、美容師らが、客や友人と忙しく会話している。後方ではディーゼルによる発電機がガラガラと大きな音を立て、地域の家や店に電気を送っている。援助を受けながらテント生活を余儀なくされた難民が、なすすべもなくブラブラしている難民キャンプの情景とは、様変わりしている。

「私たちが得ている利益なんて、たいしたものではありません」というのはアブダルだ。彼は、1990年代後半にソマリアから逃げてきて、今はカクマで映画館と電力会社を経営している。「私たちは生きるために四苦八苦していますが、ありがたいことに物乞いをしたり他人に頼ったりせずに、何とか暮らしています」

最初の難民がカクマに来たのは25年以上前。そして、最新の統計によると、キャンプは今や15万5000人もの人々の居住地となっている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、電力を一切支給せず、限られた量の薪のみ配給している。最近は、世界食糧計画が1ヵ月の配給食料を以前の半分ほどにまで削減せざるを得なくなっている。こうした援助の不足を補っているのが、キャンプでの非公式の経済活動で、キャンプ住民が生存するのに必要な収入を生み出している。

「私はシングルマザーですが、国連から支給される食料では足りません」カクマに住むソマリア人女性アクスラムは説明する。「それでビスケットを焼いて売ることを思いつきました」彼女はビスケットからの収入でようやく食糧を買うことができ、子どもたちに教育や医療を受けさせることができる。

ほとんどのキャンプビジネス――レストラン、床屋、インターネットカフェなど――は、もともとシェルターとして建てられたものを改修して使っている。新たに到着した難民は、空いている場所に適当に、無料のシェルターをあてがわれる。しかし、特にアクスラムのような仕事をする者にとって立地は重要だ。市場エリアや主要道路に近いほど繁盛する。

ダニエルはエチオピアでの政治的迫害から逃れて4年前にやってきたが、やや遠隔地のカクマ3のシェルターをあてがわれた。彼は妻の慢性腎疾患の治療費を払うためにお金が必要で、小さな印刷会社をはじめることにした。顧客や電気を得るのに都合がいいことを考慮して、市場エリアでシェルターを拡張している難民と非公式の契約を交わし、2部屋を月5000ケニアンシリング(50ドル)で借り、一部屋を住居に、もう一部屋を店にした。支払いが200000ケニアシリング(1915ドル)に達したら、そのシェルターをダニエルに移転登記するという契約だ。

〈非公式「不動産」市場〉
UNHCRは難民の自立を支援する。難民問題が深刻化し、支援金が足りない中で、難民の生活を向上させることがUNHCRにとって重要な課題になっている。しかしケニアのような国では、受け入れ国の政府が難民の移動の自由や働く権利を制限し、大多数の難民が未だに辺境のキャンプに閉じ込められていて、UNHCRはジレンマに陥っている。カクマの非公式「不動産」市場は、無料で住居を提供するUNHCRの政策に反するが、ビジネスをする場所を得る公式のルートがない以上、キャンプの起業家にとって、唯一の選択肢だ。

この現象はカクマに限ったものではない。ウガンダの政府は、難民居住地の難民が移動する際、割り当てられた土地を他の難民に売却していると嘆いている。例えばナキヴェイル居住地の難民は、割り当てられた農地を売り払って、カンパラで商売をするための開業資金にしている。レイヤー・マロンも、UNRWA(国連パレスチナ救済機関)が管理しているレバノンのキャンプでのパレスチナ難民による非公式不動産市場について書いている。同じようなことがヨルダンのザータリキャンプでも起きていて、キャンプ内のシャンゼリゼ市場周辺の‘家賃’が高騰している。

非公式な不動産業はキャンプ生活をする仕事熱心な難民にとって生活のよりどころであり、シェルターや商売からの収入は、本国帰還の資金になり、第三国にも移住しやすくなる。

しかし、難民が不動産の闇市に手をだすことは、紛争や不正買収にもつながる。

出身国に帰還する、ケニアの他の地域に引っ越す、他の国に再定住するなどの理由でカクマを去る難民は、本来なら自分たちのシェルターを政府に返し、キャンプに新たにやってくる人に再分配されなければならない。かつて、これはケニア難民省の責任であったが、2016年に解散となり、今は難民局の管轄なっている。

しかしながら、難民の中には政府に通知せずにナイロビに移住してしまう者もいる。また、キャンプを離れる難民に闇でお金を払い、政府職員に“謝礼”を渡してもらい、自分名義で居住登録をしてもらう、というケースもあるようだ。こうした非公式取引をすることでしか、難民は自分たちのシェルターにかけたお金を取り返すことはできないが、売主や買主が法的に保護されることもない。

ダニエルは難民“家主”がナイロビに引っ越したときに、家賃の合計が20万ケニアシリングに達したが――気金が必要になり――そのシェルターを他の難民に売る決心をした。ところが立ち退くように言われ、ダニエルは拒否。家主が警察に苦情を申し立て、どうやらお金が動いたようで、ダニエルは自分のシェルターから強制退去となってしまった。


【写真】カクマ難民キャンプのキャンプ1からキャンプ5をつないでいる主要ハイウェー】

こうした紛争が起きるとUNHCRが解決を試みることが多いが、公式な調停ではないので、警察に持ちこまれてしまうと、UNHCRは手を引かざるを得ない。

「土地にまつわる紛争は警察が解決することになっていますが、お金を持っているとみるや、警察は両者から賄賂を取ります。勝つのはたいてい、賄賂をたくさん渡した方です」

必要な資金とコネを持っている難民起業家は、シェルターの重要書類を手に入れることができ、“難民不動産王”などと呼ばれるようになる。

〈難民資産の保護〉
2015年、UNHCRはトゥルカナ郡政府と、カクマキャンプのすぐ北のカロベイエイに難民居住区を作ることに合意した。昨年には移住も始まった。UNHCRはカロベイエイを難民支援の新たな手段だと宣伝している。難民と貧困化している受入地域の双方の自立に寄与するというわけだ。

UNHCRはIRIN(国連人道問題調整事務所による報道ネットワーク)に対し、非正規市場活動を支援することでカロベイエイのビジネスは発展するだろうと説明した。「それは、難民業者と受け入れ地域で成し遂げてほしい。UNHCRがやるのは、うまくいくような環境を作り出すことと、商業スペースをきちんと作ることだ」

しかしながら、非正規のビジネス活動を後押ししても、資産や財産を保護することにはならない。カロベイエイでの難民資産の法的後ろ盾がなければ、難民起業家はこれまでと同じく、不動産投資に小強敵で慎重になるだろう。ダニエルもIRINに次のように語っている。「私のスタジオを大きくする計画でした。それだけの力もあります。でも、いずれ退去を強要されるかおしれないと思うと・・・投資なんて考えられませんよ」

UNHCRの評価・政策分析部のジェフ・クリスプ前部長がIRINに次のように語っている。「キャンプの難民が保護に関して直面する問題の中でも、居住地やシェルターでの非正規市場に起因する問題ほど、記録にも残らず人道団体の理解を得られないものはありません。難民が起業する能力をフルに発揮するには、これらの問題にもっと関心を寄せるべきです」

とはいえ、UNHCRはケニアの難しい政治的展望に直面している。人道支援に起因する資金を地域の有権者に流すことに熱心な地方政府と、ダダーブ――ケニア最大の難民キャンプーーを五月末までに閉鎖すると公約してきたケニア政府に挟まれて、UNHCRには難民の権利を主張する場がほとんどない。またUNHCRが土地の使用や所有を許可できるような法的枠組みも全くない。

KANEREは難民事務局(RAS)の職員に話を聞こうとしたが、若い社員はジャーナリストと派内をするのを怖がり、幹部は電話に出るのを断った。記者と話すのは人道支援のポリシーを侵害するというわけだ。

UNHCRと難民支援グループは、ケニアの現在の難民法を改訂できるような法律を導入するよう、強く働きかけている。その法案には、動産と不動産の保護も盛り込まれている。第三国定住や本国帰還に際し、正規に所有していた財産を難民に補償する信託を設立するというものだ。しかし、こうした保護はキャンプや居住区に指定されている地域には適用されないので、キャンプで暮らしている難民は依然として非正規の経済活動で生計を立てるしかない。

ダニエルと妻は否応なしに、友人たちの家を転々としながら、新たなシェルターが配分されるのを待っている。地主との紛争で三年間の投資をふいにしたダニエルは、スタジオを再開する資金を獲得する自信がない。

「ゼロから始めるようなものです。ゼロ以下かもしれません」
著作権:この記事は当初、IRIN によって発表されたが、KNAEREで再度取り上げるにあたり、多少の編集を施した。
コリー・ロジャーズは、オックスフォード大学で人類学を研究し、博士号の候補となっている。田園詩人と難民と共に進めている研究は、ケニアの北西部のトゥルカナ族について重点的に取り組んでいる。


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