佇む猫 (2) Dr.ロミと助手のアオの物語

気位の高いロシアンブルー(Dr.ロミ)と、野良出身で粗野な茶白(助手のアオ)の日常。主に擬人化日記。

これまでの記録 11(続)ロミとの対話

2019年03月27日 | 主に画像(ロミ)

【対談】のり丸×ロミ



ロミ「あんた最近、頻繁に赤外線を浴びとるの…」

のり丸「だから邪魔するなって」

 



ユトリロのレプリカ①
※(母方の)ばーちゃんの形見

 


ユトリロのレプリカ②


ロミ「前から不思議に思っとたんじゃけど、なんであんたがこの絵を持っとるん?」

のり丸「昔ばーちゃんの家に行った時、(絵に興味のない)ばーちゃんの部屋に、この絵が掛けてあったんだ。
『ばーちゃん、この絵どしたんや?』と、聞いたら、『おや、ユトリロに興味を持ったんかぃ』と、ばーちゃんが喜んで、ユトリロについて語りまくって…」

ロミ「で『あたしがいつか死んだらこの絵はのり丸がもらっておくれ』と言ったんじゃな。でもあんた、ユトリロは好きじゃったかの?」

のり丸「当時はユトリロの絵を見る度に変な気分になった。絵の中に『白壁の緑の扉(※1)』みたいな異次元の入り口が描かれているような気がしてな。
今見ると、ずいぶん印象が違うが」
(※1  『白壁の緑の扉』H.G. ウエルズ作)

ロミ「つまり、さほど興味ないんじゃね。
…ところで、あんたがこの絵を出してくる時は『ばーちゃんのお告げ』が降ってくるのを待っとる時じゃろ?」

のり丸「お告げじゃなくて、ばーちゃんはあの世で『案内人(※2)』という仕事をしているらしいから、今回も道に迷っている孫の『道案内』してくれたらな、と思って」
(※2  以前見た夢。見知らぬ町でさまよっている時、ばーちゃんが『案内人』として夢に登場した。)

ロミ「それは、お告げを待っているのと何ら変わりのない姿勢じゃ。ばーちゃんは忙しいんじゃから、もうあんたの夢に出てくる暇はないじゃろうね。
…ところでその前に、そもそも何を迷っとるんかの?」

(まだ1歳なのに、ばーちゃんのような表情)



のり丸「もしオレが3週間ぐらい入院することになったら、その間ロミは、ペットホテルに泊まるのとペットシッターに来てもらうのと、どっちがいい?」

ロミ「…仮定の話か、実際の話か、どっちなんじゃ?」



のり丸「前に怪我した膝がひどい状態になっているらしい。
医者に『骨切り手術』と『靭帯の手術』を考えておけ、と言われたんだよ。手術するかしないかはまだ決めてないけど」

ロミ「つまり手術の性質上、日帰り手術って訳にはいかないようじゃの。…じゃがこれは立派な『問題提起』になるの。

1.一人暮らしで、身内の助けのない人間がペットを飼う場合のリスク
2.身体が弱い上に、さほど経済力のない人間がペットを飼う場合のリスク
3.内向的で交友関係が狭く、かつ性格が悪くて人望の薄い人間がペットを飼う場合のリスク

とりあえず、この3点じゃ」

のり丸「…3はちょっと。…1と2でいこうか。
『そもそも、そんな人間がペットを飼う資格ねぇ』とかいう発言は一切ナシで。
…あくまでどう解決するか、どう乗り越えるか、という方向に進んでいきたいと思う」

ロミ「当たり前じゃ、バカ者。乗り越える方向に進んでもらわんとウチも困るんじゃ」

のり丸「ロミにペットホテルは無理だと思っているよ。いずれ、どういう風にこの問題を解決していくのか…ボチボチと書いていく予定だよ」

ロミ「ま、それが参考になる人は少ないかもしれんがの…」

 

トンネルは好きじゃが、ペットホテルの狭さは苦手じゃ。

 

知らん人が来たら、最初は押し入れに隠れるがの…

 

じゃあ、またの!


これまでの記録10 ロミとの対話

2019年03月22日 | 主に画像(ロミ)
【対談】のり丸×ロミ

ロミ「なんなの、あんたは?」
 
のり丸「いきなり『なんなの、あんたは?』と言われても、質問の趣旨がわからんが…」
 
ロミ「そもそも『猫ブログ』のはずなのに浮きまくっているそうじゃが(※友人談)、いったい何が目的でブログを書いとるんかの?」
 
のり丸「それはもう、ロミの魅力を記録して、軌跡を残すことが目的だよ」
 
ロミ「…それでウチの画像ばっかりなんじゃね。ところであんたは自分の変な画像はアップせんの?」
 
のり丸「主役はあくまでロミだし。…まぁ(人からもらった)似顔絵ぐらいだったら今ここでアップしてもいいよ」
 
 

【Kさんから頂いたイラスト『のり丸』】

ロミ「…これって(絶句)。…まるっきり女の子じゃろ?」
 
のり丸「一応、わざわざ写真を見ながら作ったイラストらしいけど」
 
ロミ「…あっそ(イラストってところがあざといの)。……ところで、ウチらの出会いは覚えとる?」
 
 
 【のり丸のお気に入りの画像】
 
 
のり丸「もちろん…ある日ペットショップにうっかり入ってしまったら、そこにロミがいた」
 
ロミ「ペットショップのオーナーが『このコは今日までなんですよ』とのり丸に言って…」
 
のり丸「『今日までとはどういう意味ですか?』と聞き返したら、オーナーは曖昧に笑って答えなかった。あれはすごく不気味な表現だった」
 
ロミ「…で、気が付いたらのり丸に連れて帰られていたんじゃ」
 


【チビとピキャン】
※東京都北区に住んでいた頃
 
のり丸「子供の頃から猫好きで(常に傍に)猫がいたんだけど、チビとピキャンを老衰で看取ってからはもう猫を飼うまい、と決心していた。特にペットショップを覗くのは避けていた…だけどあの日はなぜかスッと入ってしまったな…」
 
ロミ「『このコのいいところは、何をされてもいやがらないところです』とオーナーが言うとったが…」
 
 
 
のり丸「何が何が…実際は噛みまくりで、何一つさせてくれないよね、まぁペットショップの中が怖かったから萎縮していただけだろうし」
 
ロミ「ペットショップをたらい回しにされて人間不信になったのは確かじゃ」
 
 
 
のり丸「…話は変わるけれど、ロミはよくしゃべるよね。
『んうにゅケッケ、クルックル~んんケケ、アカッカ、アニャンモンネ、あぴケルル』…とか。
猫なのに『ニャーン』とは鳴かない、だからインスピレーションが湧いてくるよ」
 
ロミ「それはあんたに対する文句じゃ。山のようにある文句を言っとるのじゃ」
 
のり丸「文句なら、こっちだってあるよ。赤外線を当てている時に邪魔しないでくれる?だいたい、猫が赤外線を浴びていいんだろうか」
 
 
 
 
 
ロミ「気持ちいいんじゃ。これ大好きじゃ」
 
 
 (尻切れトンボ感があるが…)じゃあ、またの。

魅惑の早朝清掃アルバイト(3)成功へと至る道

2019年03月18日 | 手記・のり丸
「この双眼鏡でいつも何を見ているんですか?」
「……空とか鳥とかねぇ」
「へぇ~鳥ってハシブトガラスですか?」
「…ハシブト?いやいや…カラスなんか見てないよ…もっときれいな鳥だな」
「野生化したインコですか?」
「……ハトとかね」
 
(至近距離まで人間に近づいてくるハトを高倍率の双眼鏡で見るのか…)
と突っ込むのはやめ、私は編隊さんから取り上げた双眼鏡を持ってビルを出た。
 
 
朝は大阪駅、梅田駅方面から大量の人間が噴き出してくる。
早朝アルバイトを終えて私が進む方向は「人の群れ」とは逆方向になる。
 
梅田の地下ダンジョン(地下街)に潜ろうと階段を降りていくと、下からザ、ザ、ザ、ザ、と突き上げるように階段の幅いっぱいに取って「人の群れ」が登って来る。
時には「下り」が自分1人だけのこともある。
急いでいる人間は「下る」人間とすれ違う時に(邪魔だな)という顔をする。
 
確かに人間は多数で同じ方向に進んでいる時、逆方向から来る人間は邪魔なのである。
逆方向は向かい風のように進みにくい。
 
(これは自分の人生の縮図かもしれない…)
わざと哲学的なことを考えながら歩き、どこかの店に入ってモーニングを食べる。
 
そして通勤するリーマンを眺めながら、ゆっくりコーヒーを飲む。
その後は、地下街を歩き回ったり、地上を探索したりして帰宅する。
帰宅後にシャワーを浴びて身だしなみを整えてから「本業」にかかる。
それが私の日課になっていた。
 
 
(今日は双眼鏡があるから地上だな)
試しに歩道橋の上で双眼鏡をのぞいてみた。
 
「うわっ」
ビルの中がくっきり見える。
 
(なんだ…高倍率すぎてバードウォッチングには向いていないじゃないか)
飛んでいるカラスにピントを合わせるのは難しいが、向かいのビルの中はくっきり見える。
 
(まるでザ・タワーだな…)
 

「The Tower」
シリーズの初期は20年以上前の古いゲーム。
 

経営シミュレーションゲーム。
オフィス、テナント、ホテルなどを建設して人口を増やしていく。
 

「The Tower」初期のゲームには面白い機能があった。
自分が設置した建物の中を「虫メガネ」アイテムで観察すると、部屋の様子がムービーで流れるのだ。
オフィスで残業している人がいたり、レストランには客がいたり、映画館では映画が上映されていたりする。
夜間には建物内部をパトロールでき、それを3Dで見ることができる。
(ただしプログラムはランダムで、ムービーも一定数のパターンしかないので飽きてしまう)
 
設置した部屋数分のムービーが個別にあり、夜間パトロールの行ける範囲が広ければもっと面白いゲームになっていただろうと思う。
(そんなことをしていたらゲーム本来の目的から逸れるし、製作費が掛かりすぎてしまうから現実的には不可能なことだが)
 
思い起こせば、「The Tower」では、その「虫メガネ」機能だけが楽しかった。
しかし双眼鏡で梅田の街を覗いていると、リアル「The Tower」である。
 
 
 
(ここは、オレが作った世界)
(オレが作ったジオラマの世界)
(その世界の中をミニチュアになったオレが探索している)
(さて、今日はどこに行こうか)

そんなことを想像しながら、双眼鏡を持って梅田界隈を歩いた。
けれども…意外にあっさり、双眼鏡を覗くことに飽きた。

早朝から動いて、時間がたっぷりあるような気がしていた。
無理やり覇気を出していた。
 
 
(…忘れていた)
そういえば、病気になった後、誰が去って誰が残っただろう。
そして、この仕事(本業)に転職した時は同業者から厳しい洗礼を受けた。
 
今までどれだけ杭を打たれてきただろう。
打たれたくなければ、思いっきり抜きん出て彼らの手の届かないところまでいくしかない。
中途半端な実力だから打たれるのだ…潰されたくなければ、実力をつけて登るしかない。
あの頃、そう悟ったのだ。
 
今考えると、実力をつける為にすべてが必要な出会いだった。
実力がついていくにつれ、私に対する周囲の反応も変わっていった。
反面、自分がまだとても未熟であることに気付き、この先見るものが「もっともっと」あることを知った。
 
次のステージに行く為には、現在のステージをクリアしないと進めない。
待っていると、誰かが私の代わりにステージをクリアしてくれる訳でもない。
結局自分が動かなければ、次のステージに行くことはできない。
ただし次のステージに進んでも、何が起こるかわからない。

(次のステージなんていかなくていい、現状維持でいこう)
(のり丸はこのままの状態で、身体が弱いままでいたらいい、そしたらずっと傍にいてあげるよ)
…そういうメッセージを送って来る人間もいる。
 
自分はこのステージに居続けることと、次のステージに行くことと、どちらを望んでいるのか…。
どちらを選ぶと人生に納得することができるのか…。
塞翁が馬…先のことは何一つわからない。

あの時、梅田の街を歩いていて思った。
(あぁ、退屈だ…)
次のステージに挑戦したくてたまらない…そうしなければ、退屈で死にそうになると…。
 
 
 【今日のロミ】
玄関で荷物をほどいていると、扉から…。
 
しびれをきらしたのか、ツンデレの嬢が歩いてくる。
 
「来てやったんだよ」と言っている。
 
 

これまでの記録9 東野翠れん さん

2019年03月11日 | 主に画像(ロミ)
昨日、 のり丸がまた「遠出」…今回は金沢じゃ。
 
【ブレる、ブレる、と言われながらも近づく】
のり丸の肩に乗るためじゃ。
 
【瞬間移動ごっこ、してくれ】
のり丸の外出を引き延ばそうとしていたが、腹立つことにウチを降ろそうとする。
 
【絶対に降りんから】
防寒バッチリののり丸の服に抜け毛をなすりつける。
降ろそうと奮闘しているのり丸と、降りるまいとしているウチ。
 
【やっぱり行くんね…】
不満と悲しみの表情。
 
このアングルで撮影するのは難しかったらしく、辛うじて映っていた肩乗り画像がこの3枚。
 
 
 
===in 金沢===
 
天気は薄曇り、しかし想像と違い妙に暑くて、結局帽子もコートもいらんかったらしい。
今回、金沢では3つ用事があったが、タイムリーに「東野翠れん」さん、だったそうじゃ。
 
 
のり丸の仕事(業界)で必要なものは、営業力・ブランディング・コンテンツ・技術力だと言われている。
また業界には「自分は凄い」「自分はカリスマ(神)」と思っている人間や、「顧客はただの金」「儲ける為にはウソを吐く」という人間もおる。
 
業界のメンバーは神様〜詐欺師までとバライティに富んでおり、資本主義の「競争社会」の「あーでもない、こーでもない」をやっている。
逆に「こんな仕事、夢も希望もないから」と覇気に欠けていたり、ベーシックインカムの導入を待ち望んでいる人達もいる。
 
確かにのり丸のいる業界は生存競争が激しく、単に技術を磨くだけでは生き残れない可能性もある。
 
コンテンツ・技術力がすばらしくても、その内容を(よい例えではないが)ベータビデオカセットでアウトプットしても誰も受けとらないだろう。
時代のニーズに合わないものは消えていくからじゃ。
 
自分の仕事をどう宣伝するか…「古い民家」を店舗にして……そんなことをのり丸が考えている時に、東野翠れんさんの写真展「Pendant 1957-2018」。
 
 
のり丸は、翠れんさんが15歳ぐらいの時から気になっていたらしいのじゃ。
その「気になる」というのは、ファンとか作品にすごくシンパシーを感じるとか、そういうのとはニュアンスが違うらしく……
理由はよくわからないけれど「気になっている存在」だったのじゃ。
 
 
 
mina perhonen Kanazawa
100年以上経っている民家で作品を展示。
 
トークイベントの時は、翠れんさんは中央のマイクの置いてある椅子に座って話すのだが
 
けっこう客と近い距離。
後ろの窓の下にあるのも、翠れんさんの作品。
 
 
「過去の痛み、歴史の痛み、個人の傷跡ではない写真。ではなにを撮っているのかということを考えると、それは〈ちょっと先の未来におく写真〉ー
平和な世界がどんなところなのか、自分が忘れないためにも、いま目の前に見える一瞬の静けさ、光、その平安な時間を、今日、生きているということを祝福する写真を撮っているのだなと思う」
=東野翠れん=
 
 
翠れんさんが、ジョナス・メカスの「どこにもないところからの手紙」という本の中の一部を抜粋して読んでくれた時…。
のり丸の1.5メートルぐらい先の距離にいるのに、彼女の姿が10メートル遠ざかって見えたり、揺らいで見えたり変な感覚に囚われたそうじゃ。
 
 
直観とか、感性の世界を「言語」で表現するのはとても難しいの。
言語には「時間差」があるし、特に「瞬間」は名状しがたい。
 
 
元々のり丸は人が表現しているものを見るのが好きじゃ。
目の前の風景であろうが、旅先の風景であろうが、その人の心象風景であろうが、それが男性感性だろうが女性感性だろうが、また年齢も関係なく…。
 
「今、この人がこういうものを見ていて、こういうものを感じている」ということを知るのが好きなのじゃ。
 
写真とは光の記録であり、翠れんさんが光を記録して発信し、のり丸の何かがそれをキャッチして、内部の何かが発光する。
光の伝達みたいなものなのじゃろうか。
 
もちろん世の中のすべての発信をキャッチすることはなく、キャッチしても内部で「発光」しないこともある。
だからこそ、内部で「発光」したものを道標として追っていけばいいのではないかの。
 
 
===帰宅後===
 
【近づきすぎる】
 
【ウチも落ち着いた…】
 
 
人間も猫も、病気とか老化とか……ウチとのり丸の日々もあっという間。
 
だからこそ、「営業力」とか「ブランディング」とか、のり丸の柄ではないことを考えたりせず、原点に戻って「発光」したものを辿って、コツコツ取り組んでいくしかないじゃろうね。
 
 
 
じゃあ、またの。
 

魅惑の早朝清掃アルバイト(2) オッサン

2019年03月03日 | 手記・のり丸
早朝アルバイトは「早起きの習慣をつける」という点では効果てきめんだった。
 
いつしか、早朝の梅田界隈を歩くことが私の習慣になっていた。
瞼は半分閉じており、髪は寝ぐせがついたままでライオンのように逆立っていたが…。
しかし身だしなみを整えるのは「朝の仕事を終えた後」でいいのだ。
目的は「朝起きて動くこと」なのだから…。
 
早朝の梅田の路地にはリーマンの酔っ払いや、化粧の剥げかけた女にしがみつかれているホストや、気難しい顔をした仕入れ業者や、気の荒いゴミ回収業者や、いろんな種類の人間がうごめいている。
 
ある日、いつものように路地裏を歩いていると、電柱の影に不審者丸出しの男が立っていた。
黒いキャップを目深にかぶり、首に双眼鏡を掛け、上下黒のジャージを着て、身じろぎもせずに何かをガン見していた。
 
(朝から変質者か…さすが梅田だな) 
感心しながらその横を通り過ぎようとすると、変質者が「のり丸君!」と声を掛けてきた。
よく見ると、それは早朝アルバイトで私とペアを組んでいるオッサンだった。
 
「あ、編隊(ヘンタイ)さん(仮名)、おはようございます!…そこで何をされているんですか?」
「…ちょっと一服しようと思ってね」
編隊さんはポケットからマルボロライトを取り出した。
電柱の側には缶の灰皿が設置してあった。
 
「お・ま・た・せ~♪」
いきなり大学生風の男が背後から現れて、缶コーヒーを編隊さんに手渡した。
「あぁ、ありがと」
編隊さんはその男から無造作に缶コーヒーを受け取った。
 
(…連れがいたのか)
何気なくその男の方を見ると、なんと男は敵意のある目で私を睨んでいた。
そして上から下、下から上と私の全身に視線を這わした後で「フン」とそっぽを向いた。
 
(…何だ?何だ?なぜ睨む?…まぁ、どうでもいいか…)
私の脳はまだ半分寝ていた。
「では、後ほど」
編隊さんと見知らぬ男を残し、私はアルバイト先に向かった。
 

アルバイト先は、大阪の一等地にある「自社ビルリッチーコーポレーション(適当な仮名)」である。
不動産、ビル管理・メンテナンス、人材派遣、ホテル経営などを手掛けている会社だ。
 
ビルの地下3階に掃除道具置き場、清掃班の控え室、ゴミ収集場などがある。
「自社ビル清掃班」は1階の管理室でタイムカードを押すと、業務用のエレベーターで地下3階まで降りる。
だが、いつもエレベーターはなかなか降りてこない。
 
「のり丸君、先ほどは」
エレベーターを待っていると、もうすでに編隊さんが後ろに立っていた。
「さっき一緒にいた人、友達ですか?」
「夜勤で一緒のコでね、妙になつかれちゃってねぇ…ん~なんで?もしかしてどんな関係なのか気になってる~?」
編隊さんはニチャっと笑った。
「いえ、全く興味ないです」
 
そんな会話をしていたら、エレベーターがやっと止まった。
エレベーターのボタンは地下5階まである。
(噂によると)地下5階の壁面には掘りかけの深い穴があり、そこは立ち入り禁止になっているそうである。
 (地下に掘りかけの穴…)
私はエレベーターに乗るたびに、その未知の領域を想像して少しワクワクしていた。
 

編隊さんはどこかで夜勤をした後に「小遣い稼ぎ」で早朝アルバイトをしていた。
全く寝てない状態で来ているせいかどうかわからないが、いつもハイテンションだった。
 
編隊さんと私はビル内の10階と13階のオフィスを手分けしながら掃除していた。
アルバイトの制限時間は90分である。
 
ことのほかゴミが多く、超テキパキ動かないと90分をオーバーしてしまう。
まず「どこから攻めるか」という攻略と、編隊さんとの連携プレイが重要である。
幸いにも、業務はスムーズに進んでいた。

ある時、シュレッダーの掃除をしていた私が、
「編隊さん(シュレッダー用の)90ℓゴミ袋のストックが切れました!」
と振り向くと、カシャ、カシャ、とシャッター音がして、編隊さんが私の方にスマホを向けていた。
 
(何しとるんや、このオッサン…)
 
「90ℓのゴミ袋ね、了解!」
編隊さんはスマホをサッとしまいながら、ゴミ袋を調達しに行った。
 
私は不思議だった。
たった90分間しかないのに、その90分間の仕事にも集中できない人間がいる、ということが不思議だったのだ。
 
ゴミ袋を持ってきた編隊さんに、
「編隊さん、さっきは何を写したんですか?」
と尋ねた。
(…絶対オレを撮ったよな)
※オフィス内で写真撮影は禁止事項に当たる。
 
編隊さんは私の顔をジーッと見ながら、
「…のり丸君の顔って、ど真ん中ストレートなんだわ(※原文のまま。ストライクの間違いか)」
とボソボソ答えた。
更に、
「のり丸君って、なんか美しいよね」
と付け加えた。
 
(……ハァ?)
想定外すぎる回答だったので、本来なら(あまりの気持ち悪さに)「ぶべら!!!」であるところだが、
 
【画像】漫☆画太郎

「ああ、それはどうも」
と答えてしまった。
その上、
「(仕事中にスマホすると)次回は通報しますよ。今回は罰として(編隊さんの持っている)双眼鏡を1日貸してください」
とおかしなことまで口走っていた。
 
これは、編隊さんを「まともに相手をしてはならない人間」と判断した上での対応でもあるが…。
 
(…双眼鏡を1日貸してください)
私も私である…。
 
 
 
 
【今日のロミ】