死因究明へ「Ai」福島県内で導入検討
読売新聞(ヨミドクター) 8月27日(月)10時58分配信
原因不明で亡くなった人の死因を探る方法に解剖があるが、近年、CT(コンピューター断層撮影法)などで画像診断し、死因究明するAi(死亡時画像診断)の関心が高まっている。
全国では東北大学や佐賀大学などがAiセンターを設け、山梨県警は県内の病院と協定を結んでAiを実施するなど普及が進んでいるが、福島県内でもようやく県医師会や県警、県、県立医大などが導入の検討を始めることになった。
■「低迷」解剖の補完に期待
県警によると、昨年の県内の死体取扱数は3183体で、うち解剖をしたのは203体。解剖率は6・3%と全国平均(11%)を大きく下回る。県内に解剖を担う法医学者は3人だが、遺族が解剖に抵抗感を示す場合が多いことなどが低迷の原因とされる。
6月に成立した死因・身元調査法(2013年度施行)と死因究明推進法(今年9月施行)は家族の承諾なしに解剖が可能とするが、人材不足や財源確保など根本的な課題が残る。
そこで注目されているのがAiだ。死因判明率は解剖には及ばないものの、解剖数の急激な上昇が望めない現状では、解剖を補完する形でAiを導入し、死因究明を進めたいという期待が関係者にある。また腐敗した遺体の性別などは、解剖よりもCTの方が判別しやすいなどAiが強みを生かせるケースもある。
日本は、人口100万人あたりのCT保有台数が90台以上と世界でも群を抜いて多く、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国の平均の4倍以上。医師や技師は診断機器の扱いに熟知しているといえるが、遺体は血流がなく腐敗があるなど生体と異なるため、Aiの実施には遺体の画像を診た経験や専門知識が必要とされる。
県医師会や県警などは7月、Aiに関する初の検討会を県医師会館で開き、導入する方向で一致した。具体的な検討はこれからだが、県立医大を拠点として、人材育成や必要な専用の診断機器の整備などを行うことになる。県や県警は機器の整備や各地の病院への検査料の負担などを想定し、2013年度当初予算に関連経費を計上するかを検討している。
県医師会の土屋繁之常任理事は、「導入には財源が不可欠で、国の補助メニューの利用なども考えたい」としている。
■画像で他の医師に意見求めやすく
Aiは遺体を傷つけないため、遺族の同意が得られやすいとされる。また、病院側が撮影した画像をインターネットなどを通じて送ることで、セカンドオピニオン(別の医師の意見)が容易なのも利点だ。
一般財団法人「Ai情報センター」(東京)は病院などから照会を受け、遺体のCT画像などを複数の放射線科医で読影し、鑑定書を作成している。依頼者は医療機関や警察、個人など様々で、刑事事件や医療過誤事件、保険金請求訴訟など多岐にわたる。ある警察からの依頼では、児童のCT画像で、解剖ではわからなかった頭蓋骨の小さな骨折を見つけ、両親による虐待の容疑を裏付けた。
同センターの山本正二代表理事は「国内で遺体の画像を正確に診られる医師はごくわずか。いつでも依頼を受けるし、Aiに携われる医師の育成にも協力したい」と話す。
【Ai】「オートプシー・イメージング」の略で、遺体をCTやMRI(磁気共鳴画像)などで撮影、読影することで死因を探る手法。医師で作家の海堂尊さんの小説「チーム・バチスタの栄光」で広く知られるようになった。死因判明率は解剖が7割程度とされる。これに対し、MRIが4割、CTは3割だが、カルテなどの情報が加われば数割程度高まるといわれる。