しかし、特に彼は何も言ってはくれなかった。
外部の人間に案件のことを話題にするのも嫌だったのかもしれないし、朝のこともあったのだと思う。
…長期になるであろう警護の2日目にして、俺は気まずいことになってしまった。
彼と無言のまま会社に戻ると、俺の周りはみな今日彼が決めてきた案件に動き出してしまい、彼は昨日見たとおりの元気な彼に戻っていた。
会社を八時に出ると、車の中で助手席の彼が、
「海原くんは次の火曜には来るんでしょ?」
と、俺を見ながら言ってきた。
「はい」
…としか言えなかった。
というのは、何となく、担当を外されそうな気がしたからだ。いくら「秘密」を預けられたとはいえ。
…いや、すぐにそれは自分の恐れなのだと気づく。
もう会えなかったらどうしよう、という…
それで、
「社長に契約を切られなければ」
と言ってみた。するとやっと彼は相好を崩し、
「そんなことしないよ…って矢野会長が契約者か。そっちで切られたら僕が依頼し直すから大丈夫だよ」
「あー良かった。では来週もお願いします」
また朝の話が心配になったが、ここで蒸し返すのも、と思い、笑顔でまた彼の部屋の玄関で別れた。
その夜は、俺はずっとネットで今の与党について…はっきり言えば、彼が巻き込まれそうな問題はどんなものがあるか、つい長々と調べてしまった。
(…まあこれも仕事だし…)
と、なぜか自分に言い訳をしながら。
明日は、常連さんの小学生の送迎警備なので、早く寝なければいけないのだが。
その時、スマホにメールが着信した。
彼から、だった。