とはずがたり

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滑膜マクロファージsubpopulationによる関節リウマチ活動性制御

2020-07-01 22:35:47 | 免疫・リウマチ
滑膜組織は関節リウマチ(RA)において炎症の主座となっていますが、最近のsingle cell technlogyによって滑膜における様々なsubpopulationがRAの病態に関与することが報告されています。最近CX3CR1+CD68+F4/80+ lining macrophageが関節腔を隔てるバリアーを形成し、活動性RAではこのバリアーが破綻することが報告されています(Culemann et al., Nature. 2019 Aug;572(7771):670-675)。この論文で著者らはやはり滑膜マクロファージ(synovial tissue macrophage, STM)に注目し、そのsubpopulationの役割を明らかにしています。多様な疾患活動性を示すRA患者からの滑膜サンプルをscRNA-seqで解析するという、時間もお金も労力もかかっている力作です。
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45人の未治療RA患者、31人の治療抵抗性RA患者、36人の寛解維持RA患者、そして10人の正常例(半月板あるいは靱帯手術患者, healthy donors, HD)から滑膜を採取し、マクロファージマーカー(CD11b, CD64, CD163, MerTK, CD206)を用いてSTMを単離しました(MerTKは受容体型チロシンキナーゼでGAS6をリガンドとすることが知られています)。
HDのSTMは大部分がMerTK, CD206陽性でした(MerTKposCD206pos STM)。
寛解RA患者においてもこのpopulationが増加していましたが、活動性RA患者ではMerTKnegCD206neg STMが増加しており、MerTKposCD206pos STMは疾患活動性と負の相関がありました。
TNF inhibitor+MTXで寛解となっていた患者のうち22人においてTNF inhibitorを漸減、中止したところ、11人でflare upが生じ、11人で寛解は維持されました。寛解維持患者ではMerTKposCD206pos STMの割合が高いことがわかりました。
免疫染色ではCD68陽性のSTMの大部分はMerTK陽性で、lining-layer CD68pos細胞とtightに結合していましたが、active RAではMerTK陰性のものが多く、sublining layerに存在していました。
STMはscRNA-seqによって4つのsubpopulationおよび9つのclusterに分類されました。このうちHDではMerTKposTREM2pos, MerTKposFOLR2high STMが多く、補体やdefensin pathwayに関連する遺伝子の高発現が見られました。無治療あるいは治療抵抗性RAではMerTKpos clusterは減少しており、MerTKneg STMにおいて炎症性サイトカインの発現亢進が見られました。
Ex vivoでSTMをLPS刺激すると、MerTKnegSTMはMerTKposSTMより炎症性サイトカイン産生が亢進していました。またGAS6刺激によって寛解RAのMerTKpos STMにおける炎症性サイトカイン産生は抑制されました。
次に滑膜線維芽細胞(FLS)とSTMとの関係を調べたところ、炎症性のMerTKnegCD206negSTMとの共存培養で出現するcluster(FLS5)が見つかりました。FLS5は高レベルでMMP1, 3, RANKL, IL-6, CXCL8, CCL2などの軟骨・骨破壊mediatorを発現していました。一方寛解RAから得られたMerTKposCD206pos STMとの共存培養ではFLSのrepair responseが誘導されました。またGAS6はFLSに大量に発現し、抗炎症性に作用することも明らかになりました。
以上の結果より、滑膜マクロファージのうちMerTK陰性のpopulationがRAの炎症増悪に作用しており、この細胞との相互作用によってFLSの炎症メディエーター産生が亢進すると考えられました。またGAS6はFLSによって産生する抗炎症性サイトカインであり、新たな治療薬候補になる可能性も示唆されました。