「近年のヨーロッパにおける洪水多発期間は過去500年とは異なる特徴を有する」
ー神よねがはくは我をすくひたまへ 大水ながれきたりて我がたましひにまでおよべり (詩篇 第六十九篇)ー
この度の球磨川や最上川の氾濫による大きな被害状況を見ると、もう少し有効な対策が取れないものかと、もどかしく悲しい気持ちになってしまいます。被害にあわれた方々には心よりお見舞い申し上げます。最近このような豪雨や洪水が増えているように感じますが、これも地球温暖化の影響でしょうか。
実はヨーロッパでも近年洪水が頻発しているようです。今週号のNatureに掲載されたGünter Blöshlらの論文では、過去500年のうちヨーロッパで洪水が頻発した期間を同定し、最近の傾向と比較しています。彼らは洪水に関する信頼できる記録を元に、ヨーロッパにおける「洪水多発期間(flood-rich periods)」を9つ同定しました。このうち最も新しいのが1990年ー2016年に西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、イタリアで見られたものです(period IX)。この期間を過去のものと比較すると、範囲としては2番目、持続期間としては3番目に大きなものであることがわかりました。またその規模に加えてperiod IXは過去のlood-rich periodsと比較して、下記のような特徴を有することがわかりました。
①過去のflood-rich periodsは洪水の無い期間(interflood periods)と比較して約0.3℃程度気温が低かった(サイクロンによる降雨のためか)のに対し、peirod IXは1.4℃気温が高かった。
②Flood-rich periods, interflood periodsに生じた洪水は、過去には夏に生じたケースが41%, 42%だったのに対し、period IXでは55%が夏に起こっていた。
このような変化の原因として著者らは北大西洋振動North Atlantic Oscillation(NAO)(北大西洋のアイスランド低気圧とアゾレス高気圧の間で、気圧が伴って変動する現象)の変化を挙げています。ヨーロッパの洪水と比較してアジアなど他の地域ではflood-rich periodsはもう少し限局した範囲で見られるそうです。
この論文では3D図表や動画を用いて、これまでのflood-rich periodsの特徴を非常にわかりやすく示しています。是非日本についてもこのような解析を行っていただきたいものです。