TNF-αが関節リウマチなどの自己免疫疾患において重要な病的意義を有していることは、抗TNF-α抗体などのTNF-α阻害療法が有効なことからも明らかです。しかしその一方でTNF-αを抑制することで結核感染のリスクが増加したり、自己抗体産生が増加したり、リンパ腫のリスクが高まることも知られています。この論文で著者らはこTNF-αを産生する細胞種の違いによって生体への影響が異なることを明らかにしました。
著者らはまずマウスCIA(collagen-induced arthritis)モデルにおいて、TNF-α欠損(TNF KO)マウスや膜型(transmembrane, tm)TNF-αのみを発現し、可溶型TNF-αの存在しないマウス(tmTNF KIマウス)では関節炎が生じないことを見出しました。これらのマウスでは抗II型コラーゲン抗体の産生も減少していました。興味深いことにTNF KOマウスではII型コラーゲン反応性のT細胞反応は、野生型(WT)マウスやtmTNF KIマウスよりも亢進していました。つまり可溶型TNF-αは関節炎の発症に重要で、膜型TNF-αは自己反応T細胞の出現に重要だということです。
次に著者らは細胞特異的にTNF-αを欠損させたマウスを解析しました。ミエロイド系(骨髄系)細胞で欠損したM-TNF KOマウスではCIAが抑制されていたのに対し、T細胞で欠損したT-TNF KOマウスでは逆に関節炎発症が増悪していました。つまりT細胞のTNF-αは関節炎発症に抑制的に働くということです。
次にtmTNF KIマウスとM-TNF KOマウスをかけ合わせることでミエロイド系細胞でtmTNF-αのみが発現するマウス(tm-M-TNF KIマウス)を作成しました。このマウスでは他の細胞では正常なTNF-αを発現します。tm-M-TNF KIマウスでは関節炎誘導の際の血中TNF-α濃度が低下しており、関節炎の発症も低下していました。このことはミエロイド系細胞における可溶型TNF-α産生が関節炎発症に重要な役割を果たすことを示しています。
次に滑膜線維芽細胞の活性化について検討したところ、TNF KOマウス、M-TNF KOマウスでは活性化線維芽細胞が減少しており、M-TNF KOマウス関節ではMMP9, TNF-α, IL-6発現が低下していることがわかりました。
またミエロイド系、T細胞両者でTNF-αを欠損したM, T-TNF KOマウスではCIA発症は抑制されていましたが、脾臓におけるIFN-γ産生T細胞はTNF KOマウス同様増加していました。
関節炎の発症にはTh1およびTh17 CD4 T細胞が関与していますが、T-TNF KOマウスの脾臓では自己反応性でIFN-γ産生およびIL-17A産生CD4+ T細胞が増加していました。一方でミエロイド系細胞のTNF-αはII型コラーゲン特異的Th1, Th17 CD4 T細胞の頻度には影響しませんでした。またT-TNF KO, M-TNF KOマウスいずれにおいてもリンパ組織におけるTregの数やFoxp3発現は変わりあせんでした。T-TNF KOマウスの脾臓では関節炎誘導によってIL-12p40産生細胞が増加していましたが、M-TNF KOマウス脾臓ではWTと変わりませんでした。つまりT細胞の産生するTNF-αは炎症性の単球、樹状細胞におけるIL-12p40産生を抑制することで自己反応性メモリーT細胞の出現を抑制していると考えられました。
興味深いことにB細胞でTNF-αをKOしたマウスではCIAによる関節炎の発症頻度はWTと同程度でしたが、重症度は軽減しており、B細胞の産生するTNF-αは関節炎の重症度に関与すると考えられました。
この一連の実験をまとめると、
①T細胞の産生するTNF-αは二次リンパ組織における自己反応性T細胞の活性化に関与する。そのためTNF-αを抑制すると二次的に自己反応性T細胞が活性化される。このときtmTNF-αーTNFR2のシグナルが関与している可能性がある
②ミエロイド系細胞が産生する可溶型TNF-αは全身のTNF-α濃度を制御し、滑膜線維芽細胞の活性化に関与し、おそらく自然免疫の活性化を介して関節炎の発症に関与する。
ということになります。このように細胞によって炎症性サイトカインの役割が異なるという結果は大変興味深く、細胞特異的なTNF-αの抑制などにより、より副作用の少ない治療法が開発されるかもしれません。
Kruglov A et al., Contrasting contributions of TNF from distinct cellular sources in arthritis. Ann Rheum Dis. 2020 Aug 12:annrheumdis-2019-216068. doi: 10.1136/annrheumdis-2019-216068.
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