とはずがたり

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コロナウイルスSタンパクと受容体との結合部位の構造解析

2020-04-04 15:41:03 | 新型コロナウイルス(疫学他)
コロナウイルスが特徴的なspike protein(Sタンパク)を有しており、これが細胞の受容体と結合することが細胞内へのウイルスの侵入に重要なことは私のようなウイルス学のド素人にもすっかり周知のこととなりました(そうでもないか・・)。
2003年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因となったSARS-CoVウイルスと今回の新型コロナウイルスSARS-CoV-2のSタンパク間にはアミノ酸配列で77%という高い相同性があります。この論文は回復期SARS患者の抗体をもとに作成されたCR3022というSARS-CoVのSタンパクの受容体結合部位(receptor-binding domain, RBD)に対するモノクローナル抗体を用いて、2つのウイルスのSタンパクの構造を比較したものです。
(結果)CR3022のSARS-CoV-2 RBDに対する結合はSARS-CoV RBDに対する結合よりも弱く(Kdがそれぞれ115 nM, 1nM)、in vitroの中和活性も弱い。この理由としては372番目のアミノ酸の違いによるN-glycosylationの違いが考えられました。
またSARS-CoVとSARS-CoV-2は同じangiotensin I converting enzyme 2 (ACE2)を受容体として細胞内に侵入しますが、実はCR3022の認識するepitopeはSタンパクとACE2との結合部位とは異なり、CR3022の結合はRBDとACE2との結合を抑制しません。さらにホモ三量体SARS-CoV-2 Sタンパクのクライオ電顕の結果から、RBDはヒンジのような動態を示し、”up” conformation↔”down” conformationという構造変化を示すこと、ACE2はRBDがup conformationの時のみ結合できること、CR3022も同様にRBDがup conformationをとっているときのみ結合できることが明らかになりました。また三量体の1つのRBDがup conformationをとっても、他のRBD(プロトマー)がdown conformationであると、CR3022の可変領域と衝突してしまい、結合が阻害されてしまいます。このような衝突が回避されることが抗体とRBDとの強い結合に重要ですが、このような結合はRBDの構造をわずかに回転させることで達成されます。
近年の分子構造解析の技術進歩は著しく、この論文のような解析が比較的短時間でできるようになっています(この分野は中国の独壇場になっていますが)。今後SARS-CoV-2の分子構造をもとに、最も有効性の高い新型コロナウイルスワクチンがデザインされることが期待されます。
A highly conserved cryptic epitope in the receptor-binding domains of SARS-CoV-2 and SARS-CoV
Science   03 Apr 2020: eabb7269, DOI: 10.1126/science.abb7269


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