とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

COVID-19陽性の大腿骨近位部骨折患者においては術後生命予後が不良である

2020-07-09 11:22:05 | 新型コロナウイルス(治療)
SARS-CoV-2陽性でも大腿骨近位部骨折の場合には手術を行うケースが多いと思いますが、この論文はイギリスのGreater LondonのNHS hospitalsで2020年2月1日から4月20日までに大腿骨近位部骨折で手術した全患者を対象に、COVID-19が予後に与える影響を検討したものです。
解析対象になった442人のうち340人がPCR検査でSARS-CoV-2陰性、82人が陽性でした。陽性者には施設入所者が多い(79.3% vs 16.5%, p<0.001)という特徴がありました。陽性率の高さにまず驚きますが、陽性例のうち40人(48.9%)は初回のPCRでは陰性で2回目以降に陽性になったという事実にさらにビビります。また陽性者のうち9人は無症状で、入院後呼吸器症状が出現しました。要は「施設に入っている大腿骨近位部骨折患者を見たらCOVID-19と思え」という状態だったのだと思います。
SARS-CoV-2陽性患者は死亡率が有意に高く(30.5% vs 10.3%, p<0.01)、生存率は1週後に91%、30日後に70%でした。陽性者の死亡に関与する因子としては、単変量では認知症、喫煙、術前Hb、併存症数が有意になり、多変量解析では喫煙(hazard ratio, 15.4, 95% CI 4.55ー52.2, p<0.001)、併存症数(hazard ratio 13.5, 95% CI 2.82ー66.0, p<0.001)のみが有意な因子として残りました。興味深いことに、喫煙は陰性者の死亡率には関与していませんでした。
陽性患者では、術後合併症率が高く(89.0% vs 35.0%, p<0.001)、ICU入室のリスクが高く(61.0% vs 18.2%, p<0.001)、在院日数も有意に長いことがわかりました。陽性患者の合併症としては循環器・呼吸器系合併症、静脈血栓塞栓症、多臓器不全が多いものでした。
少し前にイタリアからCOVID-19陽性患者であっても手術は推奨されるという論文が発表されましたが(Francesco C et al., J Bone Joint Surg Am. 2020 Jun 17;102(12):e58. doi: 10.2106/JBJS.20.00617)、やはり予後が不良である点は十分に説明する必要がありそうです。特に喫煙者で予後が極めて悪いというのは重要な事実かと思います。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿