ストレスが様々な疾患の病態に影響を与えることは古くから知られていました。日本医科大学リウマチ科名誉教授の吉野槇一先生らは、その先駆的な仕事において、関節リウマチ患者に落語を聞かせたところ血中のIL-6濃度が低下するとともに症状が緩和するという結果を報告され、IL-6などのサイトカインを介したストレスによる炎症性疾患病態制御の重要性を示されました(Yoshino S et al., J Rheumatol. 1996 Apr;23(4):793-4)。この論文においてYale大学のAndrew Wangらは、ストレスによって誘導されるIL-6の作用を詳細に解析しています。
まず彼らは様々なマウス急性ストレスモデルにおいて、様々なサイトカインの血中濃度が上昇すること、中でもIL-6の上昇が最も顕著であることを確認しました。IL-6の動態をストレスホルモンとして知られているcortisolやnoradrenalineと比較すると、後者は15分で上昇し、2時間でピークに達し、4時間で元に戻るのに対して、IL-6は2時間で有意に上昇し、4時間でピークに達し、18時間後にも検出可能と長い時系列を示すことがわかりました。興味深いことに副腎を摘出したマウスでは急性ストレス後のIL-6レベルが上昇しており、副腎(ホルモン)はIL-6産生に対して負の制御をしていることもわかりました。一方IL-6の抑制はcorticosteroneやnoradrenaline濃度に影響しませんでした。
IL-6は様々な臓器で産生されますが、褐色脂肪細胞特異的にIL-6遺伝子を欠損させると急性ストレス反応性のIL-6上昇が抑制されることから、褐色脂肪細胞が中心的なIL-6産生細胞であることがわかりました。興味深いことにマウスに麻酔をかけて意識レベルを低下させるとIL-6は誘導されないことも明らかになりました。また6-hydroxidopamineによって褐色脂肪細胞における交感神経遮断を行うと急性ストレスによるIL-6誘導は低下しました。この時褐色脂肪細胞のβ3アドレナリン作動性受容体(ADRB3)が重要な役割を果たしており、ADRB3のアゴニスト投与によってストレス非依存的にIL-6は誘導され、Adrb3遺伝子ノックアウトマウスでは逆に急性ストレスによるIL-6誘導は抑制されていました。
このような急性ストレス依存性IL-6誘導は肝における糖新生を促進することで血糖値の長時間にわたる上昇を誘導する作用を有しており、急性ストレスに対する行動変化にも関係していました。
最後にLPS投与に対する急性ストレスの影響を検討しました。急性ストレスに曝露されたマウスではLPS投与の全身炎症による死亡率が高くなり、ADRB3アゴニストやIL-6の前投与によっても同様の反応が見られました。褐色脂肪細胞におけるIL-6欠損マウスではLPSによる死亡率そのものには差がありませんが、急性ストレス曝露後のLPSによる死亡率を低下させました。同様の効果は糖負荷によっても見られました。
これらの結果から、急性ストレスは脳→交感神経依存性に褐色脂肪細胞におけるIL-6産生⇑→肝細胞における糖新生⇑→高血糖の持続を誘導することが明らかになりました。このような制御は低血糖によるglucagonなどによる血糖上昇反応とは異なっており、急性ストレス(危機)状態における闘争反応・逃走反応(fight-or-flight response)が、cortisolなどのストレスホルモンとは独立してIL-6による血糖値上昇という過程で制御されていることを示しています。しかしこのような反応は炎症に対する抵抗性を弱める諸刃の剣である可能性もあります。
私ですか?私としてはできればずっとIL-6を上昇させることなく落語でも聞いて笑っていたいものです。
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