ほうき星のことは、不安に思いながらも当たり前にある平穏な日々に感謝を捧げつつこの国にいる皆は暮らしていたの。
今年も作物はたくさん実り、山の幸も遠い海の幸も順当で大津さまが「来年の秋も今年のように民が安心して暮らせると良いのう。」と仰言っていた。大津さまは安堵にも似たような満足そうな顔をされていたわ。
武と智を備えて、慈悲深き御心が映し出された美しい表情…お顔立ち…
そんな美しい大津さまのお顔が曇り始めた。
秋の深まりを感じ女官やモトやフキを含めた侍女たちと木の実などを拾いに近くの丘まで出かけたある日大地がうねりをあげ揺れたの。
まるで大蛇が捕らえられた時の最期のような、激しい揺れ。
「皇女さま、危ない。」皆が自分のことを挺して守ってくれたことに感謝を伝えようとするとまた先ほどにも増して激しい揺れが襲ってきたの。
さすが二度目の揺れは不意で恐怖で皆私の元で目を閉じ支えあって揺れが収まるのを待つしかなかったわ。
「皆、無事なの。」と私が声をかけると「はい。」と声が聞こえ「皇女さま大変です。宮の辺りの建物が崩れ、火も上がっています。」とフキが教えてくれた。
「大津さま…」思わず宮の方へ向かおうとすると女官が「皇女さま、なりませぬ。」と私を止めて
「大津さまは大丈夫であらされます。皇女さまは大津さまからの言伝を香具山の邸でお待ちになられるのが肝要かと。」と言ってくれた。
「ありがとう。そうね、私の居場所に言伝をお伝えになられる方が大津さまも安心というもの。では戻りましょう。」と足早に戻った。
地割れした田、小さな小川も流れを変えてしまって田が浸かってしまったところがあった。
これはただごとではない…無智な私でも恐怖を感じたわ。
夕刻前には大津さまがお訪ねになり「無事で安堵したぞ、良かった。」と抱きしめてくれた。
「大津さまこそ御無事で…ようございました。」と大津さまの広い胸に顔を埋めた。
鼓動の音がいつもより早い。急いでお出でになられたのだと思うと申し訳なかった。
「大名児が宮まで馬で駆けつけ、少々怪我を致した。まさかそなたはまでとは思わなかったが。」
「私は賢い女官に止められ、ここに戻っただけにございます。」と大津さまのお顔を見ずにお答えした。
「賢い女官に礼を言う。我の妃らは落ち着かないと宮で評判にならなくて、済んだのだからの。」と大津さまは私を離し両腕を掴み、私の顔を覗き込み仰言った。
私は悪いことをして叱られた幼い児の気持ちになったわ。でも…それは私の身を案じての御言葉。
「大名児は…」
「大名児は倒れてきた柱を間一髪にすり抜け、幸い擦過傷程度で打ち身もなく済んだ。山辺、すまぬがこの邸の庭を開けてはくれまいか。」と大津さまが仰言った。
「民たちの住居を流れの変わった川の水が入り込んだり、火事で住む場所がなくなったりしたもので溢れている。怪我人もいる。語沢田の舎では既に手一杯なのだ。」
「あの広い舎でも…よくわかりました。遠慮なく。すぐに蔵も開け、粥でも炊かせましょう。」
「助かる。なにかと男出も必要であろう。舎人のシラサギと何人か向かわせる。よろしく頼む。地方からの知らせが何もないが…この大和だけだとまだ良いと思わねばならぬ。」
早馬が各地の知らせを届けだすと大津さまのお美しい顔が苦渋に満ちるまでそんなに時を要しなかったわ。
今年も作物はたくさん実り、山の幸も遠い海の幸も順当で大津さまが「来年の秋も今年のように民が安心して暮らせると良いのう。」と仰言っていた。大津さまは安堵にも似たような満足そうな顔をされていたわ。
武と智を備えて、慈悲深き御心が映し出された美しい表情…お顔立ち…
そんな美しい大津さまのお顔が曇り始めた。
秋の深まりを感じ女官やモトやフキを含めた侍女たちと木の実などを拾いに近くの丘まで出かけたある日大地がうねりをあげ揺れたの。
まるで大蛇が捕らえられた時の最期のような、激しい揺れ。
「皇女さま、危ない。」皆が自分のことを挺して守ってくれたことに感謝を伝えようとするとまた先ほどにも増して激しい揺れが襲ってきたの。
さすが二度目の揺れは不意で恐怖で皆私の元で目を閉じ支えあって揺れが収まるのを待つしかなかったわ。
「皆、無事なの。」と私が声をかけると「はい。」と声が聞こえ「皇女さま大変です。宮の辺りの建物が崩れ、火も上がっています。」とフキが教えてくれた。
「大津さま…」思わず宮の方へ向かおうとすると女官が「皇女さま、なりませぬ。」と私を止めて
「大津さまは大丈夫であらされます。皇女さまは大津さまからの言伝を香具山の邸でお待ちになられるのが肝要かと。」と言ってくれた。
「ありがとう。そうね、私の居場所に言伝をお伝えになられる方が大津さまも安心というもの。では戻りましょう。」と足早に戻った。
地割れした田、小さな小川も流れを変えてしまって田が浸かってしまったところがあった。
これはただごとではない…無智な私でも恐怖を感じたわ。
夕刻前には大津さまがお訪ねになり「無事で安堵したぞ、良かった。」と抱きしめてくれた。
「大津さまこそ御無事で…ようございました。」と大津さまの広い胸に顔を埋めた。
鼓動の音がいつもより早い。急いでお出でになられたのだと思うと申し訳なかった。
「大名児が宮まで馬で駆けつけ、少々怪我を致した。まさかそなたはまでとは思わなかったが。」
「私は賢い女官に止められ、ここに戻っただけにございます。」と大津さまのお顔を見ずにお答えした。
「賢い女官に礼を言う。我の妃らは落ち着かないと宮で評判にならなくて、済んだのだからの。」と大津さまは私を離し両腕を掴み、私の顔を覗き込み仰言った。
私は悪いことをして叱られた幼い児の気持ちになったわ。でも…それは私の身を案じての御言葉。
「大名児は…」
「大名児は倒れてきた柱を間一髪にすり抜け、幸い擦過傷程度で打ち身もなく済んだ。山辺、すまぬがこの邸の庭を開けてはくれまいか。」と大津さまが仰言った。
「民たちの住居を流れの変わった川の水が入り込んだり、火事で住む場所がなくなったりしたもので溢れている。怪我人もいる。語沢田の舎では既に手一杯なのだ。」
「あの広い舎でも…よくわかりました。遠慮なく。すぐに蔵も開け、粥でも炊かせましょう。」
「助かる。なにかと男出も必要であろう。舎人のシラサギと何人か向かわせる。よろしく頼む。地方からの知らせが何もないが…この大和だけだとまだ良いと思わねばならぬ。」
早馬が各地の知らせを届けだすと大津さまのお美しい顔が苦渋に満ちるまでそんなに時を要しなかったわ。