たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子 山辺皇女19

2019-07-14 15:42:08 | 日記
「山辺皇女さまは皇女さまのお役目があります。将来国母となられるお方。民のためにお祈りください。民が安心して暮らせるよう。民の模範となり、民が希望を持てるようにいつも笑顔であらせられるだけで私めのようなものでも有難いのです。」
薬師はなだめるように言ってくれた。

「そうね…ではせめて薬湯を民に配らせてください。言葉をかけ希望が持てるよう。私で叶うのなら。」

「それは村人も喜ぶでしょう。」

「ありがとう。またいろんなことを教えてください。」

「私などでよければ、いつでも仰言ってください。」と薬師は頭を下げ答えてくれた。

薬湯が出来、怪我をしている村人に配ったの。

初めてだったから侍女から預かった薬杯を溢れないように渡すことに一生懸命で…村人が喜んでくれたかはわからないけれど「有り難いことで…」と受け取ってくれた。

夕刻になり大津さまがおいでになった。

「薬師から聞いたぞ。今日は薬湯を配ったと。」

「私でも何か出来ることがあれば…と無我夢中でした。」

「山辺、礼を言う。村人が喜んでいた。」

恥ずかしくなって「大津さま、お背中にお薬を塗りますよ。」と申し上げると

「明後日には、村人らは家に帰れるそうじゃ。怪我人たちも家で安静にしておれば快復すると薬師が申しておった。国難でさえ、安心出来る場所を作って待っておれば民も安心して暮らせるだろう。」と大津さまは背中を向け着物を脱がれた。

私はお薬を、広いそのお背中に塗り「ようございました。」と申した。本当に嬉しかった。

「山辺、今夜は宮中に戻らねばならぬ。先の難波宮近くの村が津波で村ごとなくなったそうだ。四国の海近くの田畑が埋没したり、道後の湯が出なくなったりしたらしい。救済を急がねばならぬ。官人らを派遣させるため、手配をする。そのため宮中に戻る。許せ。」

大津さまの衣服を整えつつ「伊勢は海の近くでは…大伯さまは…」と申し上げた。

「社殿が少し歪んだと報告があった。問題ない。ただ民らの生活は悲惨なものだそうだ。租税を免じたりしなければ、また民を苦難に敷いてしまう。そんなことをさせないためにも。」と大津さまはわざと大伯さまのことをお考えにならぬようにも見えた。

「宮中の冷静な判断で皆が救われますようにお祈りいたしますわ。」

「礼を申す、山辺。」と大津さまは私を抱き寄せ直ぐに馬上の人となった。