たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子 山辺皇女21

2019-07-19 12:17:58 | 日記
「山辺皇女さま。お初にお目にかかります。石川の郎女、大名児でございます。」と言った。

「山辺じゃ。大名児殿、同じく大津さまに寵をいただくもの。そのように伏さなくともよいから。」

「いいえ、皇女であらされるあなたさまと私などのようなものが同じくには…」

「そのようなことは我が好まぬゆえと言えばわかってくれるか。」

「恐れ多くも有り難く…ここに大津さまはいらっしゃいませぬが。」と大名児は切長の瞳を伏しながら言った。

「ええ、大津さまは朝政にて…我が屋敷では村人が無事に帰った。ここ語沢田の舎で何かできることがあればと来た。薬師、工人も連れて来た故に。」

「山辺皇女さま有り難く存じまする。
先日空から石が降りました。
怪我をしたものと屋根が壊れてしまった家屋で再びこちらに戻っているものがおります。
お力添えいただけないでしょうか。」と大名児は言った。

「わかった。直ぐに薬師、工人に案内をしておくれ。」と私がいうと薬師、工人らは語沢田の舎の舎人らに案内されて行った。

「そなたも怪我をしたと聞いたが大丈夫なのか。」と聞くと

「大津さまに救われました。私は何もなく…大津さまの方が深手を負われたと道作殿に叱られてしまいました。」と大名児は恥ずかしそうに言った。

「道作殿に叱られては怖かったであろう。」と笑い言うと

「ええ、でも私がいけないのでございます。心配になり宮中近くまで来たのはよいものの大津さまの行方が分からず立ち尽くしていると急に屋根瓦が崩れ落ちて、そこを大津さまが庇ってくださり、一緒に下敷きになり助けていただいたのでございます。大津さまは大丈夫と仰言っておられましたが…ご存知であらされますか。」

「そなたは傷を見てはおらぬのか。」

「はい、そなたが気にすることはない。山辺皇女さまに手当てを頼むから…と。仰せになり…」

あの方らしいわ。傷を見せれば大名児はいたたまれないだろうのご配慮。

「もう心配はいらぬ。幸い傷による熱もなく快い方向じゃ。大津さまが助けてくださったそのお命は、困っている民に使ってあげておくれ。大津さまもお喜びになられましょう。」

少しでも大津さまの意向に沿うよう大名児殿に知ってもらいたかったの一心だったわ。