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7~8月にかけて東洋経済オンラインで紹介した高橋泰・国際医療福祉大学教授の「新型コロナ感染7段階モデル」は大きな反響を呼び、他誌やテレビでも紹介された。その後の新型コロナの日本における経過はほぼ高橋教授の予測どおりだが、その後明らかになった知見を踏まえて、7段階モデルの部分的改修を行ったという。今回はその内容と「7段階モデル」で見た現状の解釈、今後の予測を紹介する。
新型コロナは98%の人は風邪様の症状で終わる
――前回のインタビュー後4カ月間で新たな知見が加わり、新型コロナについての見方が変わった部分があるとのことですね。
動画:「感染7段階モデル」で読み解く新型コロナの感染状況
この間、新型コロナは風邪の亜種のような存在であり、98%の人にとっては風邪様の症状で終わるが、血管が傷んでいるとハイリスクの疾患であることが、ますます明確になってきた。
新型コロナにかかった身体の中で何が起きているかを、レゴで作成した細胞やウイルスも使って説明する動画をYouTubeで配信しているので、見ていただきたい。
インフルエンザは、感染するとはっきりした症状がすぐに現れ(発症)、抗体がすぐに対応し(抗体陽性)、周りの人に高い確率でうつす(伝染)。すなわちインフルエンザは「感染=発症=抗体陽性=伝染」がワンセットの、毒性が強い、伝染能力が強いウイルスといえる。
これに対して、新型コロナは感染しても無症状の人も多く、抗体もできない人がほとんどであり、周りの人にうつす可能性も低い。新型コロナは「感染≠発症≠抗体陽性≠伝染」という毒性が弱く、伝染能力も低いウイルスであることが、以前より明確になった。ただし7段階モデルで示すよう、(1)すでにある免疫(自然免疫、細胞性免疫、微量抗体など)で新型コロナを処理しきれなかったケースで、かつ、(2)血管が非常に傷んでいる人で、(3)サイトカインストームという現象が発生するという、3つの条件がすべて重なった場合、死に至る可能性がある。
GoTo以降の新型コロナの動向について解説をお願いします。
GoToキャンペーン直前に「日本でも10万人以上が亡くなる可能性がある」という予測が有名になった。一方、私は同時期に7段階モデルを用いて次のように予測した。
「地方を中心に2000万人程度が新たに暴露、その中の100万~200万人が感染し、仮にPCR検査を行えば陽性という状況になる。暴露者の2%程度に実際に発熱や倦怠感などの症状が現われ、その一部が医療機関で受診してPCR陽性となる。これまでにない多くのPCR陽性者が現れたとして地方はパニック状態となるが、じつは氷山の一角であり、多くの感染者は無症状無自覚のまま終わる。2000万人の暴露者の中から600人の重症者、200~300人が亡くなる」(参考記事:東洋経済オンライン8月7日付「新型コロナ、『2週間後』予測はなぜハズレるのか」)
暴露力は強いが、発症は拡大しにくい
ほぼ予測どおりに、PCR検査の一時的急増により石垣島などで小さなパニック状態が起きたが、これまた予想どおりに重症者や死亡者数が伸びず、比較的短期間で騒ぎが落ち着いた。新型コロナは暴露力が物凄く強く、広がり始めると、短期間で地域全体が暴露状態になるが、感染しても次の人にうつすようになる人は少なく、地域で発症者が拡大することの少ないウイルスであることがGoToキャンペーンではっきりしたと思われる。
最近でも弘前で大きなクラスターが発生したときにその後の予測を求められ、石垣と同じように短期間で収束するという見込みを述べたが、こちらも予想どおりとなっている。
感染7段階モデルのVersion2へ部分的改修を行ったそうですが、モデル自体に変更があるのですか。
基本は変わらない。風邪は、上気道の粘膜でウイルスの感染、増殖が始まると、人体の中で警察官にあたるマクロファージやCTLといった自然免疫や細胞性免疫、微量抗体が戦いを始める。この間、無症状の場合もあれば、発熱や炎症などの症状があらわれることもある。新型コロナウイルスも風邪同様の弱毒ウイルスであり、日本の場合、暴露した人のうち約98%は無症状かこのような自然免疫で対処でき、風邪様の症状で終わる(ステージ1~2)。
自然免疫の防御網をすり抜けた2%程度において、新型コロナウイルスが静かに増殖し、やや症状が重くなり、肺炎や消化器症状など全身症状が現われる人も出てくる。この段階で免疫系の細胞は「獲得免疫」の立ち上がりを促すサイトカインという物質を出して、ようやく抗体が出現する。抗体が出現すると、日本の場合98%以上で新型コロナが殲滅され、感染ストーリーが収束する(ステージ3~4)。
サイトカインの量が適切であれば回復に向かうが、1万件に対し4件以下という低い確率だが、過剰に反応してサイトカインを出しすぎる場合がある。これがサイトカインストームという現象であり、この現象が出現すると、重症化してしまう。ミサイルに例えると、6発、20発で敵を殲滅できるのに、100発出して自分の細胞まで傷つけるというイメージだ。
血管が傷んでいると重症化しやすい
サイトカインストームを引き起こすステージ5では全身で微小血栓が発生する。特に、ヘビースモーカー、糖尿病、高血圧、抗がん剤治療後などで血管がひどく傷んでいる人にサイトカインストームが発生した場合、死に至る可能性が高い。高齢者の重症化率、死亡率が高いのは、血管が傷んでおり血栓ができやすい人が多いためだと考えられる。重症化するのは、59歳まででは暴露した人が100万人いたとして1~6人、60歳以上では100万人に31人、70歳以上では暴露100万人に対して59人だ。
さらに死に至る(ステージ6)ような重症例では血栓のみならず、かなりの出血が高頻度で観察される。死に至る例は29歳まではゼロで、30~59歳では暴露100万人に対して1人、60~69歳では10人、70歳以上では44人というシミュレーション結果だ。これらの数字は以前の推計と変わらない。
暴露力は5割を超え、集団免疫が成立も
――Ver.2の主な変更点を教えてください。
5月のシミュレーションでは国民・1億2600万人の約3割、4000万人が暴露経験を持つと推計された。現在は移動制限が解かれて4カ月が経ち、5割がすでに暴露経験を持っていると考えている。50%を大きく超えて集団免疫ができる値になっている可能性も低くない。
さらに、6月以降に報告が増えた後遺症の出現を、ステージ4~5に加えた。多くはないが、こうした早期合併症は新型コロナが血管を傷つけ、血管を修復するために血小板が集まり形成される血栓により発症すると考えられる。新型コロナ特有の手足の発赤や色の変化、臭覚・味覚障害の一部など初期の軽度から中度の後遺症の多くは、血栓に由来すると考えられる。専門的になるので詳細は省くが、血栓や血管炎によって、臓器障害や、肺梗塞、腎障害、心筋梗塞、脳梗塞などにつながると重篤な後遺症が残ることが報告されている。
ステージ4以降になると、新型コロナは呼吸器疾患というよりも、全身の血管の障害による重症化や種々の後遺症が発症する疾患という性格が強くなる。「新型コロナ自体の毒性」により亡くなる方は皆無に近い。死に至る原因はサイトカインにより全身に血栓が発生してしまうことだ。
欧米と日本との重症化率、死亡率の違いは第1に日本では老人ホームや介護施設などで高齢者の隔離が適切に行われていたこと、第2は自然免疫力の違い、第3は欧米人に比べて血栓ができにくいという体質の違いというご説明でした。この点も変わらないでしょうか。
基本的に変わらない。これまで日本の高齢者施設は、徹底した感染症対策と面会謝絶などによって、ハイリスクの高齢者を欧米の施設よりも厳格に感染から守ってきた。これが、日本の死亡率の低さに大きく関与したと思われる。また、日本人は欧米人よりコロナウイルスに接する機会が多く、自然免疫による感作も働く。この2つの違いで、欧米では10%あるいはもっと高い比率で風邪対応よりも先の段階に進んでしまう。
さらに、日本人は欧米人と比べて血液が固まりにくいことも、サイトカインストームに誘発される血栓が発生しにくいことにつながり、日本の低い死亡率の一因になっていると思われる。
欧州での流行にはウイルスの変異という見方も
――現在、欧州で感染が広がり、再び部分的なロックダウンを行っている状況について、どのように考えられますか。
基本的にはGoToキャンペーンと同じで、バカンスに行き若い人を中心に多くの人が感染し、職場復帰のために全員に課せられたPCR検査により大量に陽性者が発見された。この人たちのほとんどは無症状や軽症だが、大都市を中心に新型コロナの蔓延が発生し、血管に傷害がある高齢者が感染・発症・重症化し、医療現場がかなり厳しい状況になり、ロックダウンを行わざるをえない状況になった。
一つ注意すべき情報は、「今年6月にスペインで発生した新型コロナの変異株が、バカンス中の欧州で蔓延し、今回のロックダウンを引き起こしている」というものである。この情報に接する前は、「3~4月にヨーロッパの多くの人が獲得した抗体が、バカンス前に陰性になった」ことにより、バカンスでの感染が広がったのではないかと推測していた。
新型コロナは変異しやすく、これまでも非常に多くの変異の話が出ている。感染の広がりが変異ウイルスの出現によるものなのか、単に、抗体の効果がなくなったからなのかはわからないが、今後の欧州の動向は要注意だ。
今回の変異した新型コロナが日本に入ってきたとしても、上記の日本人の対コロナに対する強みは発揮されるので、今回も欧州ほどには重症者や死亡者は増えないだろう。日本は集団免疫の状態に近づきつつあるとみている。
集団免疫が成立しているとすれば心強いです。もう少し詳しくご説明ください。
今年の1月に季節性のインフルエンザの患者が突然来なくなり、かわりにインフルエンザ抗体は陰性だがしつこい風邪様症状の患者が増えたという現象を多くの臨床医が経験している。この現象は、ウイルス干渉とよばれるものだと説明される。ウイルス干渉とは、1つのウイルスに感染すると自然免疫が誘導されて、ほかのウイルスには感染しづらくなる現象だ。
また、GoToキャンペーン開始後に東京都以外の地域でもPCR陽性者が急増し、さらなる拡大が懸念されたところ、PCR陽性者が急減に転じた。この現象が起きるにも、先に述べたウイルス干渉の現象が起きるにも、風邪と同様に極めて短期間に数千万人が暴露し、自然免疫、細胞性免疫、微量抗体などの種々の免疫の新型コロナに対する処理能力の強化が起きていることが必要になる。
データの推移から、ウイルス干渉や集団免疫が実際に発生していると私はみており、新型コロナに対する免疫の強化がなされた人が国民の過半数を超えて集団免疫的な状況ができあがりつつあり、日本で重症者数や死亡者数は2020年の春よりも少なくなると考えている。
一方、今回の欧州で猛威を振るっているのが、変異を起こした新型コロナウイルスであって、これにうまく対処できない場合、日本でもある程度蔓延し、若い人の重症者・死亡者は少ないが、血管にリスクを抱える高齢者の重症者・死亡者は増加するリスクがある。ただし、先ほど述べたように欧州の水準よりは低いはずだ。
――巷間懸念されているインフルエンザと新型コロナの同時流行は起きますか。
私は今年の1月に起きたようなウイルス干渉が起きて、両方が爆発的に広がるようなことにはならないと予想している。具体的には、冬に例年どおりにインフルエンザが流行すれば、一時期は新型コロナと併存しても、まもなく新型コロナは姿を消していく。逆に新型コロナのほうが強く出ると、インフルエンザのほうがまったく現われない可能性がある。
新型コロナよりもワクチンのほうがリスクが高い
――最後に、ワクチンについて、どう考えていますか。世界中で開発競争が行われ、日本政府も有効性・安全性が確認できれば全員に配ると意気込んでいます。
私は否定的だ。まず、ほとんどの人が無症状、軽症の感染症でワクチン接種をする価値があるかということ。次に、新型コロナは抗体陽性となっても、3カ月ほどで陰性になるということが報告されている。これも、新型コロナが弱毒で生体の細胞を刺激しないため、抗体の産生が続かないからだと考えられる。かからないためには何度も接種する必要が出てしまう。
一方、副作用は怖い。弱毒のウイルスに罹患した後に、強毒のウイルスに罹患するとADE(抗体依存性感染増強)という強毒のウイルスの爆発的増殖によりサイトカインを逆に誘発しやすいことが知られている。つまり、ワクチン接種にADE誘発の危険性がある。リスクが非常に高いと考えたほうがよい。
下記の記事は東洋経済オンラインから借用(コピー)です。
都内在住、私立中高一貫校に通う凜さんは、アメリカへの留学を目指し英語の勉強に力を入れてきた。幼少期をアメリカで過ごしていたが、幼すぎたため、あまり記憶に残っていない。高校生となり、アメリカを存分に肌で感じてみたいと思ったのが留学を目指すきっかけだった。
「私にとってのアメリカはキラキラした憧れの国でした。英語の力をもっとつけたいという気持ちも強かった。残念ながら、それが留学してみてすべて崩れ去りました」
いったい彼女に何が起きたのか。
乱闘、マリファナ当たり前という環境
凜さんが交換留学生として派遣されたのは、アメリカのとある町。米軍基地内に暮らす一家がホストファミリーとなり受け入れてくれた。
ホストマザーは白人系の物静かな人だった。家には5歳、3歳の黒人系の養子の子どもと、2歳の実子が暮らしていた。ホストファーザーは軍人で海外勤務中のため、ホストマザーがワンオペで家のことを回していた。やんちゃ盛りの男児3人は凜さんにとってはとてもかわいい存在。「よーし、ここでホストファミリーと交流して、学校で友達を作って……」と希望を抱いてのスタートだった。
学校はホストファミリーの家から通学圏内にある公立校だった。緊張しながら迎えた登校初日、そこには目を疑う光景が広がっていた。
「パジャマで登校する生徒も見かけました。みんな服装がすごくだらしない感じでした」
数日通ううちに、その異様さが次々と浮き彫りになった。授業中は雑談だらけ、日本でいう学級崩壊が起きていた。それだけではない。
「数学の授業中にマリファナをやっている人がいました。はじめは何の匂いかわかりませんでしたけど、だんだん何かわかりはじめて、トイレもそんな匂いがするし、学校の至る所で薬物が使われていました。
校内での暴力事件も頻繁でした。驚いたのは、学校で起きた喧嘩や乱闘だけを上げる専用のSNSアカウントがあったこと。誰が上げているのかわからないのですが、3日に1度は学生同士がつかみ合う動画がアップされるんです。とてもまともに授業を受けられるような環境ではありませんでした
実際にアップされた動画を見せてもらったが、狭い通学バスの中で乱闘と呼べるほどの殴り合いが起こっていた。だが、これだけひどい状況ならば彼女はなぜ斡旋団体に報告し、学校を変えてもらうことをしなかったのか。話を進めると、そこには、学生心理につけこんだ巧みな仕組みが見えてきた。
凜さんが留学するにあたって頼ったのは、海外に本部を置く留学斡旋団体だった。世界各国の留学生に海外で学ぶ機会を創出してきた団体だ。
受け入れ先となるホストファミリーもボランティアで留学生を受け入れてくれ、公立校の場合、学校の費用もかからない。凜さんは『ボランティア』という言葉から、留学生との交流を楽しみにしている温かい家庭や学校が迎え入れてくれるのだろうと想像していたと話す。
日本にも事務所があり、HPを見ると、こちらでは日本への留学の斡旋もしていることが見て取れる。日本のホストファミリー募集のページも見受けられ、心温まる交流の様子が体験談として書かれていた。
そして、HPには日本から海外へと留学するには一定の語学力が必要なことなどが書かれていた。つまり、応募しても全員が行けるわけではないということだ。費用は1年間で100万円ちょっと。年間の留学にしては少し安めの設定だが、それでもそれなりの金額だ。
ネット上の掲示板には「せっかく受かったので行かせてやりたいのですが、○○○○○からの留学はどうでしょうか?」などと、団体の名前を挙げて情報を求める親と思われる人からの書き込みも見られた。返信されたコメントは、留学はとてもいい体験になったというものだった。凜さんも留学が許可されたという連絡をもらったときはとてもうれしかったと話す。”選ばれし者になった”そんな感覚だったのかもしれない。
親子合宿で繰り返し聞かされた「NGルール」
留学前には同じ団体からその年に出発することが決まった子たちを集めての2泊3日の研修が都内で行われた。全国から50人ほどが集まっていたという。ホストファミリーと旅行を楽しむ様子や、日本人の学生が現地の生徒と楽しそうに過ごす姿など、そこには憧れていたとおりの留学風景が映像として映し出されていた。
この宿泊研修中に示されたのが、現地でトラブルが発生した場合の対処法だった。この宿泊行事は親子での参加が義務付けられていたのだが、子どもたちの自立を促すために、「日本の家族との連絡は極力避けること」と説明された。
些細なことで「帰りたい」と言い出し、親に泣きをいれて帰国することになっては、留学に出す意味がないと、真摯に説明をしているように聞こえた。
続いて出てきたのが「NGルール」。斡旋団体の関係者は「学校もホストファミリーも善意で皆さんを受け入れてくれている」と強調。まずは、現地の学校に慣れること、多少の違和感は「文化だと思って受け入れましょう」と、繰り返し繰り返し話されたという。
そのうえで、何か相談したいこと、困ったことがある場合は次の順番で連絡するように伝えられたのだった。
① ホストファミリー
② 現地にいる団体のコーディネーター
③ 自分の家族
留学生がホストファミリーや学校とトラブルを起こした場合や連絡の順番を守らずに行動したときには「NGカード」をもらうことになり、3枚たまると強制帰国になるとの説明がなされた。
「高校2年生での1年間の留学は大学受験を見据えてきている子がほとんどです。スクールイヤー1年分(実質10カ月)の留学ができたかできなかったかで、進路は変わってきます。なんとしても成し遂げたい、そんな思いでいましたから、強制帰国は避けたいというのはどの学生も同じだったと思います」
センター試験の廃止や大学の入学定員厳格化など、何かと話題の多い最近の大学入試。凜さんはまさに新入試制度の1期生となる学年だった。
近年の大学入試ではいわゆるAO入試など推薦入試も増えており、有名大学の中には1年(1学年分)以上の海外留学経験者を対象に行う入試もある。ここへの出願を考えて留学に挑む生徒も多くいるのだ。
「ルールを破って強制帰国になったら、留学経験者枠での大学への出願もできなくなります。親に大金を出してもらっているのに、それが全部無駄になるかと思うと、なんとしてでも耐えねばと強く思いました」
マリファナも暴力沙汰も文化のうち──。そう自分に言い聞かせたが、学校の荒れ具合を文化として受け入れて、そこに馴染む努力をすることに何の意味があるのか。疑問を拭い去ることはできなかった。
「貧困世帯が多くある、生のアメリカの姿を知ることができたのはよかった」と前向きに捉えようとするものの、それだけでは済まされない事態に発展していく。
ハロウィンに友達から渡された手作りのケーキ。中にはマリファナが混ぜ込まれていた。「匂いもするのですぐにわかります。食べるとちょっとふわふわした気持ちになるし、これはおかしいと思いました」。身の危険を感じたという。
家に帰ると「まるでメイド」
体を休めるはずのホスト宅の居心地も、日に日に悪くなっていた。団体の説明からは、しっかりとした食事をホストファミリーが用意してくれるものと思っていたが、実際に出されるのは冷凍食品ばかり。お腹が空きすぎて倒れそうになったこともあると言うが、家族も同じものを食べていたため、文句は言えない。しかし、凜さんには食事以外にも休まらない理由があった。
「だんだんと家事などの手伝いが増えて……はじめはちょっと子どもたちの面倒を見るくらいだったのが、洗濯も頼まれるようになり、下の子2人を毎日公園に連れていくこともいつの間にか私の役割になっていました。扱われ方もまるでメイドみたいな感じでした」
薬物と暴力の蔓延する学校、メイドのような生活……絶えきれなくなりルールどおりにホストファミリーに相談したが、何のアクションも起こされなかった。それどころか、ホストマザーとの関係は険悪になった。
「ホストマザーの気分を害したらいけないと思い、『学校がどうしても合わないから学校を変わりたい。だから、ホストチェンジをしたいんだけど』という言い方にしたのですが、その日から態度が急変。一番下の実子を『触らないで!』と言われるようになりました。ボランティアだと聞いていましたが、何か収入が減るなど、デメリットが出るのではと思ってしまうほどでした」
また、ホストファミリーから斡旋団体に苦情が入れば、それはそれで例のNGカードになってしまう──。
追い詰められた凜さんは、出発前の合宿で連絡先を交換していた日本人の生徒2人に連絡をとってみた。すると、その子たちも苦しい思いをしていることが判明した。
「彼女たちはオプション料金を払って私立の学校に入ったようで、学校に対する不満はなさそうでしたが、ホストファミリーには困っていました。1人は携帯を取り上げられ、誰とも連絡がとれない状態にされたため、学校の先生に相談、警察が動いてホストチェンジしてもらっていました。
もう1人は家がゴミ屋敷のように汚く、食事も満足にもらえていないそうでした。実際に部屋の写真も見ましたが、確かにひどかったですし、食事としてなんとドライタイプのドッグフードが出されていたんです。作るのが面倒だからコレを食べろと言われたそうです。その子は、学校で仲良くなった友達に助けを求め、自力でホストファミリーを探し、ホストチェンジしていました」
ついに行動を起こした凜さん
こうした情報を基に、凜さんも行動を起こすことを決めた。同じ米軍基地内に暮らし、学校の部活で仲良くなった子に相談、この家庭に受け入れてもらうことができたのだ。メイド扱いを受けるホストからは解放されたが、学校は変われずじまい。「このままでは頭がおかしくなる」と、12月、当初の予定を2カ月繰り上げて帰国する選択をした。
「思い描いてきた留学経験を生かした入試は、受験資格に足りず、もう受けられません。でも、それでも帰国してよかったと思っています」
帰国後は席を残していた中高一貫校に戻り、高校3年生となり元の日常生活を送っている。彼女が、留学で得たものはあったのか。
「ヒアリング力はついた気もしますが、現地校では単語を読めない生徒も多く、リーディングやライティングはほとんど向上した気がしません。ホストファミリーも学校も、団体の審査を通った所と聞いていたので安心していましたが、まったく安心できるところではありませんでした」
彼女の周りだけでもこれだけのことが起きている。としたら、なぜこれまで表に出てきていないのか。
凜さんはこう分析する。「高校生の留学は夏休みなどの短期や1年くらいが主流です。帰国後は大学受験で忙しくなりますから、留学団体に文句を言っている余裕はなく、泣き寝入りになる。それが、こうした状況を表に出にくくしている原因ではないでしょうか」
残期間の費用が返還されるケースもあるが…
では、個人手配で安全な留学を考える際、何に気をつけて見たらよいのだろうか。文部科学省のHPには、こうしたトラブルを避けるため、情報提供を行う団体の紹介がある。
その1つ、J-CROSS(一般社団法人 留学サービス審査機構)では、留学事業者が守るべきルールを作成。個々の事業者がそのルールを満たすかどうかの認証を第三者の立場で行っており、基準を満たした事業者をリスト化している。今回の団体はというと、有名な団体ながら、このリストには入っていなかった。
留学事情に詳しい、弁護士の外海周二氏はこう話す。
「昨今、留学を巡るトラブルは非常に多くなっています。途中帰国した場合でも滞在しなかった期間の費用を返還してもらえるケースもあります。日本の消費者契約法では消費者契約の解除に伴い、当該事業者が被る平均的な損害の額を超える部分の請求はできないという規定があるため、事業者から不当に返金を拒否された場合はその点を主張し、中途解約されたホームステイの残期間の代金の返還を求めることができる可能性があります。
その場合でも実際に返還されるかどうかは別問題です。とくに、相手が海外の団体の場合、交渉に時間がかかる場合も多く、現実的には難しい場合もあります。したがって、どんな団体、エージェントを通して留学に行くのかという点が非常に大切になりますから、しっかりと吟味をして選んだほうがいいでしょう」
若者の海外留学が増える今、とくに未成年子どもたちの安全を守るためにも、希望ある未来を打ち砕かないためにも、留学斡旋団体に対してのより厳格な審査が必要になってきているのではないか。