「岡崎正義のかわら版」

スピリチュアルカウンセラー「岡崎正義」が、日々感じるこの世の事象を綴っていきます。

時代小説「お幸と辰二郎」の後編です♪・・・第4章~最終章

2017年05月06日 11時04分42秒 | 小説・物語

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 時代小説「お幸と辰二郎」・・・時空を超え再会した二つの魂

 第4章・・・「沈む太陽」

 それから晴れて夫婦となったお幸と辰二郎でしたが、時が経っても、相変わらず毎日賑やかな一家のようで・・・。

 「おい!お幸! おいらの足袋はどこでぃ!」

 「フフ♪ その、肩にぶら下げているのは、なんですか・・?笑」

 「お、おう・・、誰だ!ここに掛けやがったのは!!」

 「何言ってんだい!! このバカ息子が!! ちっとは父親らしくならないもんかねぇ・・。先が思いやられるよ・・」

 「何を~!! 口が減らないババアだな! そろそろ棺桶で寝た方が良いんじゃねえのかぁ!!?」

 「はいはい♪ そろそろ出ないと遅れますよ♪」

 お幸に促され、しぶしぶ仕事に出掛ける辰二郎。

 「んにゃろぅ・・。 お~い♪ 父ちゃん行ってくるぞ♪ すっ飛んで帰ぇって来るから待ってろよ♪♪」

 口の悪い辰二郎でしたが、生まれて間もない長男には猫撫で声のようで・・・。

 お幸と抱っこされた長男に見送られ、元気に出掛けた辰二郎なのでした。


 そんな日常が繰り返され、お幸のお腹には2人目の赤ん坊が入っていたある日の事です。

 「お幸ちゃん、ちょっと寄り合いに顔出してくるから、あとで裏の洗い物取り込んどいてくれないかい」

 「はい♪ おっかさん。ゆっくりしてきてくださいね♪」

 「そうもいかないよ♪ あのバカが帰ってくるまでに戻らないと、何言われるかわかったもんじゃないよ!」

 そう言うとお吉は、近くの茶屋での寄り合いに出掛けて行ったのです。


 それから2時間ほど経った頃でしょうか。 血相変えて家に飛び込んでくる男性の姿がありました。

 「お、お、おい! お幸ちゃん!! お幸ちゃん!! てーへんだ!! お、お吉さんが!!」

 裏で洗い物を取り込んでいたお幸は、その声に慌てて土間に姿を現しました。

 「おっかさんがどうしたの!!?」

 「た、た、倒れちまって! ピクリとも・・! 動かねぇんだ・・!!」

 「!!! 巳之吉!! ここを動くんじゃないよ!!」

 長男にそう言うと、お幸は身重の身体を庇いながら、必死に茶屋へと急いでおりました。

 
 茶屋へ到着すると、お幸は奥へ飛び込み、お吉の姿を探しました。

 「おっかさん! おっかさん!!」

 すると、お吉の姿は、奥の座敷にありました。

 「おっかさん!!!」 駆け寄るお幸。

 その声が届いたのか、わずかに動くお吉。

 「おう!! お吉さんが目を覚ましたぞ!!}

 寄り合いで集まっていた一同も、一斉に声を上げました。

 「おっかさん!しっかりして!!」

 「・・あ・・、お幸ちゃんかい・・・。どうやら・・、お釈迦様が・・、お迎えに・・、来たようだよ・・・・」

 「なに言ってるの!! すぐに戻るって!言ってたじゃない!!泣」

 お幸はしっかりとお吉の身体を抱きしめながら、泣き叫んでおりました。

 「自分の身体はね・・・、自分が・・、一番・・、分かるからねぇ・・・。こりゃ・・・、どうにもならないよ・・・」

 「そんなこと言わないで!! 今からまだこのお腹のややこも産まれてくるんですよ!!泣」

 「・・会いたかったねぇ・・・、その子にも・・・」

 「いやぁ!! しっかりして!! 死なないで!!!」

 その時、物凄い勢いで茶屋に飛び込んでくる姿がありました。

 「ハァ、ハァ、ハァ!! おい!! どこだ!! ババァ!!」

 裾もはだけ、渾身の力で街を駆け抜けてきたであろう辰二郎でした。

 「・・なんだよ・・、お前は・・。いっつも・・、バカでかい・・、声だねぇ・・・」

 今にも消え入りそうな声で、お吉が辰二郎に対して答えておりました。

 「おい!ババァ!! 大袈裟に寝っ転がっているんじゃねぇ!! 早~く帰ぇるぞ!!」

 姿を見つけた辰二郎が、涙を浮かべながら、お吉に向かって怒鳴っておりました。

 「笑・・、上に・・行く時ぐらい・・、静かに出来んもんかねぇ・・・」

 「何言ってやがんだ!! ババァがいねえと、お、お幸が寂しがるだろ!!」

 「・・もう・・、大丈夫だよ・・・。お前の・・お望み通り・・、棺桶に入ろうってんだよ・・・笑」

 「な、な、な、何勝手な事言ってんだ!! 棺桶に入れるのはな!! お、お、俺がじじいになってから・・・」

 「お幸ちゃん・・・」

 お吉がゆっくりとお幸を見つめ、手を握りしめました。

 「おっかさん! なんですか!!?」

 お幸もしっかりとお吉を見つめ、握り返しました。

 「・・この・・、バカ息子を頼んだよ・・・。口は悪いけどね・・・、根は・・正直な・・子だからね・・・・」

 そう言うと、お幸の手を握りしめていたお吉の手が、ゆっくりと力を失っていきました。

 「おっかさん・・? おっかさん? !!! おっかさん!!!!!!泣」

 ゆすっても動かないお吉の身体に、お幸は気が狂ったように泣き叫び、すがりついておりました。

 そのそばで、仁王立ちで呆然とし、一点を見つめながら、絞り出すような、か細い声で辰二郎が呟いておりました。

 「・・おい・・、ババァ・・。なに寝たふりしてやがんだぃ・・・、早~く帰ぇるぞ・・・」

 ・・・・・・・

 「ババァ・・笑、何いつまで・・、寝っ転がっているんでぃ・・、聞えねえのかい・・、早~く・・・」

 「辰さん!!! もういいの!!  もう・・・、行ったのよ・・・、おっかさんは・・・泣」

 お幸はお吉の身体を抱きしめながら、うろたえる辰二郎に言葉を掛けました。

 すると辰二郎は、よろよろと足を進め、お吉の亡骸のそばに、膝から崩れ落ちるように座り込みました。

 「おい・・・、冗談じゃねえやぃ・・・。 誰が勝手に棺桶に入って良いって言ったんだ…泣」

 頭を垂れ、涙を滝のように床へこぼしながら、辰二郎が呟いておりました・・・。
 
 「・・・、おぃ・・、おぃババァ・・、バ・、おっ母・・、おっ母! おっ母!! おっ母!!!!」

 今まで我慢していたであろう感情を、ありったけの叫び声で、辰二郎はお吉にすがりながら吐き出しておりました。

 その悲痛な声は、夕焼けに染まる綺麗な街並みとは裏腹に、いつまでも茶屋に響いておりました。


 第5章・・・「普通の幸せ」 

 チーン♪
 「ババァ、行ってくるから、そこの饅頭でも食って待ってろ♪」

 お吉が亡くなって早10年、相変わらずの口の悪さの辰二郎でしたが、毎日欠かさず手を合わせるようで・・・。

 「おい!巳之吉!何してんだ!! 早くしろってんだ!!」

 「うるせいやい! 腹に何も入れずに出られるかってんだ!!」

 「何を~!!親・に・向・か・っ・て・・・!!」

 「はいはい! 親子喧嘩なら外でしてくださいよ!!」

 朝から賑やかな、辰二郎と長男巳之吉との喧嘩を、慣れた感じで収めるお幸の姿がありました。


 すっかり母親が板についたお幸は、明るい性格もあって、ご近所付き合いもお吉同様、色んな人に愛されていました。

 「お幸ちゃん♪ あのバカ亭主は相変わらず元気かい?笑」

 「フフフ♪ あの人は毒を盛っても死にゃしないよ♪」

 「ははは!そりゃそうだ!笑 お♪ これお吉さんに持って行ってくれ♪」

 饅頭屋の亭主が、お供え用の饅頭を、かつての親友お吉の為に、お幸に渡してくれました。

 「ありがとう♪ おっかさんも喜ぶわ♪」

 「何言ってんだぃ♪ 水臭いやぃ! お吉さんに、あのバカ息子に取られないように気を付けろって言っといてくれぃ♪」

 「フフフ♪」

 街のみんなの心には、亡くなって10年経っても、まだお吉さんが生き続けているようでした。
 
 そんな人情に篤い、商店街のみんなが、お幸は心から大好きでした。

 旦那の辰二郎がいて、すっかり一人前になった長男の巳之吉がいて、わんぱく盛りの次男吉五郎。

 そんな家族に囲まれているお幸は、時々しみじみこう思うです。

 『まさかこの私が普通の生活が出来るなんて・・♪ はぁ♪毎日が幸せ♪ 座長さん、お松姐さん、お吉さん、そして辰さん♪ ありがとう♪』

 今日も、夕焼けで真っ赤に染まった商店街を歩きながら、幸せな気持ちで家路につくお幸なのでした。


 「さぁ♪ こんばんは雑炊にしようかな♪」

 家についたお幸は、裏の井戸で、雑炊に入れる里芋を洗っていました。

 「土は・・、だいぶ落ちたわね♪ あとは・・、鍋の水を・・」

 里芋を洗い終わったお幸は、鍋に水を入れる為に、立ち上がって井戸の縁にある踏み石に足を乗せた瞬間、フッと立ちくらみが・・・

 体の平衡を失ったお幸は、足元がおぼつき、なんとか踏ん張ろうと井戸の縁に手をついたのですが、そこに生えていた苔がお幸の手を滑らせ、
一回転をするように頭の後ろから地面に落ち、そこにあった踏み石に頭を強く打ってしまったのです。

 「へまをしちゃった・・・。は、早くしないと・・、みんなが・・、帰ってくるから・・・、は、早く・・、しないと・・・」

 薄れゆく意識の中でも、お幸は家族の事を気遣っておりました。

 「おかしいわ・・・、なんだか眠くなってきちゃった・・・。早く・・、起きないと・・・」

 裏の井戸で段々と意識が遠のきながらも、手を空に伸ばし起き上がろうとするお幸でしたが、その瞳はゆっくりと閉じてゆきました。

 踏み石にぶつけた頭からは、ゆっくりと赤い筋が地面に伸び、今まさにお幸の命のろうそくを吹き消す勢いで、流れておりました・・。

 その頃、表の通りには、家路に急ぐ多くの人々が行き交っておりました。 仕事を終えた辰二郎と巳之吉を含めて・・・。

 
 最終章・・・「時を超え」 

 「・・・ん・・・。」

 ご飯の支度途中に転んでしまい、頭を打ち意識を失ったお幸が、ゆっくりと目を開けました。
その目に最初に映ったものは、吸い込まれそうに綺麗な、澄み切った空でした。

 「フフ♪、本当に私はそそっかしいわね笑 こんな姿見られたら、辰さんどころか巳之吉にまで馬鹿にされるわ笑」

 お幸は寝っ転がったまんま、一人でクスクス笑っておりました。

 「いけない! 早く支度しなきゃ!!」

 お幸は急いで立ち上がると、その辺に転がった里芋を集めようとしてました。

 その時、土間に続く入口に、大変懐かしい姿を見つけました。

 「・・!!座長!!」

 「久方ぶりだね♪ あれから幸せに暮らしていたみたいだね♪」

 座長は、お幸を慈しむような眼差しで、満面の笑みをたたえておりました。

 お幸は、二度と会えないと思っていた座長と再会し、嬉しさのあまり泣きながら座長に抱きついておりました。

 「座長!泣 もう会えないかと思ってました・・・泣」

 「何言ってるんだい♪ 今こうして会えているじゃないか♪」

 「はい・・・泣 本当に嬉しいです♪泣 座長のお蔭で、私は本当に幸せな毎日を送れました・・泣」

 「うんうん♪ 分かっているよ♪ お前を見りゃ一目瞭然だ♪」

 「座長・・・!泣」

 お幸は、小さな女の子に戻ったように泣きじゃくり、座長に優しく抱擁されていました。

 「そうだ♪お幸♪ もう一つびっくりさせることがあるんだよ♪」

 座長は、お幸をゆっくりと自分の身体から離し、お幸の身体をくるりと裏庭の方へ向けてあげました。

 すると!そこにはありえない人の姿が・・・!

 ・・・・・!

 「お!お!おっかさん!!??」

 なんとそこには、辰二郎の母「お吉」が立っていたのです。

 「お幸ちゃん!!久しぶりだねぇ♪」

 お吉は生前と変わらない笑顔で、お幸に言葉を掛けたのです。

 「な・な・何!!? ど、ど、どうなってるの・・・?」

 お幸は、今目の前で起きている出来事が、にわかに信じられませんでした。

 「お幸♪ お前はよく頑張ったんだよ♪ 最後はそそっかしいところが出てしまったけどね・・・笑」

 座長は、まだ困惑しているお幸の肩を、後ろからやさしく両手で包み込みながら、言葉を掛けました。

 「お幸ちゃん、信じたくはないだろうけど・・、あそこを見てごらんよ」

 自分をじっと見つめているお幸に、お吉はそっと井戸の方へ指を差しながら、穏やかに話しかけました。

 促されるように目を移したお幸は、今にも目を開けそうなくらい、まるで眠っているような、透き通った肌をして横たわる自分の姿を見つけたのです。

 「わ、わ、わたし・・・、死んだの・・・?」

 自分の手を、顔を、身体を触り、生きている時と何ら変わらない感触を確かめるお幸に、二人はそっと近づき、寄り添っていました。


 「お幸♪ こうなってしまったら仕方がないんだよ・・・♪ 大事なのはね♪ 想いを残さない事だからね…♪」

 座長がそう言うと、お幸はハッとして聞き返しました。

 「じゃあ・・、もしかして座長も・・・」

 「ははは♪ とっくにお迎えは来たよ♪ だから今度は♪ 大事なお前をお吉さんと一緒に迎えに来たんだよ♪」

 「そうだよ!♪ 親代わりの二人が来なきゃ、誰が来るというんだい♪笑」

 昔と変わらぬ豪快な笑顔で、お吉がお幸に言葉を掛けました。


 その時です。表の入口から辰二郎と巳之吉が帰ってきました。

 「おーい! 今帰ぇったぞ!! 幸! 飯だ飯!!」

 相変わらずの大声で、辰二郎が足袋を脱ぎながら茶の間に上がってきました。

 「おーい!聞えねえのか!? 幸! いるのか~!?」

 辰二郎は返事をしないお幸にいぶかりながら、半纏を鴨居に掛けようと立ち上がり、ふと裏庭に目を移した瞬間でした・・・。
そこに変わり果てたお幸の姿を見つけたのです。

 「!!!! ゆ、ゆ、幸~!!!!!」

 茶の間から縁側沿いに飛ぶように裏庭に降り、幸の身体を揺すったのです。

 「な!な!なんで!! こんなことに・・・!!!!」

 お幸の身体は冷たく、血の気は失せ、もはやピクリとも動きませんでした。

 「幸~!! なんで・・・、なんで一人で行っちまうんだよ~!!! う、う、う・・・泣」

 辰二郎は全身を悔しさと悲しさで震わせながら、お幸をギュッと抱きしめていたのです。

 「辰二郎さん・・・泣、ごめんなさい・・・・泣」

 お幸は、自分の存在がもはや辰二郎からは見えなくなった事を忘れ、辰二郎の身体をそっと包み込んだのでした。

 「俺は・・、これからどう生きていくって言うんだ!! ちくしょう!!!!!」

 辰二郎の泣き声に気付いた巳之吉と、遊びから帰ってきた吉五郎が井戸に駆け寄り、変わり果てた姿になった母お幸の姿を見て、呆然と立ち尽くしておりました。

 「お、おっ母!!泣 おっ母!!泣」

 二人の息子は、まだ現実を受け入れきれませんでした。

 「ごめんなさい! ごめんなさい!! もっと側にいたかった・・・!泣」

 その光景を一部始終見ていたお幸は、申し訳なさそうに、三人に謝っておりました。

 「お幸ちゃん・・・、こればかりはしようがないんだよ・・・。宿命というものさ・・・」

 お吉は、辰二郎たちに必死に謝るお幸を慰めるように、後ろから抱きしめてくれました。

 「さあ、悲しいだろうけどさ・・・。上に行く準備をしょうかね・・♪」

 お吉はお幸を促すように立ち上がらせ、座長と共に裏庭に降りてきた「白い光の筋」の中へお幸を導いたのです。

 すると、お幸の目の前に光の白い幕が拡がり、そこにお幸の一生が映し出されました。

 
 産まれた時。
 座長と出会った日。
 稽古に励んだ日々。
 そして、辰二郎と出会い、共に過ごした日々・・・。
 
 その幕の中に繰り広げられる「自分の人生物語」に、お幸の心はまるでもう一度体験したかのように、様々な想いが蘇ってきたのです。

 「・・・はぁ、こうして見ると、本当に私はいろんな人に助けてもらった・・・。幸せだった…♪」

 見終わったお幸は、心の底からしみじみそう感じておりました。

 「そうだよ♪ お幸ちゃんは頑張ったんだよ♪ ほら♪見てごらん♪ あのバカ息子が、ちゃんと大事な人が誰かを分かっているんだからね♪」

 息子の辰二郎が人間的な成長を遂げたのはお幸のお蔭と言わんばかりに、母としての眼差しを辰二郎に向けながら、お幸にそっと囁いておりました。

 「お幸♪ だから、あの三人の為にも憂いなく上に登るんだよ♪」

 座長もお幸に対し優しく語り掛けながら微笑んでおりました。

 「・・・分かりました♪ 上に行って、しばらく休んで、また再び巡り合えるように願います・・♪」

 お幸は決心したように上を見つめ、光が導くままに身体を任せ、お吉と座長と共にゆっくりと上がっていきました。


 「・・・いつか、必ず・・!辰二郎さんと、もう一度・・・、逢えますように・・・。」

 「いつか・・、必ず・・・」

 「いつか・・」

 「必ず・・・」

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・
 完。


 ・

 ・・

 ・・・

 ・・・・

 ・・・・・

 
 2017年3月、一人の女性が、自然豊かな生まれ故郷を離れ、大都会東京に上京してきました。

 慣れない都会に戸惑いつつ、新たな職場のドアを、彼女は今まさに開けようとしてました。

 「ふぅ、落ち着け~! 落ち着け~! ・・よし!! おはようございます!!♪」

 フロアにいた皆が一斉に彼女の方を見つめ、一瞬止まったかと思うと、また何事も無かったかのように、仕事を再開しました。

 「あちゃ~、メッチャ恥ずかしい・・・。気合い入れ過ぎた~・・・。」

 その女性は、顔を赤くしながら、玄関で縮こまっていました。

 「おぅ!おはよう! 今日からの新人さん♪?」

 そんな女性に、馴れ馴れしそうでいて、どこか憎めない態度で声を掛けてきた男性社員がおりました。

 「は、はい! よろしくお願い致します!!」

 女性は慌てて、その男性社員に深々とお辞儀をしたのです。

 「いやいや♪ そんなにかしこまらなくて良いの♪ 俺はアフターファイブ専門だから♪笑」

 その男性はケラケラ笑いながら、話しかけておりました。

 「こらー!! 森口! なに新入社員をからかっているんだ! ちゃんと仕事しろ!!」

 上司と思しき男性が、その「森口」らしき男性に怒鳴っておりました。

 「はいはい♪ 分かってますよ♪ あ、俺森口っす♪ 森口辰雄です! 皆から辰って呼ばれているから、よろしく!!」

 「あ、私、山畑です・・。山畑幸恵です!よろしくお願いします!!」

 「OK♪ 幸ちゃんね♪ 覚えとく笑 あ、美味しいもんじゃ食べに行く?」

 「こら~!森口!! 何度言ったら!!」

 「はいはい♪ 耳は聞こえてますよ! まだ若いんで!」

 「なんだと~!!」

 「幸ちゃん、また後でね♪」

 そう言うと、辰雄はフロアの人垣に溶け込んでいきました

 出社初日から賑やかなこの会社を、幸恵は不安は残りつつも、何となく気に入り始めました。

 「ふぅ、なんか・・、分からないけど、楽しく働けそうだな♪」

 幸恵は気を取り直し、人事部のドアを叩いておりました。

 数百年の時を超え、かつて寄り添った魂が、今再び巡り合った事には気付かずに・・・。

 魂がこの場所を選択したという事を・・・。

 巡り合うために東京に出てくることを決断した事を・・・。 
 
 でも、きっといつか気付くであろう・・。

 
 それが「魂の選択」ならば・・・。


 



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