中国の旅行予約サイト大手「携程旅行網」(シートリップ)の試算によると、今年3月下旬から4月中旬の桜の開花時期に訪日した中国人観光客の数は35万人を超え、前年同時期の2倍以上になったという。これは今年2月の春節(旧正月)休暇の訪日観光客と同水準だ。
今年は円安によって中国人観光客が急増し、通年化の兆しも見せている。しかし、受け入れ態勢はできているのだろうか。
私の会社の運転手は「いま、銀座中央通りがすごいことになっています。片道2車線なのに、バスがズラーッと並んで通れないんです」と嘆いていた。銀座7丁目の「ラオックス銀座本店」が朝10時に開くと、中国人観光客を乗せたバスがどんどんやってきて、夜9時の閉店まで、入れ代わり立ち代わり駐車しているからだ。
中国人のお目当ては銀座初の大型免税店の「ラオックス」と、8丁目の「ドン・キホーテ銀座」本館が中心だが、最近は高級アパレル・ショップにも足を延ばして“爆買い”するようになった。
1台のバスに50人が乗り、それが20台も並んだら1000人。銀座通りは、これだけ多くの人が一気にやってくることには適していない。まず、トイレが足りない。そこで、高級レストランなどいろいろな店に「トイレを貸してくれ」と飛び込んでくるのだという。とくに子供は我慢できない。店が断ると、表通りでしてしまうらしい。
これでは、いつか銀座は持ちこたえられなくなる。バスの数を制限するとか、バスの停車そのものを止めさせるぐらいのことをしないといけないのではないか。
花見シーズンの中国人訪日観光客の総消費額は70億元(約1370億円)ともいわれる。買ってくれるのはありがたいが、銀座商店街は早くインフラを整備しないと大変なことになる。
中国人の“爆買い”は日本だけではない。9日の日本経済新聞によると、豪州のシドニー湾と観光名所ハーバーブリッジを一望できる大豪邸が転売されたことについて、豪当局は先月、「違法な購入だった」と90日以内の売却命令を出したという。
購入したのは、中国有数の不動産企業「恒大地産集団」(エバーグランデ)傘下の豪企業。英国領バージン諸島など複数のペーパーカンパニーを通じて購入したという。
もともと豪州には、かつて日本人が土地を買い過ぎたため、「外国人が買うのはいいが、豪州人にしか転売できない」という法律(FIRB)がある。日本人同士が転がして地元の人に手が出なくなるのを防ぐための法律だ、と言われていた。
それでも、中国人富裕層は話題になった地域を通常の何倍もの値段で買っていく。この“爆買い”によって住宅不足が深刻化し、値段も上がる一方。そこで豪政府は、外国人の住宅購入時に5000豪ドル(約46万円)を課税すると発表した。
中国人の“爆買い”はシドニーからブリスベーン、ゴールドコーストに広がっている。ロシア人の買いが活発な地域も散見される。メルボルンももともと中国人の人口が多い。この先、中国の不動産崩壊でリスクヘッジのために太平洋周辺諸国に中国の不動産バブルが一気に波及する、というシナリオが現実味を帯びている。しばらくは目が離せない。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。