ニクソン元大統領が野党民主党へのスパイ活動に関わった事件で、ニクソン自身ががFBIに捜査の中止を命令するなどの関与が明確になり、辞任に追い込まれた所謂ウォーターゲート事件になぞらえ、トランプのケースをロシアンゲート事件と呼んでいる。
2016年アメリカ合衆国大統領選挙において共和党のトランプを勝利させるために、ロシアがサイバー攻撃やSNS等のプロパガンダの手段を使って行ったとされる一連の世論工作、選挙干渉等の事件捜査に関しトランプが妨害を行った疑いがあり弾劾裁判等ニクソン同様、大統領辞任につながる可能性があると言われる事件である。
2016年10月、アメリカ国土安全保障省が、大統領選挙においてサイバー攻撃による妨害が行なわれていたことを認める声明を出したが、大統領選は11月8日に投票が実施されトランプは僅差で当選を決めた。 同年12月9日、米紙『ワシントン・ポスト』は、アメリカ中央情報局 (CIA) の秘密評価報告書を引用し、「サイバー攻撃はロシア政府機関のハッカー集団によるもので、ドナルド・トランプ側の勝利を支援するものである」と報道した。
12月29日、オバマ大統領(当時)は、ロシア政府が米大統領選に干渉するためサイバー攻撃を仕掛けたとして、アメリカ駐在のロシア外交官35人を「 Persona non grata=好ましからざる人物」として国外退去処分、2つのロシア関連施設閉鎖など新たな制裁措置を発令した。
これに対してロシア政府は猛烈に反発し、トランプ陣営も「ロシアが攻撃した証拠はない」と表明し、翌年5月9日、ロシアの選挙介入とトランプ氏の選挙活動との共謀の可能性に関して捜査していたジェームズ・コミー連邦捜査局 (FBI) 長官を解任した。
後日、トランプは、解任理由として「コミーは目立ちたがり屋で、組織を混乱させていた」ことを挙げている。(これについては、コミーではなく自分のことだろうと揶揄する報道が多数あったと伝わって来ている。)
これに対しアメリカ司法省は司法の独立を死守すべく、その対抗手段として5月17日トランプ大統領の陣営がロシアによるサイバー攻撃などに関与したのではないかという疑惑に関連し、ロバート・ミュラー元連邦捜査局長官を特別検察官に任命した。
2018年2月16日、ミュラー特別検察官はソーシャルメディア(TwitterやFacebook)でアメリカ人になりすましたアカウントを作り、世論工作を行った容疑でロシアの個人13人と企業3社を起訴したと発表した。容疑者達は政治集会やソーシャルメディアでフェイクニュースを流布するなど、トランプ政権に繋がりのある人物を複数回接触していたことが明らかとなっている。
7月26日、FBIはトランプ大統領の選挙対策本部長だったポール・マナフォートの自宅を家宅捜索し税金関連の書類や外国金融機関の取引記録からマネーロンダリングや脱税など12の罪で、又トランプ陣営で外交顧問だったジョージ・パパドプロスを偽証の罪でそれぞれ起訴した。
また、12月1日には、フリン前国家安全保障問題担当大統領補佐官を連邦捜査局に対する偽証の罪で起訴した。
大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニアらがロシア人弁護士と面会した問題を巡って大陪審を招集し長男本人に召喚状を出した。
6月8日、ミュラー特別検察官はマナフォート元選対本部長を自身のマネーロンダリングと銀行詐欺の公判における証人2人に対し政治コンサルタント・キリムニック被告を通じて接触し、偽証するよう働きかけた為司法妨害罪で追起訴し、政治コンサルタントを同罪で起訴した。
7月13日、ミュラー特別検察官は民主党関係施設などをサイバー攻撃を行ったとして、ロシア連邦軍参謀本部情報総局の情報当局者12人を起訴した。
以上の通りトランプ包囲網は急速に狭まりつつある。
トランプはプーチン大統領との会談で疑惑解消の為の証言を得る積りであったが全くの逆効果で国内から多くの批判が集まった。
堪りかかねたのか8月1日ツイッターで「これ以上米国を汚す前にこの不正に仕組まれた魔女狩りを今すぐやめるべきだ。」という子供じみた批判で多くの失笑を買っている。ミュラー特別検察官が自身への度重なる批判に対し司法妨害疑惑でトランプから事情聴取する意向があると聞き上記ツイートに繋がったらしいが司法妨害には妨害の意図を立証する必要があるが、今回のツイート自体がその証拠になる可能性すら指摘されている。すべてトランプがコミーFBI元長官を突如解任したことに端を発する、浅慮・短慮の自からが蒔いた種、身から出た錆である。
ロシアによる工作は、ヨーロッパ各国の選挙や政治でも指摘されている。
先日NHKBS1スペシャルで放映された「フェイクニュースを阻止せよ」の内容は凄まじい内容であった。
極右政党のル・ペンを誕生させEUを瓦解・大混乱に陥れようとマクロン現大統領陣営への攻撃は激烈・執拗を極めた。フェイスブック、ツイッター、インスタグラムといったSNSを駆使しマクロン氏に関し「アラブの資金」「米国の代理人」「同性愛」「隠し口座」等々…誹謗・中傷・でっち上げスキャンダルがフランス中を駆け巡った。
発信元に”ル・ソワール”と言うベルギーの新聞を使った場合もあるが「ル・ソワール」のデザインをまるごとコピーした偽物だったという手の込みようである。
マクロン陣営は数回に亘りサイバー攻撃を受け、多量の文書流出が発生したが、この調査を行ったセキュリティ会社「トレンドマイクロ」は、その手口から、米大統領選で民主党全国委員会などのサイバー攻撃を行ったロシア政府傘下のハッカー集団「ファンシーベア」によるものと認定している。アメリカの国家安全保障局(NSA)長官で米軍サイバー司令官のマイケル・ロジャーズ氏も、アメリカも米上院軍事委員会の公聴会で、フランス側にロシアによるサイバー攻撃について警告していたと証言している。
しかし選挙投票の得票率はマクロン氏66%、ルペン氏34%で略当初の予想通り、フェイクニュースやサイバー攻撃の影響は伺えなかった。
マクロン陣営のサイバー攻撃対策や、フランスの検察当局の迅速な動きに見られるように、米大統領選の混乱を目の当たりにして、かなりの分析と学習をしていたことは明らかだ。
NHKBS1の放送でも強調されたがフランス・メデイアの民主主義を守るための頑張りも大きかった。米大統領選でのフェイクニュースの氾濫を目の当たりにし、仏の大統領選に向けて対策に取り組んで来たのである。
ニューヨーク・タイムズはメディア環境の違いをあげる。フェイクニュースを阻止するために社を上げて闘ったフランスの新聞リベラシオン、その編集局長、ヨハン・ハフナゲル氏はこう述べている。フランスにはFOXニュースがないからだ。(FOXのように)幅広い視聴者とパーソナリティを持ち、(フェイクニュースなどの情報を)積み上げて、それを自身のアジェンダのために使おうとする放送局がないのだ。アメリカと違ってヨーロッパの民主主義は筋金入りであることが明白である。
サイバー攻撃の発信元は次の標的はドイツ・メルケルだと公言している。 この人物はトランプに近い米国の右派サイト「ディスオビディエント・メディア」や、トランプ支持で知られる米国の右派ライター、ジャック・ポソビエックと言われている。
只、米欧の超党派・官民が連携してこれに対応しようとする「Alliance for Securing Democracy」(ASD) というグループが活動を始めている。このうち2016年米大統領選問題は、在米ドイツ系財団GMF (German Marshall Fund of the United States) を拠点とする「ハミルトン68」が担当している。
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