今から行う高校生向けの模擬授業の内容です。うまくいけばよいですが…
赤ちゃんのいのち
●みなさん。こんにちは。今日は、赤ちゃんの話をします。赤ちゃんは、かわいいですよね。赤ちゃんは、ちょっと前まで、お母さんのお腹の中で暮らしていました。お腹の中から、私たちの世界に飛び出てきました。
●産まれる前の赤ちゃんは、「胎児」と呼ばれます。胎児はかわいいですか、と聞かれると、少し返答に困ります。かわいいのかどうか、よく分かりません。
●赤ちゃんとして生まれるためには、約10か月、胎児として生き続けなければいけません。それは、意外と大変なことです。途中で力尽きて死んでしまう胎児もいます。また、産まれる直前に力尽きてしまい、死んで生まれる赤ちゃんもいます。流産や死産という現象です。流産率は13パーセントほどと言われています。親の年齢が上がれば上がるほど、流産率も上がっていきます。
●さらには、様々な事情で、特にお父さんとお母さんの事情で、その胎児のいのちを医療的に終わらせることもあります。人工妊娠中絶といいます。この数年のデータでいえば、毎年20万組の夫婦が、この中絶を決断しています。流産や死産とはまた違った悲しさがそこにあります。
●赤ちゃんはかわいいですよね。ですが、その赤ちゃんをかわいいと思えずに、苦しんでいるお父さん、お母さんというのもいます。「産後うつ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。出産後に、どーんと気持ちが沈んで、育児をうまくできないお母さんもいるのです。
●また、経済的な理由から、赤ちゃんを産んで何カ月も経たないうちに、働かなければならないお母さんもいます。生きていくお金がないのです。そのために、本当は赤ちゃんと一緒にかけがえのない時間を過ごしたいと思う気持ちがあるのに、泣く泣く働かなければならないお母さんもいます。お父さんに限っていえば、いつも泣いています(苦笑)。育メンの道はとても厳しいです。
●そうした様々な背景のなかで、日々の保育が営まれています。親の育児と保育士の保育は深く密接につながっています。赤ちゃんが産まれて、生きている、それだけで実はとても凄いことなのかもしれません。
●最後に、みなさんに聴きたいことがあります。「無痛分娩」という言葉を聞いたことがありますか?
●赤ちゃんを出産する時、そこにはとてつもない痛みが生じます。「陣痛」という言葉は、聴いたことがあると思います。
●この痛みを抑える分娩=出産を、「無痛分娩」といいます。みなさんは、もしこの無痛分娩にかかる費用がかからないとしたら、それを希望しますか? それとも、希望しませんか?
●希望する→●● 希望しない→●●
●どうしてですか?
●無痛分娩をすると、母親の愛情は生まれないのでしょうか? 痛みを伴わないと、いいお母さんになれないのでしょうか。痛みを経験しないお父さんは、いい親になれないのでしょうか。やむを得ず帝王切開で出産することになったお母さんは、個人差はありますが、痛みを経験しません(その夜はたいへんですけれども)。
●日本人は、「痛みをもって母親になる」、という独自の考え方があります。それだけ、母親に子育てを期待していることの現れともいえそうです。けれど、それは本当でしょうか。子育ては、そういう痛みを経験しないと、できないものでしょうか。そうすると、赤ちゃんを産んだ経験のない保育士は、保育=子育てができない、ということになってしまいます。また、痛みをもって産んでも、その後、虐待をしてしまう親もいます。
●妊娠、出産、子育て、保育、これらの世界は、分からないことだらけです。でも、だから面白いとも言えます。是非、こうしたことに興味をもって、自分で調べたり、考えたり、友だちと議論したりして、色々と考えてみてください。そういうことが面白い!と思えたら、きっとあなたは保育者に最適なのだと思います。