背寒日誌

2024年10月末より再開。日々感じたこと、観たこと、聴いたもの、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

「憎いあンちくしょう」

2005年12月21日 02時19分42秒 | 日本映画

 1ヶ月近く記事を書かなかった。実は、仕事で超多忙の日々が続き、映画を1本も見られなかったからだ。ようやく仕事も一段落。これからまた好きな映画のビデオをゆっくり見られる時間が持てそうだ。また、買い貯めした中古ビデオも30本近くあるので、気に入った映画があれば、まめに感想を書いていこうと思う。
 ブログ再開にあたり、まず取り上げたい映画は、石原裕次郎と浅丘ルリ子が共演した「憎いあンちくしょう」である。昭和37年公開の日活作品で、山田信夫の脚本を蔵原惟繕が監督した話題作だった。ビデオを見たのは今度が二度目で、初めて見たときよりもずっと面白く感じた。題名も変わっているが、映画の内容も常識はずれなのだ。男と女の愛を描いた映画にしては、ちょっと類を見ない作品だと言える。
 マスコミで売れっ子の新進作家を裕次郎が、そのマネージャーをルリ子が演じている。実はこの二人、恋愛関係にあるのだが、仕事の契約上から、決して肉体的接触を持たないという取り決めを頑なに守っている。裕次郎の方が次第にじれて来て、ルリ子に迫ろうとするのだが、あえなく拒まれてしまう。裕次郎がその愛に疑問を抱き始めたちょうどそのとき、新聞の求人欄で、変った広告を見つける。それは、中古のジープを東京から九州まで無料で運送してくれる人を求む、というものだった。広告主は若い女(芦川いづみ)で、こつこつ働いて買ったジープを、九州の僻村で医者をしている恋人の男(小池朝雄)にプレゼントしたいというのだ。裕次郎はこの話に感動し、番組をすべてキャンセルする覚悟で、ジープを運ぶ役を買って出る。マネージャーのルリ子は引き止めようと説得するが、裕次郎はそれを振り切って、ジープに乗って東京を出発してしまう。彼の後を車で追いかけるルリ子。映画の3分の2はこうした追跡劇なのである。
 少々あらすじが長くなったが、この映画の面白さは状況設定の特異性にあると思う。まず、遠距離恋愛の男女(いづみと小池)と近距離恋愛の男女(裕次郎とルリ子)との対比があり、そして、愛を信じて疑わない女(いづみ)と愛を信じられなくなった男(裕次郎)の対決がある。結局、裕次郎とルリ子の二人が互いに追い求めあう行動の中で愛を高め、本当に結ばれる。それに対し、遠距離にいる男女の愛は崩れ去り、愛を信じていた女(いづみ)は皮肉にも恋人の男に裏切られてしまう。この映画で蔵原監督が描きたかったのは、愛はスタティック(静的)なものではなく、ダイナミック(動的)なものであり、行動によってそのボルテージが高まるという「愛の力学」にほかならない。
 「憎いあンちくしょう」は、ストーリーの意外な展開に加え、スピード感あふれる画面構成が素晴らしい。とかく陳腐になりがちな愛のドラマを大胆に映像化した稀な作品である。この映画は今見ても決して古くない。むしろ新鮮に感じた。特に、浅丘ルリ子の熱演ぶりが見もので、彼女のキュートな魅力が遺憾なく発揮されていることを付け加えておきたい。

コメント
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