背寒日誌

2024年10月末より再開。日々感じたこと、観たこと、聴いたもの、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

桃井かおり

2005年12月22日 01時00分36秒 | 日本映画

 桃井かおりは、私と同年同月に生まれたこともあって、ずっと親近感を抱いて見てきた女優である。彼女は、不可思議な魅力があり、言動も奇抜で、映画女優の概念を塗り替えた張本人だとも言える。同時期(70年代前半)にデヴューし、私と同世代の女優には、秋吉久美子、関根恵子(現在高橋姓)、松坂慶子、岡崎友紀などがいたが、桃井かおりだけが今も生き残っているようだ。松坂慶子はこの間テレビ・ドラマで母親役をやっているのを見かけたが、もう主役を張るだけの人気も美貌も消えてしまった感がある。ずいぶん中年太りしたなあ、という印象を受けた。桃井かおりは、53歳になった今でも、相変わらず魅力的だし、あの独特な個性を発揮し続けている。テレビで歌番組の司会をやったり、CMに竹中直人と出演したり、世間の注目度も依然衰えていない。こんなことを書いている私は、実を言うと、桃井の出演した映画をこの20年以上見ていない。ただ、現在も活躍している彼女の姿をテレビで見て、ほっとするというか、励まされるような気持ちになる。私はそんな勝手なファンの一人なので、桃井の出演したお気に入りの映画も70年代後半から80年代にかけての作品に偏っている。
 桃井かおりを初めて見た映画は確か日活ロマンポルノだった。秋吉久美子と混同しそうなので、調べて見たところ、藤田敏八監督の「エロスは甘い香り」だったようだ。ただ、この映画、内容をすっかり忘れてしまったので、コメントのしようもない。ヌードになった気もするが、確かではない。
 「もう頬杖はつかない」は、桃井の個性が十分発揮された映画だった。監督は東陽一、共演は若き日の奥田瑛二。この映画もずいぶん昔に一度見た限りなので、記憶が定かではないが、若い男と女の同棲生活を面白おかしく描いていた。男女の気持ちのズレと互いに通じ合えない歯がゆさ、育ちや習慣の違いから起こる苛立ちなどを、いかにも東陽一のタッチで映像化した作品で、桃井の出世作だったと言える。

 特に印象に残っているのは、奥田が桃井の歯ブラシを使って歯を磨いていたところ、それを見つかって、桃井になじられるシーンだ。きょとんとした奥田を尻目に、歯ブラシをもぎ取った桃井が、水道水で入念に洗いながら、「何、この人!もういやだ。そんなことやめてよねー」みたいなセリフで、ぼやきまくる。そのブーたれた表情がいかにも桃井らしかった。演技なのか、地なのか、境目が分からない。けだるく、気まぐれで、突然むかっ腹を立てる。こんな女と同棲したら、男は大変だなあ、とつくづく思ったが、その反面、女優桃井かおりの魅力に私は感服してしまった。
 松本清張原作、野村芳太郎監督の「疑惑」は桃井かおり主演の傑作である。桃井は、金持ちの老人の愛人役で、「熊子」という名前の悪女を見事に演じている。この映画の桃井は最高に良かった。タバコをプカプカふかして、記者団のインタヴューに答えるときの熊子の開き直った、あのふてぶてしい態度は、目に焼きついて離れなかったほどだ。まさに桃井かおりの独壇場だった。共演の岩下志麻を完全に食ってしまった。

 もう一つ、五木寛之原作、蔵原惟繕監督の「青春の門、自立編」の桃井かおりが素晴らしかった。いや、こんな美しい彼女を見たのは初めてだった。主役は若き日の佐藤浩一で、新宿の赤線に女を買いに行くのだが、そこで現れる妖艶な娼婦が桃井かおりなのだ。この映画で桃井は脇役に過ぎなかったのだが、その存在感は際立っていた。
 ほかに「幸福の黄色いハンカチ」の桃井も良かったが、この作品自体が私はあまり好きでないので、彼女の魅力を語るはここまでにしておこう。
コメント
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