◇宇治拾遺物語・ 藤大納言忠家物言ふ女放屁の事
【五島弁珍訳】(原文は珍訳の下にあります)
昔ん話よな。藤大納言忠家ちいう人ん、 そこそこ偉い位じゃったころに、別嬪さんであっちん方が達者かお姫さんと逢引ばして夜も更けっきたところに月ん昼より明るかごてしちょったもんじゃてん、月見を口実にいちゃついてやろだいちカーテンばくぐって外に連れっ行って肩ば抱いてくっつこだいちしたら、お姫さんが「おわらー、おすけべー」ち突き放そうちした瞬間、ざーまに太か屁ばへっかませっしもたっちた。お姫さんは言い訳もしきらんで力ん抜けっ塩ばかけられたナメクジんごてなってしもたっちた。大納言は知ろごちゃなかったおめれんなか姿ば見せられっしもた。世間とかかわっとのうんじゃなこっち思う。坊さんになって別世界へ行こよ」・・・・
【原文】
今は昔、藤大納言忠家といひける人、 いまだ殿上人におはしける時、 びびしき色ごのみなりける女房と物言ひて、 夜ふくる程に、月は昼よりもあかりかるけるに、 たへかねて御すをうちかづきて、なげしの上にのぼりて、 肩をかきて引きよせけるほどに、髪をふりかけて、 「あな、あさまし」といひて、くるめきける程に、いとたかくならしてけり。 女房はいふにもたへず、くたくたとしてよりふしにけり。 この大納言、 「心うき事にもあひぬる物かな。世にありてもなににかはせん。出家せん」・・・