のほほん書斎(日高茂和)

源氏物語を読み終えて

源氏物語を瀬戸内寂聴訳でようやく読み終えた。

光源氏の在世中の物語と「宇治十帖」と呼ばれている光源氏亡き後の物語の大きく二部構成になっている。「宇治・・」のトーンが前半と違うのは、作者の紫式部が「宇治十帖」を宮仕えを終えて出家した後に書いたのではないかと寂聴尼は推測されている。

私が、驚き、目をみはり、物語にどんどん引き込まれたのは、宇治十帖にはいって
からである。

題材は源氏の長男の薫と皇子である匂宮という、光源氏ばりのスーパーヒーローと
三人の皇孫である姫宮をめぐる物語だが、色濃く漂う仏教的無常観とさまざまな仏
事を素材にした物語展開に、当時の仏教受容と定着のありようが、日本文化に大き
な影響をもたらしていることへの感慨を深くした。

また、描き出される人の心の織りなす綾に、恋愛を通して人というもの、世の中と
いうものを表現しているのに感じるものがあった。

手短に、この物語はどういう人の心を描いた物語なのかを私なりに表現すれば、物語中、約八百首詠まれている和歌のなかの二首に象徴されているように思う。

光源氏が正妻である葵の上を亡くしたときに詠んだ

「昇りぬる煙はそれとわかねどもなべて雲居のあはれなるかな」

と、薫と匂宮とに翻弄された苦悩から入水自殺するが、蘇生したのちに念願の出家

を果たし、心の成長をとげる浮舟の君が詠んだ

「われかくて憂き世のなかにめぐるとも誰かは知らむ月の都に」

この二首である。

出会いと別れのなかに人生が進んでいく。

この時代、「世の中」という言葉には、男女の仲という意味もあった。もちろん、
今で言う世の中という意味も表した。

源氏物語という、世の中を華麗に、またしみじみと描き出した世界に誇る古典文学
を、著作から千年という記念すべき年に読むことができて、心に新たな宝を得たよ
うな心地がしている。
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