雨はしばらくしてやんだ。坊様は、うっすらと陽が差してきた空を見上げてほっとしたように息をつくと、小屋へと戻った。
小屋の中には水溜まりが幾つも出来ていた。それらを見回して、はてどうしたものかと思案していると、がたぴしと引き戸を鳴らしながら、おときばあさんが入ってきた。手には風呂敷の包みがあった。
「おや、お坊様、朝から水浴びかね?」
「いや、これは雨漏りでなあ……」
「ああ、さっきの雨かい。雨の前に帰って良かったよ。……でも、これじゃあ、外と変わらんね」
「いやいや、雨さえ降らねば、ここは良い建物じゃ」
「はは、負け惜しみを言っていなさる」ばあさんは笑うと、手にした風呂敷を坊様に渡した。「ちと遅いが朝飯か、ちと早い昼飯じゃ。なんせあの雨の中、持って来れなんだでのう」
「おお、これはありがたい。いつもすまんのう」坊様は手に取ると、ばあさんに頭を下げた。「……そろそろばあさんの飯も終わりかのう」
「終わりって…… それじゃあ、亡者どものケリが付きそうなのかい?」
「まあ。そんな所じゃな」
「そうかい…… で、その後はどうなさる?」
「拙僧は、一所に落ち付けぬ性質でなぁ…… また、どこかへ行く事になろうのう……」
「さようかい。近くにお住職の居らんくなった寺があるがの」
「拙僧には無理じゃ」
「この掘っ立て小屋よりは雨に濡れぬぞ。まあ、考えておいておくれな」
ばあさんが帰ると、坊様は風呂敷をほどいた。不格好だが大きな握り飯が三つと、大根の漬物が五切れ、竹の皮でくるんであった。大柄な坊様には嬉しい量だった。
「……ふむ、寺の住職か……」坊様は呟く。「悪くはないかのう……」
握り飯を立ったまま頬張った。
「……さて、今宵が勝負じゃな。あの封の石を除かす者が現われるやもしれぬ。見張るには……」坊様は先に雨宿りをした樹を見つめた。「あそこが一番良いようじゃ」
坊様は握り飯の包みを抱えながら外に出た。樹の根方に座り込み、続きを頬張る。
うららかな昼の時が流れて行く。いつしか坊様は眠ってしまった。
つづく
小屋の中には水溜まりが幾つも出来ていた。それらを見回して、はてどうしたものかと思案していると、がたぴしと引き戸を鳴らしながら、おときばあさんが入ってきた。手には風呂敷の包みがあった。
「おや、お坊様、朝から水浴びかね?」
「いや、これは雨漏りでなあ……」
「ああ、さっきの雨かい。雨の前に帰って良かったよ。……でも、これじゃあ、外と変わらんね」
「いやいや、雨さえ降らねば、ここは良い建物じゃ」
「はは、負け惜しみを言っていなさる」ばあさんは笑うと、手にした風呂敷を坊様に渡した。「ちと遅いが朝飯か、ちと早い昼飯じゃ。なんせあの雨の中、持って来れなんだでのう」
「おお、これはありがたい。いつもすまんのう」坊様は手に取ると、ばあさんに頭を下げた。「……そろそろばあさんの飯も終わりかのう」
「終わりって…… それじゃあ、亡者どものケリが付きそうなのかい?」
「まあ。そんな所じゃな」
「そうかい…… で、その後はどうなさる?」
「拙僧は、一所に落ち付けぬ性質でなぁ…… また、どこかへ行く事になろうのう……」
「さようかい。近くにお住職の居らんくなった寺があるがの」
「拙僧には無理じゃ」
「この掘っ立て小屋よりは雨に濡れぬぞ。まあ、考えておいておくれな」
ばあさんが帰ると、坊様は風呂敷をほどいた。不格好だが大きな握り飯が三つと、大根の漬物が五切れ、竹の皮でくるんであった。大柄な坊様には嬉しい量だった。
「……ふむ、寺の住職か……」坊様は呟く。「悪くはないかのう……」
握り飯を立ったまま頬張った。
「……さて、今宵が勝負じゃな。あの封の石を除かす者が現われるやもしれぬ。見張るには……」坊様は先に雨宿りをした樹を見つめた。「あそこが一番良いようじゃ」
坊様は握り飯の包みを抱えながら外に出た。樹の根方に座り込み、続きを頬張る。
うららかな昼の時が流れて行く。いつしか坊様は眠ってしまった。
つづく
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