二十数年前、埼玉県の神泉村に、友人達と家を借りた。
その頃ブームになり始めた、" 田舎暮らしの本 "で見つけた家だった。
1年分の家賃がたったの1万円。
あまりの安さに少し不安があったが・・・・
神泉村は埼玉県北西部にある村で、近くに群馬県と埼玉県を分ける
神流(かんな)川がある。 その上流には神流湖があり、城峯公園の
冬桜はよく知られている。
窓口になっている役場に問い合わせてみると、過疎化がすすむ村興しの
ために、役場が中心になってやっているという話だった。
他にも村の物件を雑誌の中でいくつも紹介していた。 みんな安い家賃
だったが、その家だけ、どういうわけか飛び抜けて安い。
この物件を問い合わせると、本で広く紹介されている格安物件なのに、
まだ大丈夫ですよ!

でも役場で扱っているんだからと、役場の人と見に行く日時を打ち合わせ、
友人数人と車で見に行った。 神泉村そのものは、静かな山あいの村で、
とてもいいところだった。
打ち合わせた日、そこで案内係りの人が運転する車に乗り換え、家を見に
行った。 途中、遠回りして村自慢の所をあちこち案内してくれた。
その車の中で・・・・
「ずいぶん安いけど・・・・
何かイワクのある家、なんていうじゃないんだろうね?」
「まさか、役場でそんな物件の紹介しませんよ~」
(そうだよな、役場だもんな。 ホッとして友人と顔を見合わせた。)
「見ればわかります」

「見ればワカル~??

屋根がないとか?
壁に寄りかかったら、そのまま倒れるとか・・・・
歩くと床が抜けるとか・・・・ 」
「アッハッハッ、そんなにひどくないですよ~!

「そんなに・・・・ ヒドくない?・・ でも近い? 」
「見ればわかります」
車は村外れの山の麓の、まばらに4、5軒の集落のある所に着いた。
車を降り、坂を少し登るとその家があった。
見てすぐなぜ1万円なのかわかった。
ずっと人が住んでいないそうで、ほとんど廃屋に近い家だった。
木枠のガラスの引き戸を開けて中に入ると、すぐ目の前に10畳ほどの
部屋があり、真ん中に囲炉裏が切ってある。 じつはこの家、もともと
この一部屋しかなかったらしい。 ここで家族が飯を炊き、ここで食べ、
寝ていたのだ。
天井板はなく、黒ずんだ梁はそのままむき出しになっている。
昔よくあった古い田舎の家である。 雨漏りはそれほどしない(!)
そうだが

薄っすら土が積もっている。 築6、70年以上はたっているだろう。
家族連れが見たらまず借りっこないような家だった。
救いはこの部屋の奥に増築されたという、4畳半の部屋がついていること
だった。 こちらは囲炉裏の部屋よりはずっと新しく、押入れの付いた
畳の部屋でそのまま使えそうだった。 よくおぼえていないが、風呂は
ないか、壊れていて、村の民宿で有料だが使わせてくれるらしい。
持ち主は村の別のところに住んでいて、数年のうちに取り壊す予定だから、
どこをどうしようが勝手にしていいという。 これは男ばかりで行ったから、
大いに魅力的な話だ。 普通の家を借りるより、かえって面白そうで、
みんな大喜びですぐ借りる契約をした。
「梁にロープを掛ければ、ブランコが作れる。 子供たちが喜ぶぞ~」
「あの囲炉裏で釣った川魚を焼いて、酒を飲んだらうまいだろうな」
などなど。



東京に帰ってから、他の友人たちにもこんなだったと声をかけたら、
結局10人ぐらいが集まった。 そして田舎暮らしの楽しい準備が
始まった。
-続く-
からだの形は、生命の器
形之医学・しんそう療方 東京小石川
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