秋、千曲川の堤防に沿って歩いていると、石積みの隙間から木が生えていた。丈も低く特に特徴もない樹形だったが、なんとも奇妙な形の実を付けていた。結構長く俳句をやってはいるが、動植物の名前や生態には疎い。ひと枝折って家に持帰る。
こんなときは講談社ブルーバックスの「樹木検索小図鑑」である。「秋~冬」の巻を出して検索表の「果実からひく」を見る。イラスト付のフローチャートみたいになっていて、YES/NOの分岐を繰返していくと、その木の名前が判るというスグレモノだ。
葉がついている→葉は裂けない→単葉→広葉→対生→果実に羽なし→果は割れない→茎は蔓でない→果実は頭状でない→果実に柄あり→茎に針なし→果実は下垂せず→果実は集散状につく
という具合に辿っていくと →クマツヅラ科「クサギ」に至るのである。
しかしこの検索、実際は難しい。人生のように複雑な分岐点の連続で、必ず途中でわからなくなってしまう。だから検索表ではなく図版のページをぱらぱら見てさがす方が手っ取り早いのだ。持帰った枝が「臭木」であることも、実はぱらぱら検索で見つけたのだった。
独特の臭気があるので「臭木」と呼ばれるそうだが、季節のせいか私のアレルギー鼻炎のせいか、特に匂いは感じなかった。「へくそかづら」よりはマシだけれど、気の毒な命名だと思う。こんなに可愛らしい実を着けるのだから、もうちょっとなんとかいう名前を付けてやりたいものである。
ここで「カラマーゾフの兄弟」にスメルジャコフという人が出てきたことを思い出したが、名前以上のことは記憶がないので、オチはつかない。
旧道の石垣古りし臭木の実 古川芋蔓