源氏物語絵巻「横笛」↑
少女の巻の主人公は
雲居の雁
いまは右大臣の、頭中将のむすめ
実母はどういういきさつか語られていませんが、
再婚して、父方の祖母大宮の下で育てられてきました。
そして14歳になりました。
大宮邸で育てられたもう一人の孫、
夕霧と幼い恋をします。夕霧は12歳。
そうしたこの巻のあらましを聞いて
面白いとはあまり思いませんですよね。
のちに夕霧の妻となって子どもをたくさん産み、
乳飲み子に乳を含ませている絵巻↑や
夫にきた手紙に焼きもちを焼く姿が印象に残っていて
そんなに悲劇的でないし、物語の主人公としての魅力に欠けます。
そう思っていました。
でも、紫式部の人物描写にムダなものは一切ない、のでした。
紫式部は、100人の人物を書き分けている、と言われますが、
本当にそうです、
むしろこの巻はいろいろな人物がそれぞれの役割でスポットを浴び、その生き生きとした人間群像は躍如たるものがあります。
まず、このふたりの仲を女房たちのささめ言で右大臣の知るところとなり、
激怒した挙句、大宮の監督不行き届きのせいにして、
ふたりを引き離しにかかるところから、騒動が始まります。
右大臣の思惑、これが筆頭でしょうか。
源氏と立后争いに敗れた(絵合の巻)右大臣は、
雲居の入内を目論み、それをあまりあからさまにみせるのは世間体悪い、
ということで、
帝との仲に悲観的な弘幑殿女御を里下りさせ、 雲居を遊び(音楽)の相手に、
という口実を考えたのでした。
これも才覚であって、角の立たない最良の手だてとは言えるのです。
しかし、収まらないのは大宮、
内大臣に突っかります。
葵上亡きあとの悲しみを、雲居を大切に世話することで慰めとしてきたのに、
このように引き離されるとは、
子どもたちの成り行きはしょうがないことではないか、
(右大臣が)物事の道理をわきまえていたなら、私のせいにしてこういう仕打ちをするのはひどすぎる、
雲居を継母北の方に引き取って安心ということがあるでしょうか
とまあ親子ですから言いたいことはストレートです。
とはいっても、当主の右大臣はことを進めます。
しかしそれなりの気配りはぬかりありません。
内の大殿の君たち(14人子供がいます)の位の高いのを見繕って、
雲居の迎えのお供につけます。その中には柏木もいます。
大宮の嘆きは続きます。
雲居雁を呼んで繰り言をいいます。
14まで側に置いて楽しく暮らしてきたのに、
残り少ないこの歳で見捨てられ、(雲居の)行く末も見果てることもできないで
継母のところへ移ると思うと悲しい
そこへ、宰相の君、出で来て!
ふたりが嘆き悲しんでいるところへ割って入ったのが夕霧乳母宰相の君、
雲居は夕霧同様のご主人さま、父君が縁談を持ってきても靡いてはいけませんよ、
夕霧を一人前でないと軽んじているが、ほかの公達に引けをとるかどうか、
聞き合わせてみてください、
と憤慨して、さすがに大宮に窘められている
そして、右大臣が内裏に参内しているすきに、宰相の君の計らい(大宮の許可を得て) で
夕霧と雲居はひとときの逢瀬を…
夕霧の恋心に雲居「まろもさこそはあらめ」
夕霧の「恋しとはおぼしなんや」との問いにすこしうなづく、そのさま幼げなり
雲居雁のなんと愛らしいことでしょう。
ただただ「(ふたりのことを)さわがれたまひしことのみはづかしうて」
と泣きじゃくるお姫様です。
さてお次に登場するのが雲居雁の乳母大輔の乳母
ふたり一緒のところをみて、毒舌をはきます。
もののはじめの六位宿世よ(夕がいかにめでたくとも6位ではね)
と聞こえるように言う。夕霧は、
位なしとてはしたなむるなりけり(私が位ないとばかにしている)
とあはれも少しさむる(雲居への恋心も少し冷める、おやまあ先が思いやられますこと)
右大臣と大宮
夕霧と雲居雁
それぞれの乳母、宰相の君と大輔の乳母のバトル、
思わず笑ってしまいます。
それにしても、歯にものを着せぬ女房たちの言動(火種となったうわさ話をする女房たちも)、
いつの時代でもおばさんパワーはすごい。
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