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歌舞伎×オペラ×能楽 「源氏物語」

2014-04-18 17:29:37 | 観劇
開幕前日に八坂神社で奉納舞を披露


歌舞伎×オペラ×能楽
と銘打っただけあって、
全編を通じて、新しい試みが実現しています。

能は
 片山九郎右衛門 
 梅若紀彰 
 観世喜正
の東西の気鋭が、桐壺帝&六条御息所&頭中将を演じ分けている。
これは見事に融合していました。
(配役はどうも日替わりのようです)

源氏物語の主要な巻をピックアップして2時間で上演する、
という、そのことだけでも確かな源氏の読み込みが必要で、
それがどれほどのものか、いささか疑問を呈したいところもありますが、
にもかかわらず、
その抽象化されたテーマ、が全体をよくまとめ、各場面の構成もよく練られており、、
うまいと思いました。

冒頭
語り部としての紫式部、と、光る君が核心のテーマを軸に、相対する。
 
冬の石山寺の月の光のなか、式部は桐壷の更衣の消え失せたこの世に、
希望の光を与えた皇子こそ、“光るの君”と語ります。
 しかし、光る君は、
 母への恋慕と哀しみの原点を見つめており、
 深く深く内面をえぐって見せます。

 “母、桐壺の更衣こそ光、わたしは、光に照らされた影”
 
 (源氏を寵愛する桐壷帝さえ)“わたしを通して母の姿を見ている”

 と、本質を見抜いてしまう、源氏。

式部の片岡孝太郎がいい、本当に適役です。

ここで、
 もう一人のコラボ、カウンター・テナーの登場。
海老蔵は、将来世界に持っていくための試金石、みたいなことを豪語しているようですが、
その試みは適切だったでしょうか?
少なくても、周りで観ていた歌舞伎ファンのおばさまたちには、
ブーイングでした。
いわく、
   なにを歌ってるの?何語?源氏とどうつながっているの?
   わけわかんない!
 最初は、
 いわば源氏の心の内をすべて承知している、乳母子惟光、に置き換えて見ることはできる、
 (源氏もそう声をかけている)
 
 それなのに、後半の夕顔の場面では、惟光ではなくなってしまっている。
 惟光は、悲嘆にくれて茫然とつっ伏っている源氏を叱咤激励し、
 夕顔の亡骸の後始末に、葬式に大奮闘していた、いたって実務派の人間、
 源氏のこころに構ってなどいられないのです。

しかし、まあチェンバロは、中世の楽器だけど、BGMとしては合格。

さて、次の青海波の場面、紅葉賀の巻なのですが、
春、いまの時期に。
 そして、舞台の上で桜の枝を活けていく小道具のこのような演出、とてもすばらしい!
 (流派は池坊のようです)

 桐壷帝と舞の頭中将が能 (春宮・坂東亀三郎、亀鶴とともにいつも海老蔵を支えてる)
 お能はそれだけで抽象の世界に近いので、
 やはり、しっかり締めています。
 舞楽の青海波を、能楽と歌舞伎の舞で舞う、
 これはすばらしい!!
 海老蔵も頑張っていました。
 
ところが、藤壺の市川ぼたんさんが、生身の姿で現われ、舞はいいのですが、
源氏との絡みはどんなものでしょうか?
せっかくお能で抽象化された物語が、卑俗な男女の仲に成り下がってしまっている。
(これでは、映画化された源氏と同じ、式部の描いた源氏の世界ではない)

それに、源氏物語の読み込み、というか、源氏の考証がなされていない、ところが気になります。
桐壺帝が藤壷の懐妊で、譲位を春宮伝える、これはまあいいですが、
懐妊した藤壺が尼の姿で現われ、出家を覚悟、これは時間の流れをあまりに無視、
出家は桐壷帝の崩御のあと、
譲位後、院となって、春宮(冷泉帝)の成長を少しは見ている。
藤壺の出家は至極政治的なこと、春宮の後ろ盾を確実なものにするため、源氏への最後通牒、
藤壺は懐妊後は一切、源氏を拒絶しつづけている。
とまあ、野暮なことを言ってしまうようですが、
せめて、これは、源氏の見た正夢、との落ちがあれば、よかったのに、と思います。

後半の場面は夕顔、夏です。
 夕顔の君を尾上右近、(成長している、と思う楽しみがあります)
 ここでもお能が活躍、
 半蔀と葵上を見事に融合、
 厳密にいえば、夕顔を取り殺した生霊が六条御息所、とは書かれていないし、
夕顔の巻では源氏は17歳、紅葉賀・葵の巻よりかなり前の体験なのですが、
 この場面では、少しも気になりません。
 それは、たぶん御息所その人と、生霊との2役を配して、
抽象化された幽玄の世界のなせるわざではないかと思います。

そして終幕、若き源氏の悲しみにうちひしがれた孤独な魂が叫びます。

“わたしは、やはり闇なのだ”

そのやりきれない、暗闇のなかに現れるのは紫式部の語り、

 “いいえ、あなたは光なのです。心のままにあゆみつづけますように…"

とてもいい終わり方です。


さらに磨きがかかった、源氏物語の続編、期待します。

王命婦の大谷廣松くん、成長しました。もっと出番があってしかるべき重要な役なのですが…

2014/4/11 南座観劇


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