紫苑の部屋      

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冷酷な伊右衛門とコワーいお岩さんの吉右衛門歌舞伎ー新橋演舞場

2008-05-08 23:37:19 | 観劇
「東海道四谷怪談」
通し狂言では、昨年のコクーン歌舞伎が面白かったですが、
吉右衛門の伊右衛門、
本当に冷酷なヤツ、に徹していました。
観客に少しも媚びることなく、良心の呵責なんてクソ食らえ、
の無頼漢ぶり、ーーーいいですねー。
たしかに伊右衛門って、こういうのだった!
伊右衛門の見るお岩さんの怨霊=幻覚に怯えるふうもなく、
人を何人斬っても、まだ士官できると思っている、
自分の欲を満たすことしか頭にない、極悪非道の男なんですが…、

よく考えると、伊右衛門は直接手を下していないのよね、お岩さんには!
この二人は愛憎が入り交じった、腐れ縁のような夫婦、
結局、赤穂の浪人暮らしの貧困が、二人を破滅させたともいえるわけで、
同情できなくもない境遇なわけです。
見初められた縁談も当初は一応断っていることですし…。
(橋之助のような二枚目ならおぼこさんに惚れられても納得ですが、
 どうもこの伊右衛門にはあり得ない!なんて、つい思ってしまいますが…)

福助お岩さんがまたいいんですねー、適当にコメディーで。
でも、いつになくリアルです、ホントにコワーくなりますよ。
顔がね、細面でしょ、
それが髪がぞろりとなると、そりゃーもう……
宅悦さんじゃないけど、きゃー!!!
このときばかりは、3階でよかった!?
いえいえ、怖いものもっとよくみたかった!
そのうえ、毒で顔が腫れ上がるということは…、声も変わるんだー!!
と観ている人に気づかせるんです。
そう、腫れ物ができたときの声変わりね。

ところで、今回お岩さんの死に方が曖昧でしたね、どうしてかな?
そこまでリアルにしなくていい、ということかな?

それはそうと、宅悦さんってもっとワルじゃなかったかな!?
歌六さんの宅悦は、とってもいい人、お岩さんがお気の毒でしかたがない、
観客と同じ心情ね。

庵室の場で、私初めて気がついたのですが、
ここでの百万遍の数珠回し、
伊右衛門の母(この息子にこの母あり、ですよね)が息子を守ろうとしていたんですね。
でも、お岩さんはそれを許さなかった! 
母をも殺めてしまうのねー。

小仏小平の主従関係、与茂七、直助、お袖の愛憎劇のカット、
たしかに、そのほうが冷酷な伊右衛門とコワーいお岩さん、が浮き彫りになる。
大詰の仇討の場の、結末までみせない、
「本日はこれにてお開き」の幕の下ろし方
歌舞伎の、省略の妙、余白の美、とでもいいましょうか、
こういうところもニクいですねー。

吉右衛門歌舞伎の醍醐味、でした。

 2008/05/06 観劇 新橋演舞場


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4 コメント

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四谷怪談~怖かったですよ~ (Sa)
2008-05-25 00:19:18
sionさん、ほんっと役者さんってのはやっぱり凄いわとまた今月も思いました。
福助さんは福助さんのお岩さんになりましたね、玉三郎さんの怖いけど美しさのお岩さんでもなく、勘三郎さんの情が勝るお岩さんでもなく、冷たく残酷なお岩さんになりました。
吉右衛門さんも冷たいからほら、あのさっぱり感の冷たさゆえに気味悪さ倍増でした。

あの最後の口上、今月はうまい演出でしたね、これは芝居だからねって、お客さんを恐怖の底に落としたという確信の元(確かに落とされましたよ、ど~~~んと)の口上で、それではっと我にかえりましたもんね。

芝居はこういう余白がたまりませんね
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1Fでコワかったでしょう! (sion)
2008-05-25 11:47:54
初日に知盛間近に観て、血痕があんなに生々しいとは思いませんでした。
歌舞伎のリアルにするところと、見立てを大事にするところ、双方あるから面白いですね。

福助さん、
減量で臨んだのですね、ホラーもね。なるほど、です。
最後の口上、
“恐怖の底に落としたという確信のもと”
そうなんですねー。これですよね。
それに引きかえ、
御所五郎蔵、の幕切れ、あれはストンと落ちませんよね。
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Unknown (Sa)
2008-05-25 14:25:42
後味わる~い結末で帰ると、帰りの電車の中でも、どよ~んですよね、まさしく。

今回の演舞場は、吉右衛門さんの演出でしょうかね?どうなのかな?
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吉右衛門の型なんでしょうかしら (sion)
2008-05-27 20:29:36
コクーン歌舞伎ではこの怪談の全貌がわかりましたよね。
小仏小平が塩冶ゆかりの主家のために、民谷家に伝わる秘伝の薬を盗んだこととか、
直助、お袖の因果の結末とか、
複雑な人間模様、廻り廻った因縁話…、
演舞場では、
それはさらりと横に置いて、
おあとがよろしい、ようで、と
これ落語の落ち、に近い?
吉右衛門の型、なんでしょうか?
いろいろあって、面白いですね。
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