紫苑の部屋      

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海老蔵知盛のなんとすばらしいー歌舞伎座「義経千本桜」

2008-05-04 17:08:21 | 観劇
銀平こと知盛、この大役を海老蔵がどう挑戦するか、
正直、若いからどうかなーと思っていました。
淀みなく舞台が進み、クライマックスを迎えていけば、いいかなーと。
初日、冒頭の演目です。
花道の揚幕からの出、気合いが入ってます。
そして着流し姿のいいこと!
アイヌの文様風のガウンなのね、中の帯は前で立結び、
このなりはちょっと不思議ですよね、
きっと当時の粋なファッションなのでしょう。

ここ大物浦(だいもつうら)は摂津の国、今の尼崎市、
都を追われた義経が西国に逃れるため船出した港、
あの能の「船弁慶」の舞台でもあります、
歌舞伎では知盛は実は生きていた、という設定、
でも、今はもう悲劇の英雄である義経に平家一門の恨みを果たさんとの妄執は、
状況を判断できない、亡霊そのものであります。
壇ノ浦で「見るべき程の事をば見つ」と果てた、カッコ良さなのに、
あえて都落ちの義経に対戦させ、壇ノ浦の再現をさせるのねー。
知盛があと半年持ちこたえていたら…、どうなっていたか?
そんな後の世の人びとの感慨が、こんな物語を生むのかもしれません。

出陣する海老*知盛の出で立ち、気品といい、武将の気迫といい、申し分ない!
白一色の装束で勇壮な戦士に見せる、決して悲壮であってはいけない、
知盛は33歳の若さだったのです、重厚であってはいけない、
企てを謀って、荒れる海に誘い込んだつもりが、弁慶に見破られるというドジを踏む、失態をするのですから。

…破れて血だらけになって敗走する知盛、
そこに、安徳君を抱え、典侍局を連れて現れる義経、
「アラ、めずらしや、如何に義経」、
 驚くのね、意表をつかれてしまった!
「いざ、尋常に勝負勝負」
 と詰め寄るも虚しい抵抗、
「無念口惜しやナ、一門の仇も、甲斐もなく…
 わが君を助けた恩をきるべき謂れはなし」
無骨な武将は、なおも立ち向かおうと最後の力を振り絞る、
ここに登場が、安徳君、

「これまではそちの情で生き延びた、
 いままたわれを助けしは義経が情、仇に思うなー」

ここで急転直下、状況が一変します。
この君の大人びたひと言、何を意味するでしょう、
めでたし、なんて思わないよね!
平家とともに生きた君と思えない、
前幕の子供なりの潔さがない、一変している、
かれは後白河の化身か?!
そう、義経亡き後も手練手管で政治を影で操る宮廷のしぶとさの象徴、
このひと言で、局は自害、勇猛果敢な知盛も腰を折られる、
涙ながらに源平の宿命、修羅道の苦しみ、ひいては清盛の横暴さの天罰と、
一門とわが身の因果を嘆いて、海底の藻屑と消えんと決意します。

海老蔵は、この知盛の悲喜劇をセリフだけでたっぷり聞かせてくれます。
そして、怨霊ではなく、人間の儚さを体現して碇とともに海に沈んでいく、
美しい最期を見せてくれます。

こんなに説得力のある、若く美しい武将知盛が誕生、そんなふうに思えました。

 2008/05/02 観劇 歌舞伎座



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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
早く見たい! (鈴子)
2008-05-04 18:27:14
紫苑さま
詳しいレポありがとうございます。
都合で20日しか行けませんが、海老蔵さん初役をしかも歌舞伎座でされるので、期待と不安を抑えられませんでしたが、期待一本に払拭されました
返信する
海老蔵の成長をみれますよ! (sion)
2008-05-04 22:03:06
はじめまして、
コメントありがとうございます。

実をいいますと、
最期の、碇とともに海中に真っ逆さまー!、
無事見終えて、
ホッと、安堵の吐息をついたのです。
ご本人も内心はそうだったかもしれませんが、
実に堂々としてました。
修練の賜物なんでしょう、
それがうれしい成長ですよね。
その後の演目は、とってもリラックスして團*長兵衛の子分をやってましたよ。
お楽しみに!

わたし、後半、もう一度見まーす!
返信する
一生懸命 (鈴子)
2008-05-04 22:21:46
お返事早速ありがとうございます。
宗家の御曹司と言う事で、良くも悪くも注目の的の海老蔵さんですが、運命に逆らわず頑張っていますよね。
以前は高貴な生まれの役は問題ないのに、どうしても町人に見えない時期がありましたが、金毘羅歌舞伎は見事に町人の粋を出していました。
少しづつ、お父様の後を継げるように成長しているのが嬉しくて、応援し甲斐がとてもある役者さんだと思います。
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地道に一本道、ですね。 (sion)
2008-05-05 13:27:41
團十郎パパの先人が見守っている力、
大きいですね。
病気してからのこの親子、ともに歩んでいる姿が尊いですね。
私たちファンも、温かくしてくれます。

金毘羅歌舞伎座頭、ご覧になったのですね。
いいなー!
団七も初役でしたよね、お辰も。
どんどん挑戦、うれしいですね。

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着流し姿、ぐぅ~♪ (かほる)
2008-05-06 00:46:48
あの姿で花道に現れると、持っていかれますよねぇ。
姿が良いというのは天性のものですが、ただ背が高い、見栄えがするというだけではない何かが彼にはあります。
最近は、簡単に「華がある」「オーラがある」とポッと出のタレントにも使われているようですが、「海老さま、観てから、その言葉は使ってね」と私は言いたいっ!
死に装束を意識したかのような白&銀の出で立ちも美しいわぁ~。sion様ってば、二度もご覧になるなんて羨ましい!
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オーラ、あった! (sion)
2008-05-08 21:34:48
わたしたち、海老さまだけに、使いましょう!
玉&仁左には、円熟した華、×3乗にもなるわね~。

玉&海老、ゴールデンカップル、
7月に古典と鏡花もので実現しますね。
いまからエキサイトしそう!!

その前に、亀ちゃんの巡業とコクーン、あるし、
わたし、今月、文楽と能「葵上」もみるしー、
忙し、いそがし…
手帳を抜かりなくメモして、
ダブらせてしまう、ヘマ、しないようにしなっくちゃ!
(実はうっかり、国立の予約すっかり忘れて歌舞伎座の昼とってしまって…、
昼の途中で国立に走る羽目になって…、でもって2度目にしたのでした、トホホーー)
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