千川調査事務所に寺嶋という男が、息子・和己の相談に来た。和己が妙なものを見たというので、その調査を依頼するためだ。依頼人の話によれば、ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。・・・「聖痕」。
千川調査事務所に寺嶋という男が、息子・和己の相談に来た。和己が妙なものを見たというので、その調査を依頼するためだ。依頼人の話によれば、ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。・・・「聖痕」。
「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる物語。この独白タイプは感情移入しにくく読み難かった。ラストもモヤモヤしたままで読了。
その店のオーナーの息子、中学生の心也は、「こども飯」を食べにくる幼馴染の夕花が気になっていた。7月のある日、心也と夕花は面倒な学級新聞の編集委員を押し付けられたことから距離が近づき、そして、ある事件に巻き込まれる。遠い海辺の町へと逃亡した二人の中学生の恋心と葛藤。事故に巻き込まれたカフェレストラン兼こども食堂のマスターとゆり子。 並行して語られるふたつの物語が後半に繋がって驚きと感動が押し寄せて感涙でした。
第2章その話を聞かせてはいけない」・・・友達のいない少年が目撃した殺人現場は現実か夢か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」・・・宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。
どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが仕掛けられており、ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる趣向。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語の全てが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが・・・。伏線が複雑で何度も再読するも盲目の男が絡むなど在り得ない設定でトリックも後味の悪い読了感。複雑なミステリーを書きたかったのか何を主張しかったのか好き嫌いのハッキリする出来。
現役の内科医が書いた小説。クレーマー患者たちに悩む女性医師が、先輩医師や同僚とともに、患者たちと真摯に向き合い寄り添おうと努力する中で、人と人との絆を見つけ出してゆく物語。病院を「サービス業」と捉え、「患者様プライオリティー」を唱える佐々井記念病院の医師たちは、さまざまな問題を抱えていた。主人公の真野千晶は、半年前に大学病院を辞めてこちらに移った。彼女は聴診や触診から病人特有の気配を感じ取ることに長け、医師としての第六感的な直観力に優れている。「患者を診て治療する」というシンプルな医師像に立ち返りたいと思い、「患者を大事にする」と評判だった佐々井記念病院を選んだのだが、しかし、内情は評判とは少し違っており、病院の「患者様第一主義」「患者獲得競争」に振り回されて、納得のいかない〝3分診療〟を行わなくてはいけないジレンマを抱えている。その上、外来、病棟、夜勤と寝る暇もない日々。あげく「最悪のモンスター患者・座間敦司」に目を付けられ、執拗に嫌がらせを繰り返されることになる。唯一の救いは明るい性格で患者からも好かれているが、大きな医療訴訟を抱え悩む先輩女医浜口陽子らの存在だった。・・・・
読んでいてこれでもかと続く理不尽な患者の言動行いに読み進めるのが嫌になってしまった。救急外来や医療訴訟の実態もしかvり。大変な医療現場で人命を預かって働く彼ら彼女らの実態を知り自分だけは理解ある患者様になろうと思った。「患者に癒し続ける人でありなさい。その医療が、いかにささやかであろうが。愚鈍に見えようが、誤解を生もうが、力不足であろうが、それでいいんだ。」(P304)
2018年1月幻冬舎刊
佐伯章子は成績が良く自立した考えを持つ小学4年生。やさしくて思いやりのあるパパと美人だけど時々心をなくして人形になってしまうママとの3人暮らし。ところが、4年生の最後の春、大好きなパパが死ぬ。そんな時、『こんにちは。章子。わたしは20年後のあなたです』ある日、突然届いた一通の手紙。送り主は未来の自分だという。その手紙に励まされた十歳の章子は「大人の章子へ」に向けての返事という形で日々の日記を書き始める。意地悪なクラスメート、無気力だったママの変化、担任の先生の言葉・・・辛い出来事があっても、「未来からの手紙」に記されていた『あなたの未来は、希望に満ちた、温かいもの』という言葉を支えに頑張ってきた章子。 しかし、中学に入った彼女を待っていたのは、到底この先に幸せがあるとは思えない苛めだった。相次ぐ災厄が、章子の心を冒していく。私は幸せになるんじゃなかったのか、という悲鳴が聞こえる。DV、父娘相姦、親殺し、自殺、AV出演強要などのネガティブな身勝手な大人の犠牲を強いられながら生きなければならない子供たち。子供たちが生きていくために選択するしかなかった出来事はあまりにも残酷で悲しすぎます。人と人の関係で、悪意や歪みはその関係の中で生まれ、関係を蝕んでいくその中で人はなぜ壊れ、何を求めるのか、終盤は、明と暗、善と悪とが反転し、一気に湊かなえワールドが展開されて面白かった。二人称小説。
2018年5月双葉社刊
M&Aや投資に関わってきた現役・税理士が描いた企業小説。医療機器・カメラ大手プロビデンス社の経営トップが隠していたのは、1千億円の巨額損失だった。松尾亘の経営するマツオ製作所は赤字続き。あるファンドとの契約で危機を脱したかに見えたが、突然の社長解任。さらにはカメラ大手プロビデンス社が亘の会社の株を2百億円で買ったとの情報がもたらされる。カネに群がる金融プロ、出世を求めた社員、翻弄される町工場社長、闇を追うジャーナリストたち。損失処理スキームの全貌と、事件に関わった人々を描いた人間ドラマです。
登場人物が多いので人物紹介一覧表が欲しかった。リーマンショック、損失補填、ベンチャー投資、利益計画書、粉飾決算、飛ばし、マネーロンダリング等、多くの思惑が入り組みながら展開されるのだが過去の問題等などが挿入されていて展開が遅いのが難点。
2018年4月KADOKAWA刊
杉村三郎シリーズ事件簿第5弾。杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院してしまい、1ヵ月以上も面会が出来ないままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるのだが・・・自殺未遂のうえ消息を絶った主婦、「絶対零度」。杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する・・・訳ありの家庭の訳ありの新婦、「華燭」。事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の女の子を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な自己中なシングルマザーであった・・・「昨日がなければ明日もない」。
杉村探偵事務所の依頼料はとても5000円と低価格なので、依頼される発端はとても些細なことなのだが、愚直でまじめな私立探偵・杉村氏はいつも丁寧で誠実な調査を通じて、より深い事件の存在を掘り当ててしまう。杉村さんを取り巻く環境は、ユーモラスな人たちがいて、主人公の人柄と共に全体的にほんわかな雰囲気が漂うのだが起きる事件は悲劇的だ。どれも読後感はいいとは言えない。しかしどの人物の描き方も秀逸で深みのある作品になっていると思う。
「どれほどつらい過去だろうと、それはあなたの歴史です。昨日のあなたがあってこそ今のあなたがあり、あなたの明日があるのです。受け入れて前向きに進まなければ、幸福な未来への道は開けません。」(P395)
2018年11月文藝春秋社刊
鳥取県米子市生まれの作者が同県内にある日南町を舞台にそのすばらしさを描いた地方創生小説ミステリー。「TATARA」(日野町)、「天の蛍」(江府町)と、日野郡を舞台にした小説日野郡三部作最後のシリーズ。東陽新聞米子支局の記者・牟田口(むたぐち)直哉と高校生の娘・春日(はるひ)が主人公。ある日、春日と友人たちは、オオクニヌシゆかりの赤猪岩神社で男性の遺体らしきものを目撃する。しかし直後に遺体は消えさり、翌日、日南町の大石見神社で男性の遺体が発見される。牟田口は報道記者として追いかけるうち、事件に秘められた過去に近づき始める。
遺体のそばに落ちていた紙片に書かれていたオオクニヌシとはいったい誰なのか?親子の周囲で巻き起こる、過去と現在をつなぐ謎。新聞記者と高校生の父娘の複数視点から描かれた謎と伏線が、驚く意外な展開と結末となって収束されます。山陰地方の大国主命伝説と松本清張の出自を絡ませた展開。この地方の訛も心地好く青春ミステリーとしても読め500頁の長編でしたがストーリーに惹き込まれました。「✕」とは誰か何かその意味は・・・。日南町の自然と人のすばらしさを知ることができる小説ですが心に残る言葉、示唆は感じなかった。
2019年9月 日南観光協会刊