読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

宮部みゆき著「さよならの儀式」

2021-08-12 | ま行
8つのSF短編集。長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。・・・表題作「さよならの儀式」。
養父母のもとで暮らしていた主人公の二葉。しかし二葉が16歳のとき、養母の死によって「グランドホーム」という施設に戻されること。虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」でも、救いきれないものはある。・・・「母の法律」。
主人公の藤川達三は、散歩中に奇妙な光景を目にする。少年が防犯カメラを壊そうとしているのだ。果たして少年の目的は、孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。・・・「戦闘員」
45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。・・・「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」・・・「わたしとワタシ」。
高校生の主人公・深山秋乃は、10歳違いの妹・春美と母親と3人で暮らしている。春美が突然不調を訴え、通常の学校生活が送れなくなってしまった原因は?妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい?・・・「星に願いを」
 千川調査事務所に寺嶋という男が、息子・和己の相談に来た。和己が妙なものを見たというので、その調査を依頼するためだ。依頼人の話によれば、ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。・・・「聖痕」。
明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。フランケンシュタイン博士の作ったものは・・・「海神の裔」。
隔絶された町「ザ・タウン」の保安官のところへ、チコという助手がやってきた。パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか・・・「保安官の明日」。
親子の救済、老人の覚醒、30年前の自分との出会い、仲良しロボットとの別れ、無差別殺傷事件の真相、別の人生の模索。なぜこの殺人がおきたのか、なぜ監視社会がこれほど進むのか、人とロボットは共存可能なのか、そんな疑問への回答が宇宙人の存在だった等々、読後感は短すぎて暗い面白みのない短編集だった。
2019年7月河出書房新社刊

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道尾秀介著「雷神」

2021-07-08 | ま行
埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。 真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために・・・なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れるという展開。主人公の妻の事故死と31年前に起った殺人事件が絡まりあうように進行していくハードボイルド的謎解きは面白かった。田舎の小さなコミュニティーの中で起った怨念の絡まる事件。都合よくて出来事が起きるのは仕方がないのだが、写真家でいわば“事件ハンター”ともいえる彩根が途中都合良く登場して、まとめ進行役を勤めてしまっているのだが立ち位置がイマイチ不明。誰が罪を犯し、誰を救おうとしていたのか、30年前に起きた事件の真相を探る彼らの果たした結果に救いはあったのか疑問に思った。
2021年5月新潮社刊
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湊かなえ著「カケラ」

2021-06-03 | ま行
心理ミステリー。一人ずつインタビューに答える形式で進む独白物語。一人の女の子が自殺した真相を追求していく話です。美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「やせたい」という相談を受ける。カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。幼なじみいわく、八重子には娘がいて、その娘は、高校二年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。母が揚げるドーナツが大好物で、それが激太りの原因とも言われていた。もともと明るく運動神経もよかったというその少女は、なぜ死を選んだのか――?
 「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる物語。この独白タイプは感情移入しにくく読み難かった。ラストもモヤモヤしたままで読了。
「外見の美しさは一生のものではありません。肌のはり、豊かな毛髪。失っていくものもあれば・・・お腹や腰、背中二の腕いたるところに増えていくものもあります。ジグソーパズルのピ―スに似ている・・・人それぞれに似ているようで少しづつ違うへこみやでっぱりがある。・・・長所があり短所があり、好きなもの苦手なものがある。そうやって自分というカケラができあがる。カケラとカケラがはまって家族ができ、町ができる。そして一枚の絵の一片となる。だけどみながうまくはまれるとは限らない。学校という名の絵,会という名の絵。なぜだか自分が浮いてしまっている。この絵の中に自分の居場所がないのかもしれない。無理に押し込むと周囲のバランスが崩れてしまう。少し変えればうまくはまるのに」「「自分の理想の形が必ずしも他人にとっても他人そうではないことを」(P283)
2020年5月集英社刊
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森沢明夫著「おいしくて泣くとき」

2021-04-14 | ま行
“子ども食堂”を舞台に、温かくて幸せな奇跡、決して色褪せることのない人生の「美味しい奇跡」無力な子どもたちをとりまく大人たちの深い想いを描いた希望の物語。
貧困家庭の子どもたちに無料で「こども飯」を提供する『大衆食堂かざま』。
 その店のオーナーの息子、中学生の心也は、「こども飯」を食べにくる幼馴染の夕花が気になっていた。7月のある日、心也と夕花は面倒な学級新聞の編集委員を押し付けられたことから距離が近づき、そして、ある事件に巻き込まれる。遠い海辺の町へと逃亡した二人の中学生の恋心と葛藤。事故に巻き込まれたカフェレストラン兼こども食堂のマスターとゆり子。 並行して語られるふたつの物語が後半に繋がって驚きと感動が押し寄せて感涙でした。
「人の幸せってのは、学歴や収入で決まるんじゃなくて、むしろ『自分の意思で判断しながら生きているかどうか』に左右される」(P127)
2020年6月角川春樹事務所刊

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森沢明夫著「雨上がりの川」

2021-03-30 | ま行
家族小説。川合淳は中堅出版社に勤めるサラリーマン。妻・杏子と娘・春香とともに、マイホームで穏やかに暮らしていた。しかし中学生の春香がいじめにあい引きこもってしまう。やがて妻もそんな辛い現実を受け止めきれなくなり、救いを求めて「紫音」という霊能者にはまっていく。父親は「ふつうの幸せ」を失い、バラバラになった家族の心の和を再生しようとするが。家族の絆を救ったのは、まさかの老人・・・。推理小説の様な謎の伏線が張りめぐられており楽しめる。「スピリチュアル」「マインドコントロール」「ユング」「コールドリーディング」等々が語られ家族再生の物語になっている。
「人を傷つける人は、自分の心が傷ついている可哀想な人。人を騙す人は、人に騙されて世界を信頼できなくなった淋しい人」(P378)
闇から光へ、雨上がり人の物の見方を学んだ春香の今後が楽しみな展開でした。
2018年10月幻冬舎刊
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湊かなえ著「落 日」

2021-03-16 | ま行
15年前に起きた、判決も確定している『笹塚町一家殺害事件』を映画化したいという新進気鋭の映画監督長谷部香から相談を受けた新人脚本家の甲斐千尋(本名・真尋)。事件は真尋の生まれた故郷笹塚町で起きた、引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめたというもの。この事件を、香は何故撮りたいのか。真尋はどう向き合うのか真実は?のミステリー。千穂・沙良・力輝斗など登場人物たちの関係性をわざと伏せ複雑化させて間延びさせたような展開でうんざりさせられたが人間関係の機微や臨場感ある筆運びは流石。事件の裏に隠された「真実」、過去に囚われた人々に対する「救い」とは、そして、脚本家・映画監督として「表現する」ということはと。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生を描いた物語です。
2019年9月角川春樹事務所刊
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道尾秀介著「カエルの小指 a murder of crows」」

2021-01-01 | ま行
「カラスの親指」の続編。「久々に、派手なペテン仕掛けるぞ」詐欺師から足を洗い、口の上手さを武器にスーパーなどで実演販売士として真っ当に生きる道を選んだ武沢竹夫。しかし謎めいた中学生・キョウが「弟子にしてくれと、とんでもない依頼」とともに現れたことで彼の生活は一変する。シビアな現実に生きるキョウを目の当たりにした武沢は、ふたたびペテンの世界に戻ることを決意。そしてかつての仲間たち、まひろ、やひろ、貫太郎らと再集結し、キョウを救うために「超人気テレビ番組」を巻き込んだド派手な大仕掛けを計画することに。
設定舞台は前作から15年後の物語。前作同様リアル感のない騙し騙しドン伝返しの連続で最後まで展開が読めない、まして前作を読んでないと人間関係が理解できないと来ている。そういう世界の物語として楽しむしかない物語です。騙される、思っていたのが予想がひっくりカエルそんな詐欺師たちの物語です。
2019年10月講談社刊
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森沢明夫著「ぷくぷく」

2020-12-23 | ま行
金魚すくいの屋台で出会いそれから飼われることになりユキと名付けされた和金の金魚の視点で描かれた心温まる物語。都内のアパートで一人暮らしをしている、恋に臆病なイズミ。引っ込み思案なのは誰にも明かしていない心と体に「傷」があったからだ。そんな彼女をいつも金魚鉢から見つめているユキ。ひとつ屋根の下に暮らしながら言葉を交わすことはないが、イズミへの思いは誰よりも強い。もどかしい関係の「ふたり」の間に、新たな男性の存在が。果たしてイズミの凍った心を溶かす恋は始まるのか・・・
登場人物は4人と黒猫やパンジーなどこじんまりとした世界の話で広がりがないがほっこりさせてくれる優しい話です。「心は傷つかない。ただ、ただ磨かれるだけ。」(P214)「ふたりが喧嘩するのは、相手ことがとても好きだからだ。好きだからこそ自分を理解して欲しくて喧嘩になる。・・・喧嘩できるのは、そもそもふたりがしあわせだからだ。」(P272)
2019年12月小学館刊
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道尾秀介著「いけない」

2020-10-25 | ま行
架空の街、蝦蟇倉市で起こった事件3編が連作短編を読む如くミステリーが繋がっていきます。復讐殺人を捜査する刑事、殺人現場を目撃してしまった少年、他殺の疑いのある事件を追う刑事。各章ごとに主人公は変わり全ての事件は最終章へと。第1章「弓投げの崖を見てはいけない」・・・自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。
第2章その話を聞かせてはいけない」・・・友達のいない少年が目撃した殺人現場は現実か夢か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」・・・宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。
どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが仕掛けられており、ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる趣向。
 さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語の全てが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが・・・。伏線が複雑で何度も再読するも盲目の男が絡むなど在り得ない設定でトリックも後味の悪い読了感。複雑なミステリーを書きたかったのか何を主張しかったのか好き嫌いのハッキリする出来。
2019年7月文藝春秋社刊

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宮本輝著「真夏の犬」

2020-05-14 | ま行
九つの短篇集。野良犬に囲まれた夏の日の恐怖・・・「真夏の犬」、転校してきた混血の美少女をめぐる争い・・・「暑い道」、アル中の母と住んだ古いアパート・・・「階段」、奇妙な香具師が売っていた粉薬・・・「力道山の弟」、同級生の女の子の危険なささやき・・・「チョコレートを盗め」他ホットのコーラを注文され右往左往する喫茶店のマスターと客達の話・・・「ホット・コーラ」「駅」「香炉」「赤ん坊はいつ来るか」等々。少年や青年の目線であのころの少年の日の悲しみ、青春の日の心の痛み、歳月のへだたりを突き抜けてよみがえる記憶を鮮烈に刻みつけ、苦悩と慰めの交錯する人生への深い思いを浮かびあがらせた短編。多様な過去のイメージを交錯させ、見事な描写と会話ちょツとした小道具と場所を象徴的に描いてミステリー風に臭いが漂ってくるような強烈な描写の奥深い個性的な物語ばかりでした。
1993年4月文春文庫刊

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南杏子著「ディア・ペイシェント」

2020-03-14 | ま行

現役の内科医が書いた小説。クレーマー患者たちに悩む女性医師が、先輩医師や同僚とともに、患者たちと真摯に向き合い寄り添おうと努力する中で、人と人との絆を見つけ出してゆく物語。病院を「サービス業」と捉え、「患者様プライオリティー」を唱える佐々井記念病院の医師たちは、さまざまな問題を抱えていた。主人公の真野千晶は、半年前に大学病院を辞めてこちらに移った。彼女は聴診や触診から病人特有の気配を感じ取ることに長け、医師としての第六感的な直観力に優れている。「患者を診て治療する」というシンプルな医師像に立ち返りたいと思い、「患者を大事にする」と評判だった佐々井記念病院を選んだのだが、しかし、内情は評判とは少し違っており、病院の「患者様第一主義」「患者獲得競争」に振り回されて、納得のいかない〝3分診療〟を行わなくてはいけないジレンマを抱えている。その上、外来、病棟、夜勤と寝る暇もない日々。あげく「最悪のモンスター患者・座間敦司」に目を付けられ、執拗に嫌がらせを繰り返されることになる。唯一の救いは明るい性格で患者からも好かれているが、大きな医療訴訟を抱え悩む先輩女医浜口陽子らの存在だった。・・・・

読んでいてこれでもかと続く理不尽な患者の言動行いに読み進めるのが嫌になってしまった。救急外来や医療訴訟の実態もしかvり。大変な医療現場で人命を預かって働く彼ら彼女らの実態を知り自分だけは理解ある患者様になろうと思った。「患者に癒し続ける人でありなさい。その医療が、いかにささやかであろうが。愚鈍に見えようが、誤解を生もうが、力不足であろうが、それでいいんだ。」(P304)

2018年1月幻冬舎刊

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湊かなえ著「未来」

2020-02-29 | ま行

佐伯章子は成績が良く自立した考えを持つ小学4年生。やさしくて思いやりのあるパパと美人だけど時々心をなくして人形になってしまうママとの3人暮らし。ところが、4年生の最後の春、大好きなパパが死ぬ。そんな時、『こんにちは。章子。わたしは20年後のあなたです』ある日、突然届いた一通の手紙。送り主は未来の自分だという。その手紙に励まされた十歳の章子は「大人の章子へ」に向けての返事という形で日々の日記を書き始める。意地悪なクラスメート、無気力だったママの変化、担任の先生の言葉・・・辛い出来事があっても、「未来からの手紙」に記されていた『あなたの未来は、希望に満ちた、温かいもの』という言葉を支えに頑張ってきた章子。 しかし、中学に入った彼女を待っていたのは、到底この先に幸せがあるとは思えない苛めだった。相次ぐ災厄が、章子の心を冒していく。私は幸せになるんじゃなかったのか、という悲鳴が聞こえる。DV、父娘相姦、親殺し、自殺、AV出演強要などのネガティブな身勝手な大人の犠牲を強いられながら生きなければならない子供たち。子供たちが生きていくために選択するしかなかった出来事はあまりにも残酷で悲しすぎます。人と人の関係で、悪意や歪みはその関係の中で生まれ、関係を蝕んでいくその中で人はなぜ壊れ、何を求めるのか、終盤は、明と暗、善と悪とが反転し、一気に湊かなえワールドが展開されて面白かった。二人称小説。

20185月双葉社刊

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宮城啓著「歪んだレンズ」

2019-12-28 | ま行

M&Aや投資に関わってきた現役・税理士が描いた企業小説。医療機器・カメラ大手プロビデンス社の経営トップが隠していたのは、1千億円の巨額損失だった。松尾亘の経営するマツオ製作所は赤字続き。あるファンドとの契約で危機を脱したかに見えたが、突然の社長解任。さらにはカメラ大手プロビデンス社が亘の会社の株を2百億円で買ったとの情報がもたらされる。カネに群がる金融プロ、出世を求めた社員、翻弄される町工場社長、闇を追うジャーナリストたち。損失処理スキームの全貌と、事件に関わった人々を描いた人間ドラマです。

登場人物が多いので人物紹介一覧表が欲しかった。リーマンショック、損失補填、ベンチャー投資、利益計画書、粉飾決算、飛ばし、マネーロンダリング等、多くの思惑が入り組みながら展開されるのだが過去の問題等などが挿入されていて展開が遅いのが難点。

2018年4月KADOKAWA刊 

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宮部みゆき著「昨日がなければ明日もない」

2019-12-15 | ま行

杉村三郎シリーズ事件簿第5弾。杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院してしまい、1ヵ月以上も面会が出来ないままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるのだが・・・自殺未遂のうえ消息を絶った主婦、「絶対零度」。杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する・・・訳ありの家庭の訳ありの新婦、「華燭」。事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の女の子を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な自己中なシングルマザーであった・・・「昨日がなければ明日もない」。

杉村探偵事務所の依頼料はとても5000円と低価格なので、依頼される発端はとても些細なことなのだが、愚直でまじめな私立探偵・杉村氏はいつも丁寧で誠実な調査を通じて、より深い事件の存在を掘り当ててしまう。杉村さんを取り巻く環境は、ユーモラスな人たちがいて、主人公の人柄と共に全体的にほんわかな雰囲気が漂うのだが起きる事件は悲劇的だ。どれも読後感はいいとは言えない。しかしどの人物の描き方も秀逸で深みのある作品になっていると思う。

「どれほどつらい過去だろうと、それはあなたの歴史です。昨日のあなたがあってこそ今のあなたがあり、あなたの明日があるのです。受け入れて前向きに進まなければ、幸福な未来への道は開けません。」(P395

201811月文藝春秋社刊

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松本薫著「日南Ⅹ」

2019-12-09 | ま行

鳥取県米子市生まれの作者が同県内にある日南町を舞台にそのすばらしさを描いた地方創生小説ミステリー。TATARA(日野町)、「天の蛍」(江府町)と、日野郡を舞台にした小説日野郡三部作最後のシリーズ。東陽新聞米子支局の記者・牟田口(むたぐち)直哉と高校生の娘・春日(はるひ)が主人公。ある日、春日と友人たちは、オオクニヌシゆかりの赤猪岩神社で男性の遺体らしきものを目撃する。しかし直後に遺体は消えさり、翌日、日南町の大石見神社で男性の遺体が発見される。牟田口は報道記者として追いかけるうち、事件に秘められた過去に近づき始める。

遺体のそばに落ちていた紙片に書かれていたオオクニヌシとはいったい誰なのか?親子の周囲で巻き起こる、過去と現在をつなぐ謎。新聞記者と高校生の父娘の複数視点から描かれた謎と伏線が、驚く意外な展開と結末となって収束されます。山陰地方の大国主命伝説と松本清張の出自を絡ませた展開。この地方の訛も心地好く青春ミステリーとしても読め500頁の長編でしたがストーリーに惹き込まれました。「✕」とは誰か何かその意味は・・・。日南町の自然と人のすばらしさを知ることができる小説ですが心に残る言葉、示唆は感じなかった。

20199月 日南観光協会刊

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