時代認識2でも述べたように、通常の歴史区分では中世とは封建時代を指すが、このブログの中では勝手に、中世を「ある1つの大きな秩序が壊れて、別の秩序へと移行する期間」と再定義してしまっている。だから、通常の意味の中世とは過去の一時期に出現した、ある社会状況ということになるが、私が言う意味での中世は、未来においても繰り返し出現する可能性のあるものだ。
昔(ってのは40年くらい前のことだが)NHKでやっていた『未来への遺産』という番組の「古代が現代であったように、現代もまた古代である」というコピーが、今も私の頭の中に鮮烈に焼き付いている。
では、BGMは1、2と同じフジコ・ヘミングの演奏によるベートーベンのピアノソナタ17番『テンペスト』第3楽章のままで、続きを行ってみよう。
実は、この文章を書くに当たって自分なりにいくつかの仮説を立てて、歴史の周期を探すということを実際にやってみた。その結果は──
結局、歴史全体を包括して説明できるような周期を見つけることはできませんでした。
というのが結論。
そして、もう1つ──
1つの仮説をもとに恣意的にある期間を選び、更にそこから、その仮説に従って恣意的に歴史的な出来事を抽出すれば、いくらでも○年周期説みたいなものをでっち上げることは可能。
ということ。
それはつまり、「歴史は○年周期で繰り返される」と思って見れば、確かにそう見えなくもない、ということを意味している。言葉を換えれば、歴史がどのように見えるかは、それを見る人それぞれのあり方の反映である、ということだ。時代認識1で書いたバシャールの言葉は、もしかしたらそういったことを言っていたのかもしれない。
だから(1でも書いたように)ここに述べたこともまた私の時代認識であって、それは私にしか意味を持たないことなのかもしれないが、最後に書いておきたいことがある。
最初に戻って、歴史に学ぶということを考えた時、日本史はどこにフォーカスしておくべきか? 私が思うに、今、フォーカスしておくべきは
1.平安時代末期から鎌倉幕府成立まで
2.鎌倉時代末期から南北朝時代
3.室町時代中期から戦国時代初期
ではないだろうか。
1は白河上皇の時代辺りから王家(天皇家)の治世に混乱が生じ、天皇、上皇、法皇の間で権力闘争が勃発。そこに公家や武家が加わって動乱となり、朝廷を中心とした政治システムが瓦解していった時代。
ちょうど2012年の大河ドラマ『平清盛』が描いたのがこの時代。大河ドラマ史上最低の視聴率を記録し「不名誉なドラマ」とも言われるが、『平家物語』以前の朝廷の複雑極まりない政治情勢が、しかも源氏側の視点ではなく平氏側の視点から、極めてわかりやすく描かれていた、という意味で出色の出来だった。
また「週刊モーニング」でも、かわぐちかいじが「ジパング第2章」として同じ時代を描く『深層海流』の連載が始まった。こちらは『平家物語』的な源氏側(特に頼朝)の視点から、この時代を描くものらしい。
2は歴史区分から言っても日本のザ・中世とも言える時代で、鎌倉幕府が滅亡して「建武の新政」によって政権が一旦は王家に移るが、すぐにそれが崩壊し、一つの天下に二人の帝が並び立つ「一天両帝」という異形の時代を迎えるまで。
現皇室の正当性などに触れる可能性もあるキケンな時代でもあるため、この時代を描いた作品は、大河ドラマ『太平記』くらいしかないのではないだろうか。大河ドラマ『太平記』は前半が鎌倉幕府滅亡まで、後半が室町幕府を開いた足利尊氏が路線対立から弟、直義(ただよし)を殺害するまでを描いているが、南北朝そのものは大きく取り上げられていない。
3は、足利将軍家の跡目争いに端を発し、それが日本全国の守護大名を巻き込む大乱となった応仁の乱と、その後、下克上の波が全国に伝播し、戦国時代が始まるまでの時代。
ここを扱った作品も非常に少なく、やはり大河ドラマでワースト記録を打ち立てた『花の乱』くらいしか私は知らない。この『花の乱』は歴史ドラマであると同時に、夢操(あやつ)りや、日野富子と森女(しんじょ、あるいは、しんにょ)が不思議な縁で結ばれていたり、と伝奇的要素の横溢した異色作で、私は過去の大河の中でベスト1と信じて疑わない作品。
これらの時代に人気がない理由は明らかだ。物語というのは「混沌とした状況の中、ある人物の登場で秩序が生まれ、その人が指し示す方向に向かって全体が収斂していく」ところにカタルシスが生まれるのだが、上に挙げた3つの時代はいずれも「存在していた秩序が崩れて、混沌とした状況へと発散して終わり」だから、カタルシスが生じようがないのだ。
だが、時代は間違いなく収束から発散へ、秩序から混沌へと向けて進んでいる、というのが私の見立てであり、そこで生きてくるのは、こうした時代の知恵だと思うのだ。
ああ、あの叫びが胸を打つ! かわいそうに、みんな溺れてしまった!
私がもし力のある神様だったなら、海なんか陸の下に沈めてしまったのに、そしてあの立派な船も乗っていた人たちも海に呑み込ませはしなかった。
ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』
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