OVA『Hellsing』が2012年12月26日発売の第10話をもって完結した。まさかこんな話だったとはというところだが、一応、第1話の物語のアウトラインを示すと──
ロンドンに突如として多数の吸血鬼が出現し、市民が次々に襲われてグール(食人鬼)になるという事件が勃発。王立国教騎士団、別名ヘルシング機関が調査に乗り出す。
ヘルシング機関はヴァンパイア・ハンターとして名を馳せた、かのヘルシング教授の末裔が率いる、怪物駆逐のための専門機関であり、今度の事件に対しては現当主インテグラ・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング自らが、ヘルシング機関最強の切り札とも言うべき、ノスフェラトゥ(不死の者)、No-Life-Kingである吸血鬼アーカードを差し向けていた。
だが、この件で動いたのはヘルシングだけではなかった。ヴァチカンもまたこの機に乗じて、カトリックがイギリスを異教徒(プロテスタント)と化け物の手から奪還すべく、「イスカリオテのユダ」の名を冠する秘密部隊、ヴァチカン第13課イスカリオテ機関を送り込む。
そして、ヘルシングとイスカリオテによってロンドンの吸血鬼騒ぎは一旦収束したかに見えたが、それはこの物語のほんの幕開けに過ぎなかった。ロンドンに現れた吸血鬼たちを背後から操っていた第3の存在が、次なるステージへとその駒を進めたからである。
そして、ヘルシング、ヴァチカン、第3の存在による三つ巴の戦いは、ロンドンを地獄絵図へと変えていくことになる──。
『Hellsing』は物語そのものも壮絶だが、製作現場も負けず劣らず壮絶なものであったようだ。それは最終話である第10話の予告編(のナレーション)を見ればわかる。なお、映像を見ても、それほどネタバレにはならないと思うが、もし気になるようなら映像は見ずにナレーションだけ聞いてくれ。
ちなみに、もう少し普通の予告編もある。こちらは中田譲治演じるアーカードによるナレーションだ。
この『Hellsing』に登場してくる者たちは皆、何かに取り憑かれ、囚われ、縛られている。インテグラはヘルシングという家名に。アーカードは人であった頃の過去に。セラスは両親を惨殺されたことに。少佐は戦争の幻影に。アンデルセン神父はカトリックと神の正義に。マクスウェル大司教は「偉くなって周りを見返してやる」という怒りに根ざした野心に。ベルナドットは傭兵の血筋に。ウォルターは抑えきれない戦いへの渇望に。
しかし同時に、特にアーカード、アンデルセン、そして少佐は、とてつもなく生き生きとして楽しそうだ。彼らの生き様には「自由」という言葉が最も似合うのではないだろうか。だが、「自由」とは何ものにも囚われないこと、のはずだ。なのに、何かに取り憑かれ、囚われ、縛られている彼らに、なぜ「自由」を感じるのだろう?
それは、彼らが自身の業(ごう)を自らの意思によって背負っているからかもしれない。彼らは何にも縛られないから「自由」なのではなく、何かに取り憑かれ、囚われ、縛られながらも、自らの生を自らの意思で生きているがゆえに「自由」なのである(その代わり、その彼らの「自由」の代償が地獄と化したロンドンなのではあるが)。
何しろ道徳も倫理も宗教もクソ食らえ的な作品なので、良識ある常識人を自認する人、心の中が愛で満たされていると感じている人は決して見てはいけない。自分の中に何らかの獣性のようなもの、破壊衝動のようなもの、怒りのようなものを抱えているなら、心に何か響くものがあるだろう。少し救われた気分になれるかもしれない。『Hellsing』とは、そんな作品だ。
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