少し前のある日、CBS(クリニカル・バイオホログラフィック・システム)の創始者(?)、松原次良(じろう)先生から突然、facebookにメッセージが届いた。その内容は、
「形態形成場とCBSについて語ってください」
は? 形態形成場って、あのシェルドレイクの? 何でいきなり? そもそも俺、CBSの全体像なんて知らないし…。
と、いくつもの「?」が頭の中を渦巻いたが、松原先生とはそういう人だし(って、どういう人だ?)、ブログのネタにもなるだろうと思って引き受けることにした(安易だね)。
シェルドレイクが形態形成場について述べた『生命のニューサイエンス』は10年くらい前に読んでいたが、その本はもう処分してしまっていたので、改めて買い直した(一度処分した本を改めて買うのは、イスラエル・リガルディーの『柘榴(ザクロ)の園』以来、2冊目だ)。
で、これから映画『GANTZ』のテーマ「Ressurection in the Gantz Field」に乗せて(笑)松原先生から出された課題に回答するわけだが、まずCBSについて述べておく必要がある。何しろ課題は「形態形成場とCBSについて語れ」ということだから。
といっても、創始者である松原先生からはCBSというものの全体構想といった話を聞いたことがないので、これはあくまで私が思っているCBSであって、松原先生のそれと合致しているかどうかはわからない。
CBSはバイオホログラフィックという言葉が示す通り、「生体はホログラフィックな存在である」ということを前提としている。そして、ここで言うホログラフィックな存在とは、「部分の持つ情報が全体の持つ情報とほぼ等しい存在」ということである。
それは例えば西洋医学的なパラダイムとは全く異なる。西洋医学的な生体観は、伝統的な「全体とは部分の総和であり、部分の持つ情報は全体の情報の一部に過ぎない」という世界観に基づいている。
ただ、「生体はホログラフィックな存在である」という考え方は別にCBSの専売特許というわけではなく、いわゆる手技療法と呼ばれるものの多くは、そうした生体観に基づいて構成されている。例えば、鍼灸などで行われる脈診は「脈という局所の情報によって全身の情報が知り得る」ということであり、それは「部分の持つ情報が全体の持つ情報とほぼ等しい」という考え方なくしては、あり得ない。
西洋医学的に基づく理学検査などを除けば、手技療法で行われる検査の多くは、局所の情報から全体情報を再構成するためのものであり、だから一定レベル以上に体系化された手技療法の多くが、CBSという枠組みの範疇に捉えられる。
つまり「CBSには、ほとんど全ての手技療法あるいは自然療法が含まれる」ということであり、だから「形態形成場とCBSについて語れ」は
「形態形成場と手技療法あるいは自然療法について語れ」
と言い換えることができる。
そういうわけで、ここからが本題(いや~長い前置きだったー)。
形態形成場という考え方は、1981年に刊行された『A New Science of Life』の中でルパート・シェルドレイクが語ったもので、その日本語版『生命のニューサイエンス』は1986年に刊行されている。この本は論文形式で書かれているので、普通の意味で読みやすい本ではないが、内容は非常に刺激的である。
シェルドレイクが注目した問題は、「人間を含めたあらゆる生物で、子は親になぜ似るのか」ということだった。その問いに対しては通常、DNAによる遺伝プログラムというものを使って説明される。だがシェルドレイクは生物の発生をつぶさに見ていくと、
以上のような現象を理解するためには、発生するシステムの部分の総和以上のものをもたらし、発生プロセスの到達点を決定するなんらかの要因を想定する以外に道はない。
という。そして、それはこれまでの遺伝プログラムという考え方では説明できない、とも。
また、生物の行動(例えば、クモはなぜ他のクモから教わらずに巣を張ることができるのか?)や行動調節(例えば、足を一本切断されたイヌは運動機能を調節し、やがて三本足で上手く歩くようになる)、学習と知的行動の問題なども、それをトータルとして説明できる理論はない。
そこでシェルドレイクが打ち出したのが、発生や行動のパターン、形態を決める場──形態形成場──の存在を仮定することだった。形態形成場とはある種の鋳型のようなもので、それが存在することでパターン、形態が、ある一定の形に決まる、と考えるのである。
形態形成場は確固として不変なものではなく、さまざまな条件に基づいて柔軟に変化しながら存在し続ける。そのために、生物学的に種が近いものは形も似通っているが、同じ種でも個体ごとに微妙な違いがある。
こうした形態形成場を仮定することで、さまざまな現象を説明することができるが、シェルドレイク自身も認めているように、そうした場の存在を実験的に確認することは極めて困難であり、そのため発表から30年以上が経過した今日でも、この説はまともな議論の対象になっていない。むしろ医学や生物学でいま最も注目されているのは、遺伝子操作やiPS細胞といった分野であり、形態形成場はある意味「忘れられた学説」になっているように思われる。
その形態形成場と手技療法との関わりについては、2に続く。
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