深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

過去に受けた外力の影響が甦る

2006-09-11 09:37:22 | 症例から考える

体が何らかの外力を受けると、その影響が長く体の中に留まり続け、ある時、それが思わぬ形で現れることがある。その外力は必ずしも強いものであるとは限らない。ほんの些細な力が大きな症状の原因となっていることがある。ましてや、それが非常に大きな力だったら、なお更だ。これは、そんなケースの患者の話。

50代、男性。主訴は左下肢(特に下腿)外側のつるような痛み。2カ月ほど前、まず左腰に痛みが現れ、それが1カ月くらいの間に徐々に左下肢に移動して現在に至る。整形外科や鍼灸、カイロプラクティックの治療を受けたが、症状は変わらなかった。それどころか、ウチに来る前に行ったカイロの治療院では「大腿二頭筋の筋肉痛だろう」と言われてグイグイ強揉みされ、揉み返しで前より症状が悪化して、行くのをやめてしまったという。10年前に交通事故で重傷を負ったことがある。

調べてみると、横隔膜に弱さがあり(この患者がヘヴィー・スモーカーであることも原因かもしれない)、腰方形筋、大腰筋は左右、中殿筋、大腿筋膜張筋、広背筋、上・中僧帽筋はことごとく左が弱化している状態だった(もっと正確に言うと、腰方形筋と大腰筋は右がオーバーファシリテーション、左がアンダーファシリテーションの状態(注1))。つまり、全体に左の筋肉が弱化している状態だったため、左右の脳半球も調べると、これが予想に反して、左脳が弱っているという結果が出た。脳はたすきがけのように、左脳半球が右半身を、右脳半球が左半身を支配するので、左半身に問題が集中する場合、一般には右脳が弱っていることが多いのだが、逆の結果が出てしまったわけだ。
(注1)通常の意味で筋力が弱いというのがアンダーファシリテーション。オーバーファシリテーションとは、筋肉テストを行うと筋力は強いのだが、体がその筋肉の力を抜けなくしているために強く見えるだけの状態(つまり、実は筋肉は弱化している)。

1回目の治療は、横隔膜を含めて、これらの弱化した筋肉を強くするための治療を行ったが、左の腰方形筋、大腰筋の弱化は残り、症状にも変化はなかった。

2回目は、骨盤(正確には腸骨)からのクラニオセイクラル・バイオダイナミクスを行い、組織、体液、ポーテンシー(=生体エネルギー)の動きを見ると、右膝周辺に強い滞りを感じ、それが静止への誘導を重ねても解消されなかった(注2)。と、ここで患者の10年前の交通事故を思い出し、それが右膝に残っているのかと考え、調べてみることにした。
(注2)静止への誘導はクラニオセイクラル・セラピー(頭蓋仙骨治療)のテクニックの一つで、組織、体液、ポーテンシーの動きに乱れがある時、その動きそのものを一旦チャラにする。バイオダイナミクスでは7層まで静止の誘導を重ねることができる、と考える。

その交通事故について患者に尋ねると、トレーラーとの衝突で、車は大破。車高の高い外車だったため、トレーラーの下に潜り込むような形にならず、即死は免れたが、全身にガラスなどが突き刺さった状態だった、らしい(医師からそう言われた、ということで、本人は覚えていないという)。気がついたらICUにいたが、検査の結果、奇跡的に、その全身の切り傷以外は特に異常や損傷は見つからなかった。そのため、当時は仕事が忙しかったこともあって、医師の反対を押し切って退院したのだという。その後も、事故の後遺症のようなものを感じたことはなかったようだ。

しかし、過去に受けた外力の影響を調べると、出るわ出るわ。最終的には左側頭部と左側胸部には右への外力が、左肩後面は右前内側への外力が、右大腿部外側には左への外力が、それぞれ加えられていたことがわかった(左脳半球の弱さも、これが原因だったのだろうか?)。外力を受けた方向のうち、左肩だけ側頭部、側胸部と違うのがちょっと不思議だったが、ハタとひらめいた。この人は事故が起こった瞬間、多分、体をかばおうとして左肩を内側にすぼめた姿勢を取ったのだ。その姿勢で、上半身には右側への、下半身には左側への外力が加わり、ちょうど体が本人から見て腰を中心に右回転するような格好になったのである。この外力の影響を取ると、立ち上がった時の姿勢が見違えるほど安定した。実際、次の治療の時に、本人からも「まわりから、以前より真っ直ぐ歩けていると言われた」という話を聞いた。ただ、左下腿外側の痛みそのものは変わらないという。

その後、更に2回を費やして、残った外力の影響を取り除き、更にタバコを負荷した状態での筋肉の変化も調べて治療した。が、症状そのものに変化はなく、左腰方形筋も、筋肉テスト動作での左腰の痛みが残ったままだった。心理的逆転(サイコロジカル・リバース)(注3)がありそうなので、今度はそれを調べるか、と思っていた矢先、その患者は突然、来なくなってしまった。ウチではそもそも揉みはやらない(正確には、まったくやらないわけではないが、せいぜい1年に1~2度)ので、揉み返しがひどくなった、ということではない。多分、症状が変わらないので、治療を打ち切ることを決めたのだろう。
(注3)顕在意識と潜在意識の間に矛盾が生じている状態。例えば、顕在意識は「私は自分の体を治したい」であっても、潜在意識が「治らなくていい」だと、治療効果が出にくいことがある。

残念な結果に終わったが、こだけ鮮やかに過去に受けた外力の影響が出ている患者というのは初めてだったので、その部位と受けた力の方向がだんだんわかってくる過程は、やっていてゾクゾクするような感じがあった。心理的逆転を出発点に、更に心理的な方向から探っていったら、何か次の展開があったかもしれない、とは思うが…。


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