怪しいDMが届く

この間、またウチのFAXにDM(ダイレクト・メール）が届いた。いつもなら、そのままゴミ箱に直行なのだが、今回のはいろいろな意味で面白いDMだったので、ここに紹介することを思い立った。まずは、ちょっと長いのだが、その全文を見ていただこう。

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　お願いがあります。私は不思議なことを研究している森田健と申します。自分で申し上げるのも恥ずかしいのですが、テレビ放映などもされており、日本ではかなり有名な研究家です。
　このたびはあなたにご相談にのっていただきたく、失礼を顧みずファックスにてご連絡させていただきました。実は、占いに関してのレポートを作りましたので、あなたにぜひ評価していただきたいのです。

　世の中のことは最初から決まっていると言ったら、信じられますか？　まさか、と思われるかもしれません。でも、運命が決まっているからこそ、人は占って知ろうとします。そして既に決まっている運命を変えようとします。
　私も自分の運命が決まっているとは思いませんでした。でもその考えは、中国で出会った考古学者により、みごとにひっくり返されました。彼は世に出ていなかった占いを発掘し、私に教えてくれたのです。
　私はさっそくその占いを使って株を運用してみました。結果はどうだったでしょうか。なんと半年で８倍、もうけが１億４千万円にもなったのです。証券会社のその支店での半年のパフォーマンス(利益率）は、もちろん私が最高でした。

　この占いは運命を変えることができることもわかりました。ある女性は、自分が大学院には入れるかどうか占いました。結果は合格と出ましたが、同時にお父さんが病気で亡くなるので大学院に行くことはできないとも出ました。お父さんが亡くなる日まで出たのです。彼女はこの不吉な結果に驚きましたが、占いには彼女の運命の回避方法も出たのです。それは『庭に８匹のうさぎを飼いなさい』でした。まもなくお父さんがほんとうに重い病気にかかったため、彼女は８匹のうさぎを飼いました。ついにお父さんの死ぬ日が来ました。その朝、なんと８匹のうさぎが死んでおり、お父さんの病気は全快していたのです。いま彼女は喜び勇んで大学院に通っています。

　この占いは本当にこんなに当たるものなのでしょうか？
　私はいくつもの事例を集め、なぜこの占いがこんなに当たるか、必死に研究しました。そしてあることに気づいたのです。私はその結果を２５ページのレポートにまとめました。かなり満足のいく内容と思います。これをあなたに無料でお送りしますので、是非評価していただきたいのです。
　すでにレポートをヤマトのメール便でお送りする準備はできているのですが、あなたの許可を得ずにお送りするわけにはまいりません。ご許可いただければさっそく送らせていただきます。
　尚、あなたのファックス番号はNTTの電話帳で知りました。突然のご連絡で、ご無礼のほどは何卒お許しください。まずはお願い申し上げます。
不思議研究所　所長
森田　健

以下にチェック・記入の上、ファックス（０１２０－６５－５９６９）でご返送くださいませ。
またこのファックスにご立腹の場合、紙代・インク代に相当する品物をお詫びにお送りいたします。必ず「永久に削除」と「非常に立腹」にチェック・ご記入の上、その欄を使ってご送付先・お名前をお知らせください。

□占いのレポートを送ることを許可します。レポートは無料で、私に義務や負担はありません。
ご送付先：〒

お名前

□永久に削除してください。削除するファックス番号：
□非常に立腹しています。

ＰＳ．レポートをお取り寄せいただいた後、その段階でもっと興味のある方には「億万長者になれる裏道」という小冊子をプレゼント中です。
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不思議研究所と言うだけあって、まったく不思議な文面だ。ツッコミどころはいろいろあるが、まずこの森田健さん、「世の中のことは最初から全て決まっている…」と書いておきながら、「この占いは運命を変えることができる…」って何？　そりゃ要するに「運命なんて何も決まっていない」ってことじゃん。コレはこの占いの根幹に関わる大きな矛盾ではないのかな？

ただ、例として挙げられている、大学院を目指していた女性の話は、変にリアリティがなくて、「作り話なら、もっとうまく作るだろう」と考えると、それが逆の意味で妙にリアリティを感じちゃったりして、オイラとしては及第点をあげたいところだが、惜しいことに文章全体がその効果を完全にブチ壊してしまっている。と言うのも、この文章は全体がエモーショナル(感情）マーケティング(面倒なので、以下EM）のテクニックをてんこ盛りして作られているんだから。

EMというのは、コンサルタントの神田昌典氏がアメリカから持ち込んだマーケティング手法の一つで、可能な限り「売り込み臭さ」を排して相手の感情に訴えることで、「売り込む」のではなく「相手が自発的に買う」ようにする、というのが基本的なコンセプト（詳しくは神田さんの書いた『あなたの会社が９０日で儲かる！』(フォレスト出版刊）などを見てくだされ）。

この森田さんの文章で言えば、冒頭の「お願いがあります」に始まって、「あなたにぜひ評価していただきたい」、「すでにレポートを…お送りする準備はできているのですが、あなたの許可を得ずには…」「レポートは無料で、私に負担や義務はありません」などなど…いや～森田さん、相当EMを勉強してるね～。もしかしたら占いよりEMの方をずっと熱心に勉強してるんでは？　でも、「売り込み臭さ」を消したはずなのに、逆にEM臭さがプンプン臭うのは何故？　もしかしたら、よくあるEMの例文をそのままパクってしまったせいかな？　EM臭いDMなんてシャレにもならないよ。

それより何より、その占い（不思議研究所のHPによると六爻占術らしい）が本当にそんなによく当たるのなら、なぜDMにEMのテクなんか使う必要がある？　オイラにもしそんな占いができるなら、DMはあらかじめ反応のあるところだけを選んで決め打ちで出すね。そして、反応があることは占いの結果からわかっているのだから、中身もこんなに長々と書く必要はなく、もっとシンプルに用件だけ書けばいい。EMなんて使う必要は、そもそもないのだ。まさか占いの結果、「DMにはEMを使え」と出たとか？　──そんなワケないでしょ。

あ～「レポートを評価してくれ」とあったのに、どういうわけかDMを評価しちまった。でもDMがコレじゃ、そのレポートってヤツも何となく程度は知れるね。そもそもEMでは、無料で何かを提供することは、見込み客を集める非常に効果的な占術、じゃなくて戦術の一つ。森田さんも、本気でレポートを評価してもらいたいのではないことくらい、オイラでもわかる。

もし、これを見て森田さんの「無料レポート」を請求する奇特な方がいたら、その結果をぜひコメントで書いてほしい。オイラとしては、森田さんの「無料レポート」より、そっちの方のコメントをゼヒ読んでみたい。