タロットカードの22枚の大アルカナの17枚目、ⅩⅥという番号(注1)を持つカードは、一般に流布しているアーサー・エドワード・ウェイトによるウェイト版(ライダー版)では「THE TOWER」となっているので、通常はそれに合わせて「塔」という名で呼ばれている。描かれているのは、雷を受けて崩れ落ちる塔の姿である。
(注1)大アルカナの1枚目のカード「愚者」は番号を持たない、言わば0番のカードなので、17枚目のカードの番号はⅩⅥとなる。
このカードの意味は、描かれている絵の如く、破綻、崩壊、解体、衝撃、清算、急変などを表すとされている。
ところがタロットの原型ともいわれるマルセイユ版、そしてそのマルセイユ版の大元になったといわれるカモワン版では、それとは全く異なる「LA MAISON DIEV(神の家)」という名が与えられている。この「LA MAISON DIEV」という名前は、一説によると「LA MAISON DE FEU(火事の家)」が誤って伝えられ「LA MAISON DIEV」になったとも言われている。だとすれば、それはウェイト版の「塔」のイメージにうまく重なる。
だがカモワン版を解説した大沼忠夫先生の『秘伝カモワン・タロット』(絶版)では、「神の家」のカードについて全く異なる解釈がなされている。
普通、このカードは聖書に現れるバベルの塔と見なされ、驕り高ぶった人間が天に届けとばかりに建造した塔が、神の怒りに触れて、一気に崩壊する図であると受け止められている。そのため「崩壊する塔」と名づけられることが多い。だが、カモワン流ではまったく別の読み方をする。
この塔は決して崩れてはいないのだ。天上から神の光が降りてくることは確かであるが、建造物はびくともしていない。斜めになった王冠は、この塔が神の家として戴冠しているところを表しているのである。そこからひとりの人間が這い出しているが、これは神の光を受けた者は、人間ではいられなくなることを示している。前面の人間は塔の中にいた者が落ちてきたのではなく、通りがかりの人間が、この衝撃的事件のとばっちりを受けて、驚いてひっくり返っている図である。その証拠が黄色い足跡である。
(中略)
この神の光が降りてきて、それを受け入れることができると、その身体はそのまま神の住まい、つまり神の家になるのだ。この光が神から直接下されたものであることは、右上の赤いギザギザに垣間見ることができる。その下にあるのは神の胚である。このとき眼も眩むような光の体験とともに、神の受精が行われるのだ。
この衝撃に耐えきれないで命を失う者は数知れない。それゆえ、このカードは破滅とか崩壊という意味で受け取られているのだ。だが、カモワン流では、このカードを突然出現する大々的な変化、神の摂理、成功や完成の始まり、組織的形成、建築とみなす。
(後略)
実際、カモワン版は使われている色の1つ1つ、描かれているものの1つ1つにまで意味があるので、それを読み解いていくとこのような解釈になるのかもしれない(注2)。
(注2)この解釈を用いるのはカモワン版そしてマルセイユ版タロットに対してであって、ウェイト版その他に用いるべきではないだろう。例えばウェイト版タロットは、過去から伝えられてきたタロットそのものではなく、そのタロットをベースにウェイトが自らの習得した魔術に基づくさまざまな寓意をちりばめた「ウェイトによるタロット」であり、だからそれぞれのカードの持つ意味がカモワン版やマルセイユ版のそれとは異なるものだからである。
ただいずれにせよ、塔とは天へとそびえるその姿が栄光と希望と不安を孕み、それゆえにそれ自体が何か大きな変化、変転、変革の到来を象徴的に表しているように見える。ならば東京スカイツリーが意味するものは何だろう。「崩壊する塔」か「神の家」か?
東京スカイツリー開業に寄せて──。
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