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日本経済新聞様より
「ニコ動」世界へ ネット文化変え、稼げる経済圏を ネット上の才能を現実世界に解放~ドワンゴの挑戦(3)
日本の動画配信サイト「ニコニコ動画(ニコ動)」が今夏から海外展開を本格化させる。海外への出口を作ると同時に、国内では「稼げる仕組み」の構築も急ぐ。「役に立たないことを全力で楽しむ」「もうけることを嫌う」といったネット文化への挑戦。日本に貢献できる独自の「ニコ動経済圏」を確立すべく、コンテンツ革命の歩を進める。
ニコ動の生みの親、ドワンゴの川上量生(のぶお)会長は、ニコ動にとって重要なプロジェクトに限って、いつも「ひっそり」とやろうとする。リリースを出し、記者会見で「大きな収益を狙う」とぶち上げるのは性に合わない。海外展開も、ひっそりと始めるつもりだ。
ニコ動発のコンテンツ文化は世界に広がっている(ユーチューブから)
「まだニコ動はまったく日本のためになってない。でも、予感みたいなものは感じている。ユーザーを見てて、こいつらと一緒だったら世界で勝負できると思ってる」――。こう語る川上会長はこの夏、ニコ動の海外進出を本格化させようと画策している。今夏にもニコ動を中国語を始めとする多言語に順次、対応させる見込みで、まずは日本のコンテンツ文化の発信基地として世界的な認知度を高める計画だ。
初音ミクなどの「ボカロ曲」や、それらを「歌ってみた」「踊ってみた」動画といったニコ動の人気コンテンツは、動画配信サイトの「YouTube(ユーチューブ)」を通じて世界にも浸透しつつある。ニコ動は「本家」として海外ユーザーでも親しみやすくすると同時に、海外からの投稿も受け付け、日本のコンテンツ文化を基軸とした交流も促す。この5月にはニコ動のロゴとサイト名を日本語から「niconico」へ変えるなど、着々と準備も進めている。
■「ニコ動経済圏」への布石
ニコ動はこれまで、2007年10月に台湾版、08年7月にドイツ版とスペイン版(11年12月に閉鎖)、11年4月に英語版サイトを別途、開設。海外展開に向けた試行を重ねていた。「これまでの海外サイトは実験なので、まあ無視してほしいというのが本音です」(川上会長)。試行を経て新たに始める多言語化では、動画の説明を各国語に自動翻訳するなどの新機能が検討されている。
「ニコニコ超会議」でダンスを踊る数百人のユーザー。曲も振り付けもユーザーによるオリジナルだ
「最終的にはニコ動でコンテンツを作るだけで、ある程度の生活がまかなえるような、そういう経済圏を作りたい」。こう明言する川上会長は、「稼げる場所を才能あふれるネットの住民に与える」というテーマのもと、ユーザーがコンテンツを自給自足する「コンテンツ革命」の黒子として、彼ら彼女らの創作活動を後押ししてきた(記事下リンクの過去記事を参照)。
民主党の小沢一郎元代表の単独会見など「公式コンテンツ」も話題になるが、コンテンツ生産の主役はあくまで一般ユーザー。クリエーターとして稼げる独自の経済圏を確立することがゴールで、海外展開はその間口を広げる布石と見てよい。先行して国内でもこの4月、経済圏確立に向けた布石を打った。独自経済圏の中でお金を環流させる「クリエイター奨励プログラム」である。
■国内では「年額4億円」を還元
名古屋市の専門学校でコンピュータ・グラフィクス(CG)の制作技術を学ぶ上松友規さん(22)は4月初め、ニコ動の画面を見て驚いた。上松さんが投稿した動画の4月分の報酬として、2万円ほどが銀行口座に振り込まれることが分かったからだ。上松さんが手にしたのはニコ動が新たに始めたクリエイター奨励プログラムの報酬。同プログラムは動画の人気度に応じて投稿者に報酬を与える試みで、報酬の原資はドワンゴが用意した「年額4億円」だ。
ニコ動は、さまざまな優遇が受けられる月額525円の有料サービス「プレミアム会員」の課金収入で運営コストの多くをまかなっている。今年5月時点のプレミアム会員数は、2725万人の登録会員全体の約6%にあたる162万人。この月額8億円超、年間で100億円近いユーザーから集めた資金の一部を、この4月からコンテンツのクリエーターに還元し始めた。
第三者の権利を侵害していないオリジナル作品であることが前提で、誰でもプログラムに参加申請することができる。報酬額は動画自体の人気に加え、二次利用、三次利用された「子作品」の多さやその人気も加味され月ごとに決まる。
4月に支払われたのは原資の12分の1に相当する約3000万円。対象は、これまでニコ動に投稿された約765万の動画のうち、今年3月までに参加申請があった数千作品。参加する作品が増えるほど分け前も減る「山分け」の仕組みで、5月以降、平均報酬額は減っていくと見られる。
■月額100万円以上を数人が手に、数万円でも「励みになる」
上松さんがホームページで紹介しているCG作品。「別物だから」とニコ動に投稿している作品は紹介していない
気になる額だが、この4月だけで100万円以上を受け取った動画投稿者が「3、4人くらいいる」(川上会長)といい、下は数百円と幅が大きい。多くは上松さんのように数万円だったようだ。それでも上松さんは「創作の励みになる」と喜びを隠さない。
上松さんがニコ動にCG(コンピューターグラフィックス)アニメーションの動画を投稿するようになってから2年余り。最近では人気ランキングの上位に入ることも珍しくない。
専門学校でCGの制作技術や実写との合成技術を学び、映像技術者として就職を目指す傍らで、喜んでもらえるのが楽しくてニコ動への投稿を繰り返すようになった。将来の夢は、撮影・音楽・演出・プログラミングのすべてを担う総合的なプロデューサー。その見習いの身である上松さんは、自身の作品への対価を初めてニコ動から受け取ったことになる。
上松さんは、さすがに奨励プログラムだけで食べていけるようになるとは、到底思っていない。だが、「映像クリエーター職は長時間労働で薄給が基本の世界。そんな中で奨励プログラムは、ささやかながらも作者の生活を豊かにし、より創作しやすくする環境を作る手助けとなる。クリエーターの選択の幅を広げる、ひとつの希望になり得ると感じています」と話す。
ニコ動でボカロ曲の動画が人気になっても、作曲した「ボカロP」や「歌い手」「踊り手」などとは違い、動画で使用されたイラストを描く「絵師」やアニメーションを作る「動画師」の仕事はあまり注目されない。努力の成果が現金という形で評価される新たな仕組みは、そんな地味なクリエーターの創作意欲もかき立てる画期的な試みといえる。ただし……。
■「ひっそり」と始まったワケ
「実はクリエイター奨励プログラムはニコ動にとって、かなりの大事件なんです。ひっそりとやっていますけれど」。川上会長がこう漏らすように、大きな取り組みだが、声高に喧伝されてはいない。「ひっそり」と始めたのにはワケがある。
「もともとネットには、お金を絡めない、絡ませないという文化がある」。川上会長がそう言うように、タダを基本とするネット上で商業のにおいは忌み嫌われる。「嫌儲(けんもう、けんちょなどの呼び方がある)」という造語が広がるほどだ。
特にニコ動でその傾向は顕著。「楽しいから」「楽しんでもらいたいから」動画を投稿するというのがクリエーターたちの基本路線であり、それが商業コンテンツに対するプライドでもある。こうした文化を背景に、奨励プログラムは一部ユーザーのあいだで物議を醸し「炎上」も引き起こした。
■コンテンツ革命最大の壁への挑戦
他人の動画をコピーして作者になりすましたり、二次利用が許可されていない素材を使ったりしたユーザーが不当に利益を得る可能性がある――。奨励プログラムの構想が発表されて以降、こうした「穴」をブログやツイッターなどを通じて糾弾する声が高まった。実際、奨励プログラムへの参加申請があった中で、不正なものがいくつか報告されている。
ドワンゴはこうした権利侵害などがある作品を、ユーザーからの不正報告やスタッフによる巡回チェックなどを経て除外するため、振り込みまで3カ月の猶予期間を設けている。しかし、本当にすべての不正を見抜けるのか、疑問視する声は多い。クリエーターを支援するつもりが、逆にクリエーターの権利や利益を損ねる結果を招くのではないか。そうした声がドワンゴに多数届き、川上会長のツイッターにも「反対派」の刃が向いた。ドワンゴの公式な回答はこうだ。
「正直に申し上げれば、不正を完璧に100%防げると断言するのは難しい。ただし、できるかぎり最大限の努力はしていく。また、悪質な申請者に対しては、法的な対応を検討している」
こうなることはある程度、予期していた。それでも奨励プログラムの運用に踏み切ったのは、ニコ動経済圏の確立を前進させるためにほかならない。
ニコ動のクリエーターは「役に立たない」「才能の無駄使い」と揶揄(やゆ)されてきた。「ニートは日本最大の遊休資産」と言ってはばからない川上会長は、その「エネルギー」をお金に、果ては外貨に換金する「エンジン」としてニコ動を機能させ、何とか日本に貢献できないかと思考を巡らせている。まずは、もうけることを嫌うネット文化を少しずつ変えねばならない。奨励プログラムはそのための試金石なのだ。活動の場をニコ動に閉じているクリエーターにとっては、さらに大きな意味を持つ。
■ニコ動経済圏に閉じた「スター」に報いる
ニコ動で活躍する誰もがプロデビューを果たしたいと考えているわけではない。踊り手の「まころん」さんもその1人だ。20歳代後半の彼女は、08年からボカロ曲を中心に踊ってみた動画を投稿し始め、その本数は今年5月時点で32本となった。うち2本の再生回数は100万回を超えている。
まころんさんは幕張メッセで開催されたライブ「ニコニコ超パーティー」にも出演。多数の祝い花が届いた
「楽しいからやってるっていうのが一番です。趣味の一環という割には大変なんですけどね」。そう笑う彼女は、普段は茨城県内で栄養士として働く日々。夜間や休日を利用してダンスを練習しては投稿し、人気に火が付いた。まころんさんのファンクラブというべきニコ動のコミュニティー「まころん@神龍と秘密の部屋」には、2万5000人ものメンバーがいる。
4月末に千葉市の幕張メッセのイベントホールで開かれたニコ動発のスターによるライブ「ニコニコ超パーティー」にも出演した。会場入り口に飾られた祝い花のうち、実に半分が彼女向けなど、超が付く人気の踊り手だ。しかし彼女は、芸能人になりたいとは思っていないという。
「私もニコ動ユーザーのひとりであり続けたいんですよ。仮にデビューして事務所に入ったら仕事になっちゃう。そうなるとユーザーのみんなとの距離が離れちゃう気がして。それにデビューできたとしても、しょせんプロの底辺。それってプロの素人ですよね。だったら、素人のトップを目指したい」
ただ、仕事が終わって疲れ果てていても、新作を投稿する前は相当な練習を積む。動画の編集も1人でこなす。何のためにニコ動のスターであり続けるのか。「たまに、自分でも何でやってんだろうなと思う時があるんですよ(笑)。でも、『元気もらったよー』とかのコメントを見ると頑張ろうと思う。もっと歳とると動けなくなるし、今しかできないことをやりたいなと」
芸能人でもないし一般人でもない「ニコ動スター」。プロデビューを果たしたとしても、二足のわらじを履くニコ動スターもいる。
■プロになってもニコ動ユーザーであり続ける
デビューしてもサラリーマンは辞めないという蛇足さん
色気のある低音ボイスで押しも押されもせぬ人気の歌い手、「蛇足」さんは昨年11月、ニコ動で人気の歌い手4人と組み「ROOT FIVE」というユニットでエイベックスからデビューした。だが、今も都内のIT会社で営業・企画職を続けるサラリーマンだ。ツアーで全国のライブハウスをめぐり、4月の超パーティーにも出演するなど忙しい日々を送る彼は、こう語る。
「僕もそうですけれど、ニコ動はもともとオタク気質が強い人が作品を発表する場。見たいって言ってくれる人がいるから出てるって感じで、表に出たいと思ってやってるかというと違うんですよね。自分のやりたいことをやっていたら、結果、こうなっていた。これからプロで食べていこうとは考えていない。30歳も超えてある程度の収入はあるので、これからも仕事は続け、趣味を超えない範囲でやっていこうと思っています」
既存の商業コンテンツの世界とは別の論理で活動するニコ動のアーティスト。プロデビューという収益化の手段は、必ずしも彼ら彼女らの思いをすべて満たすわけではない。そうしたクリエーターにも、奨励プログラムは報いることができる。
もっとも、ニコ動スターであるほど奨励プログラムへの抵抗感は強い。まころんさんは「金銭目的で作ったわけではない作品を、金銭的に評価されることに戸惑いを感じる。汚れたお金じゃないのは分かっているけれど、受け入れるのに時間がかかる」とする。それでも「現実問題としてカメラだったり編集機材にお金はかかるので、還元はありがたい。様子を見てみます」と話す。そう、川上会長にしても急ぐ話ではない。ひっそりとじわりと広がり、変わればいいのだ。
もう1つ、奨励プログラムにはニコ動経済圏にとっての重要な意味がある。
■著作の派生を「コンテンツツリー」で管理
ニコ動はユーザー同士の自由闊達な二次創作、三次創作の積み重ねで発展してきた。ニコ動の世界において著作は守られるものではなく、再生産のために消費されるもの。奨励プログラムには、この複雑な著作の関係性を可視化し、人気の元作品が金銭的対価で報われるようにしようという狙いもある。やりたい放題の世界に一定の規律を持ち込もうということだ。
奨励プログラムに参加するためには、ニコ動内での作品の親子関係を整理する「コンテンツツリー」という機能に登録する必要がある。二次創作、三次創作の作品であれば、引用元の作品を親としてひも付けなくてはならない。奨励プログラムの報酬額は、前述のように子作品や孫作品など下に連なる関連作品の多さや人気も加味される。
これにより、あらゆる創作のベースとなるボカロ曲の動画はもとより、踊ってみた動画が参考とするオリジナルの振り付け動画や、歌ってみた動画が映像に使うCGアニメの動画といった、「再生回数は伸びないが重要な役回り」の著作者も報われる。川上会長は言う。
「僕らはネット文化のあり方を変えようとしている。奨励プログラムはその1つの挑戦。かなりニコ動の文化や雰囲気が変わるかもしれない」。奨励プログラムはリスクを伴う挑戦だ。しかし文化を変えずして先に進むことはできない。ニコ動の歴史とは、ネット文化を変革する歴史ともいえる。
■役に立たないことを役に立つへ変換
初期のニコ動は商業コンテンツを全力でいじり倒す世界だった。役立たずで、くだらない世界だ。違法コンテンツが問題となり削除が進むと、ユーザーは自ら遊べるコンテンツを自給自足して遊ぶようになった。しばらくコンテンツのアウトプットは「楽しんでもらう」に終始していたが、イベントなどでユーザー同士や社会との接点が増え、現実世界でも認められるようになった。
08年12月より誰でも動画の生中継ができる「ユーザー生放送」のサービスが始まると、「顔出しは危険」というアレルギーが徐々に溶けていった。マスクなしで踊ったり、イベントに出演したりすることへの抵抗がなくなり、ユーザー同士の現実世界での交流がさらに加速した。
そしてニコ動は今、経済圏へと昇華させる革命に臨んでいる。著作権管理と金銭的対価に象徴される、うるさい商業コンテンツの世界にそっぽを向き、自分たちの世界を築いたニコ動ユーザー。一気に経済圏の方向へ振れば、総スカンを食らいかねない。じわじわと水が染み入るような絶妙な加減を要する。今のところ、「文化革命」はうまくいっているように見える。
ボカロPや歌い手などがプロデビューを果たすと動画には「おめでとー」「買ったよー」という賛辞のコメントがあふれる。超パーティーなどのライブイベントのチケットは毎回完売し、ライブの生中継を有料で視聴するユーザーも数万人規模に増えた。
そんな中で導入された奨励プログラムは、ネットのコンテンツで正当に稼ぐことが当たり前となり、むしろたたえられる文化へと変革する契機となるかもしれない。著作者への対価の支払い方という文化も大きく変わりそうだ。
■楽曲のダウンロード数に応じてドワンゴが著作権料で還元
奨励プログラムは、ユーザーから広く薄く得たプレミアム会員からの課金を再配分するという、いわば「税金」のような考え方。CDの価格に著作権料が転嫁されている商業コンテンツとは一線を画す。再生する行為が報酬の上乗せとなるため、無料の視聴ユーザーも著作者に貢献できる。
奨励プログラムとは別の還元策も始まる。ニコ動は動画の音楽をタダでダウンロードできる「NicoSound」という新サービスを今夏にも始める計画だ(一部会員は試行中)。新たにドワンゴは日本音楽著作権協会(JASRAC)と包括契約を締結した。これも考え方は奨励プログラムと同じで、ドワンゴが一括して楽曲のダウンロードにかかる著作権料を収める。例えばボカロ曲の作者がJASRACに信託していれば、ダウンロード数に応じて著作権料が還元されるようになる。
「みんな、思い込みに縛られている。ユーザー生放送が始まる前、顔出しはしないだろうって言われた。プレミアム会員制では、動画サイトで課金は無理だろうって言われていた。そういう固定観念を崩していくのが好きなんですよね(笑)」。川上会長はそう無邪気に語る。
■「長期戦で腰を据えないと世の中は変えられない」
ニコ動だけで生活できるような経済圏を作る――。無理だろうと唾棄されようが川上会長はまい進する。そして、日本で培った新たなネット文化はついに世界へと挑む。ただ、具体的に海外展開がニコ動経済圏にどう寄与するか、はまだ先の話だ。
「いきなり現金化するエンジンを作ろうとしても難しい。まずは、ニコ動が海外で人気になる。日本のコンテンツを現金化しやすいエネルギーに『変換』する必要がある。長期戦。どっしりと腰を据えてやる。世の中を変えようと思ったら、生半可なことでは無理なんですよね」
カンブリア宮殿の収録風景は、ニコニコ生放送でも中継された
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カンブリア宮殿の収録風景は、ニコニコ生放送でも中継された
ニコ動事業の直近半期(11年10月~12年3月期)の売上高は約66億円、営業利益は6億2500万円。11年6月から安定して黒字を出せるようになったが、株価は芳しくない。5月24日放送のテレビ東京系列「カンブリア宮殿」で作家の村上龍氏と対談した川上会長は、ニコニコ生放送でも中継した収録でこう語った。
「ドワンゴの株価が一番高かったのは7、8年前で、ずっと下がってるんですよね。ニコ動は資本市場ではあんまり評価されてない。ただ、(目先の)株価や利益に縛られて生きるのって僕は『ぬるい』と思ってるんですよね。本来、会社というのは生存競争で死ぬか生きるか。だから僕は生き残ろうとはしています。で、生き残ろうとすると、今期の利益や株価がどうのこうのとかね、そんな甘ったれたこと言ってて大丈夫なのって僕は思いますよね」
■ユーザーは搾取の対象ではなく、共生する仲間
常識外れだろうが、川上会長は株主の顔色をほとんどうかがわず、直近の業績にもこだわらない。ただ、ひたすらにユーザーと向き合い、迎合はしないが「共生」しようとする。4月29日深夜、6時間以上にも及んだニコ動スターらによるライブ、超パーティーが終わったあと、出演した数十人が参加したささやかな「打ち上げ」に、川上会長も顔を出した。舞台裏をこっそりとのぞいてみた。
ニコニコ超パーティーの終了後、川上会長はニコ動スターらのささやかな打ち上げに顔を見せた
「ドワンゴっていう会社は、ふつうのIT企業とは違ってですね、お金を稼ぐことばかりじゃなくて、使うことの方が大切だと、そう信じている会社です。これからも皆さんのためにですね、お金に関係なく、いいニコニコの世界を発展するためにいろいろと考えてみたいと思います」
疲れ目の川上会長が挨拶し、続いて運営スタッフも謝辞を述べると、そこにいたユーザーたちは聞き入り、惜しみない拍手を送った。中には涙を浮かべる者もいた。運営会社の社長ではなく、我らを率いる仲間のボスとして心酔しているようだった。(完)
(電子報道部 井上理)