今から 25年前の 6月、北海道から千葉県に3ヶ月ほど出張し、滞在の残りが少なくなった頃の出来事でした。 きつかった仕事から、もうすぐ解放される。 そんな安堵感から「最後の土曜日だ 今夜は思い切り飲もう」と、一人で 行きつけのスナックへ向かいました。 ボトルキープしていたウイスキーが、半分ほど残っていたと思います。 「今日は 残ったウイスキーを飲み干そう」と、最初は水割りで数杯 その後はロック(ストレート)で、瞬く間にボトルは空になりました。 ママさんに別れの挨拶をし、お世話になったスナックを ほろ酔い気分で出ました。 そこで 吞兵衛は止まりません。 酔った勢いで 近くの居酒屋へ、日本酒の冷を何杯飲んだのでしょうか(?) 既に ほろ酔いを通り越し、半ば酩酊状態でした。 やがて睡魔に襲われ、やむなく居酒屋を出ました。 時間の記憶はありませんが、午前2時を過ぎていた筈です。 会社の宿舎まで約 1キロ、タクシーに乗ろうと探しましたが、1台も走っていません。(千葉県の田舎) 仕方なく、歩き始めました。 右にフラフラ・左にフラフラ、俗に言う千鳥足でした。 この辺は 新興住宅街で、家並みより畑が多く車道には歩道もない 都会とは無縁な街でした。 酔いと睡魔と戦いながら、宿舎まで あと200mほどの所で、一瞬 幻を見たと思いました。 街灯が少なく 薄暗い道路の向こうから、10頭位の犬が猛スピードで襲って来たのです。 暗くて犬種は分かりませんが、中型犬だったと思います。 「まずい かじられる」 逃げようとしましたが、酔いで体の自由が利きません。 「よし、先頭の犬を蹴倒そう」 よろける足で 犬の喉あたりを蹴り上げると、意外にも「キャン・キャン」と鳴き、犬の群れは 何処かへ散って行きました。 それまでの恐怖が、まるで嘘の様でした。 安心した。 その瞬間、「バシッ」胸に激しい衝撃が走ったのです。 「痛い」一体 何が起きたか分からない。 胸の痛みは、夢である筈がありません!
現実が、徐々に分かって来ました。 小柄な老人に、犬用のリード(鎖)で殴られたのです。 犬のブリーダーなのか 只の犬好き老人か、鬼の形相で襲って来るのを 薄暗い中で確認しました。 更に 鎖が“こめかみ”をかすり、多少出血したのが分かった。 「頭を狙われたら 大変だ」 咄嗟に老人の胸元を、両掌で突き飛ばしました。 尻餅をついた老人は、「この野郎」と叫び 道路の上で大の字になって動きません。 その隙に、必死で逃げました。 鎖を振り回しながら、後を追って来るのではないか? 正直、恐怖を覚えました! どうにか 宿舎に辿り着いた時は、酔いと疲れで 倒れる様に布団に潜り込んだ次第です。
余りにも、特殊なトラブルでした。 狂暴な老人が悪いのか? 泥酔した吞兵衛が悪いのか? 動物愛護と、動物虐待の問題ではありません。 やはり、犬を蹴った飲兵衛が悪い。 トラブルの原因をつくったのは、間違いなく “酒”です! 「酒は飲んでも 呑まれるな」冷静に考えると、平和な日本であっても危機回避できない程 泥酔して深夜歩き回るのは、正常な行動ではありません。 ある意味で、遭遇したのが 老人だったから助かったのかも知れません? もしも、乱暴な不良グループだったら、袋叩きにあい軽症で済まなかった筈です! 「忘れよう! あの夜の出来事は、自分の胸にしまっておこう」 そして、吞兵衛は沈黙を守ったのです。
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