ばっぱ=お婆さん
じっち=お爺さん
仙台のばっぱは 一家の主だ。
普通一家の主と言えば 家の大黒柱の旦那か長男だ。
違う…おれの家系では ばっぱなんだ。
理由があった。
じっちは戦時中 取り返しのつかない事をやったと言うんだ。
その事については お袋の実家なのに お袋でさえ言葉を濁した。
おれの性格上 どうしても聞きたかった。
しかも 20才位の時だから「是が非でも知りたい」と思うのも無理は無かった。
ある金曜日にお袋に「おれ 明日仙台に行って来るわ」とだけ言った。
敏感なお袋は 全てを察したんだろうな。
「うん…」とだけ言った。
翌日 仙台に着いてから ばっぱの家の近所で「かすとり焼酎」を ばっぱの御土産にと 買って持って行った。
ばっぱは この「かすとり焼酎」の御茶割りが 大の好物なんだ。
二階に上がって行き「来たぞぉ~」と言うと 顔をくしゃっとさせて 喜んでくれる。
「こごにこぉ=ここに おいで」と 何時もの調子だ。
ばっぱは開口一番「なにっしゃ?=何か用でもあったのか」と聞いた。
おれは まだまだ時間が早いと思い「いや…ばっぱに会いたくなったから来たんだよ それだけだ」とだけ言った。
ひとしきり雑談に花を咲かせ 夕方になった。
頃合だと思った。
「ばっぱ!どれどれ一杯やるか!?」と言ったら 嬉しそうに「あんだも飲めるんだすぺ?=あなたも 飲める様になったんだろう」と それはそれは嬉しそうな顔をした。
その時気づけば良かったんだ。
そこに居たのは じっち 叔母さん 叔父さん 従兄弟3人だった。
じっちがすくっと立ち上がり「%$*♂☆★◎#…」と 訳の分からない言葉を話して 何処かに行っちゃった。
それと同時に みんなも居なくなり…おれとばっぱだけになった。
ばっぱに焼酎を注いでいる時 聞いた「じっち…何処に行ったんだろうね?」と言うと ばっぱはすかさず「刺身」と一言だけ言った。
おれの好物は刺身だ。
「え???!!! 何だよ!おれの為に じっちが買い物に行ったのかい?」と言うと「んだ=そうだよ」と言う。
しかし それにも理由があった。
じっちは その場に居たく無かったんだ。
じっちが帰って来て「ほれ」と おれとばっぱに 豪華な刺身の盛り合わせを 目の前に置いた。
「何だよ じっち!おれが買ってくるのに!」と言うと 変な顔で「いいがら食え。後少ししたら寿司届くからな」と言う。
おれは「何もそこまで…」後の続きを言おうとしたら じっちが「ばっぱの相手してけろ=お婆ちゃんの相手を よろしく頼む」と言う。
まぁ良いか と思い ばっぱと宴会が始まった。
じっちは 階下の部屋に行ってしまった。
おれは遠慮せずガンガン飲んで ばっぱに「なぁ ばっぱ…じっちの事なんだけどさ。戦時中何かあったのか?」と切り出した。
ばっぱは 三杯目の「かすとり焼酎すぺしゃる」を 美味そうに飲みながら話してくれた。
こうだった。
ある日 みんなが止めるのも聞かないで 仕事の為だと言い 山形に行くと言う。
ばっぱは その時までは 良妻賢母を鏡にしたような人だったと言う。
おしとやかで 賢かったそうだ(これは本当なんだろう 自分で言うんだから)
じっちが山形へ出発してほどなく 空襲が始まったらしい。
それが どんどんと山形方面に拡大していった。
ばっぱは泣きながら 大勢の子供(勿論おれのお袋も居たわけだ)と一緒に逃げたと言う。
あくる日 じっちの辿ったルートが爆撃を受けて 悲惨な状態だと誰かが知らせてくれたらしい。
でもさ おれがこうして聞いているけど じっちは生きているんだから…と 思わずには居られなかったんだ。
話は続けられた。
じっちは「4~5日経ったら帰るから」と言って そのまま ずるずると一週間が経ち 二週間が経ち…とうとう1ヶ月経ってしまった。
ばっぱ一家は隣近所と相談して 葬式を出す事に。
葬式の真っ最中 涙に暮れている大勢の後ろから ばっぱが言うには「あ”のくそがっきゃぁ おどがしやがって”!=あの くそ爺 おどろかしやがって」と言う。
「えっ…そんな時に じっち帰ってきたの?…まったく…間の悪い時に…」とおれが言った。
ばっぱは「んだ!なにいっだと思う?=爺さんは 何を言ったと思う?」と言うから おれは「知らない…けど…なあに?」と聞いた。
じっちは はげ頭をなでながら「何かあったのすか?誰の葬式っしゃ?=一体何があったのですか?誰の葬式ですか?」と言ったらしい。
びっくりして倒れる人や 腰を抜かす人が出たらしい。
マンガみたいな話だけど 本当の話だ。
ばっぱは 三杯目の「かすとり焼酎すぺしある」を空け「ん”!ついでけろ=飲んで空だから 作っておくれ」と おれに催促した。
作りながら「ばっぱ…で どうしたんだ?」と言ったら ばっぱは「こ”の宝物!今までどごさいってだのっしゃ?!=この 大馬鹿者 今まで何処に行ってたのか」と怒鳴りつけ 怒鳴りながら ぐぅ~で じっちの頭を数十回殴ったらしい。
おれは 腹がよじれるくらい 吐きそうなくらい笑った。
しかし ばっぱは話しがひとしきり終わると 何時もの寡黙なばっぱになっていた。
…が…叔父 叔母が上がってきて「どうしったのや?ん?ばっぱ 機嫌よがすな。何杯飲んだのっしゃ?=話は終わったのかい ばっぱは機嫌が良いみたいだけど 何杯飲んだのか?」と おれに聞くから「まだ四杯目だ」と言った。
叔父叔母の顔が 見る見る変わって行った。
「だめだすぺ!?!=駄目だろう そんなに飲ましては」と 急にうろたえ始めた。
ばっぱの顔を 改めてつくづく見たら…顔が桜色になって 細い目が光っていた。
眼光鋭し!とでも言うんだろうな。
つまり 昔の話をおれに話している内に「かすとり焼酎すぺしある」が ばっぱの脳みそを どう変化させたか知らないけど きっと脳みそと一緒に盆踊りでも始めたんだろう。
ばっぱは「よべ…はや”ぐよべ=この言葉は 解読不可能」と言った。
おれは「誰を呼ぶの?」と言うと 叔父叔母は階下に行って電話すると言う。
気になって気になって ばっぱに聞いた。
「ばっぱ 誰を呼ぶの?」と言うと ばっぱは「ぜんぶだ=すべてだ」と言う。
20~30分過ぎた頃 叔父叔母が 途方に暮れた顔をして おれに「飲み過ぎだいっちゃ…どうも…=ばっぱは 定量をとっくにオーバーしているんだ どうしよう」と言った。
おれは逆に それが楽しみになって来た。
わざとおれは バーボンを一気飲みした。
するとばっぱは「ん”!!!」と おれに向かって「かすとり焼酎すぺしある」の催促をした。
おれは しめた!と思い作ってやると 何時の間にか居たじっちが 夏でもないのに ステテコ姿で傍に居た。
電話から小一時間経った頃 何と 仙台の親戚が集まり始めたんだ。
みんな迷惑そうな顔をして まず ばっぱに挨拶をし始めた。
つまり じっち ばっぱの子供達を 呼びつけたんだ。
おれの名前を呼ぶ声が 階下から聞こえたから行った所 何と従兄弟達も大勢来てたんだよ。
従兄弟達は「あんただすべ?どうせ飲ましたの これから宴会だわ…=あなたでしょう飲ませた原因は これから宴会だ…どうしよう」と言った。
上で おれを呼ぶばっぱの声がした。
二階にみんなで上がると じっちがドジョウすくいを テープの音楽にあわせて踊っている。
叔父叔母連中は「可愛そうに」と言うような顔で 手拍子だ。
叔父叔母の話だと ばっぱは 三杯飲むとこの調子だと言う。
あれ?…でも もう五杯目だぞ…と思ったおれは「じゃあさ 五杯くらい飲んだら どうなるの?」と聞いたら「そう言う危険な話はやめでけろ!=そう言う危ない話は するもんじゃあない」と 叱られた。
叱られても もう遅いじゃん。
目の座ったばっぱは その後しっかりと 一人一人に芸をさせた。
じっち=お爺さん
仙台のばっぱは 一家の主だ。
普通一家の主と言えば 家の大黒柱の旦那か長男だ。
違う…おれの家系では ばっぱなんだ。
理由があった。
じっちは戦時中 取り返しのつかない事をやったと言うんだ。
その事については お袋の実家なのに お袋でさえ言葉を濁した。
おれの性格上 どうしても聞きたかった。
しかも 20才位の時だから「是が非でも知りたい」と思うのも無理は無かった。
ある金曜日にお袋に「おれ 明日仙台に行って来るわ」とだけ言った。
敏感なお袋は 全てを察したんだろうな。
「うん…」とだけ言った。
翌日 仙台に着いてから ばっぱの家の近所で「かすとり焼酎」を ばっぱの御土産にと 買って持って行った。
ばっぱは この「かすとり焼酎」の御茶割りが 大の好物なんだ。
二階に上がって行き「来たぞぉ~」と言うと 顔をくしゃっとさせて 喜んでくれる。
「こごにこぉ=ここに おいで」と 何時もの調子だ。
ばっぱは開口一番「なにっしゃ?=何か用でもあったのか」と聞いた。
おれは まだまだ時間が早いと思い「いや…ばっぱに会いたくなったから来たんだよ それだけだ」とだけ言った。
ひとしきり雑談に花を咲かせ 夕方になった。
頃合だと思った。
「ばっぱ!どれどれ一杯やるか!?」と言ったら 嬉しそうに「あんだも飲めるんだすぺ?=あなたも 飲める様になったんだろう」と それはそれは嬉しそうな顔をした。
その時気づけば良かったんだ。
そこに居たのは じっち 叔母さん 叔父さん 従兄弟3人だった。
じっちがすくっと立ち上がり「%$*♂☆★◎#…」と 訳の分からない言葉を話して 何処かに行っちゃった。
それと同時に みんなも居なくなり…おれとばっぱだけになった。
ばっぱに焼酎を注いでいる時 聞いた「じっち…何処に行ったんだろうね?」と言うと ばっぱはすかさず「刺身」と一言だけ言った。
おれの好物は刺身だ。
「え???!!! 何だよ!おれの為に じっちが買い物に行ったのかい?」と言うと「んだ=そうだよ」と言う。
しかし それにも理由があった。
じっちは その場に居たく無かったんだ。
じっちが帰って来て「ほれ」と おれとばっぱに 豪華な刺身の盛り合わせを 目の前に置いた。
「何だよ じっち!おれが買ってくるのに!」と言うと 変な顔で「いいがら食え。後少ししたら寿司届くからな」と言う。
おれは「何もそこまで…」後の続きを言おうとしたら じっちが「ばっぱの相手してけろ=お婆ちゃんの相手を よろしく頼む」と言う。
まぁ良いか と思い ばっぱと宴会が始まった。
じっちは 階下の部屋に行ってしまった。
おれは遠慮せずガンガン飲んで ばっぱに「なぁ ばっぱ…じっちの事なんだけどさ。戦時中何かあったのか?」と切り出した。
ばっぱは 三杯目の「かすとり焼酎すぺしゃる」を 美味そうに飲みながら話してくれた。
こうだった。
ある日 みんなが止めるのも聞かないで 仕事の為だと言い 山形に行くと言う。
ばっぱは その時までは 良妻賢母を鏡にしたような人だったと言う。
おしとやかで 賢かったそうだ(これは本当なんだろう 自分で言うんだから)
じっちが山形へ出発してほどなく 空襲が始まったらしい。
それが どんどんと山形方面に拡大していった。
ばっぱは泣きながら 大勢の子供(勿論おれのお袋も居たわけだ)と一緒に逃げたと言う。
あくる日 じっちの辿ったルートが爆撃を受けて 悲惨な状態だと誰かが知らせてくれたらしい。
でもさ おれがこうして聞いているけど じっちは生きているんだから…と 思わずには居られなかったんだ。
話は続けられた。
じっちは「4~5日経ったら帰るから」と言って そのまま ずるずると一週間が経ち 二週間が経ち…とうとう1ヶ月経ってしまった。
ばっぱ一家は隣近所と相談して 葬式を出す事に。
葬式の真っ最中 涙に暮れている大勢の後ろから ばっぱが言うには「あ”のくそがっきゃぁ おどがしやがって”!=あの くそ爺 おどろかしやがって」と言う。
「えっ…そんな時に じっち帰ってきたの?…まったく…間の悪い時に…」とおれが言った。
ばっぱは「んだ!なにいっだと思う?=爺さんは 何を言ったと思う?」と言うから おれは「知らない…けど…なあに?」と聞いた。
じっちは はげ頭をなでながら「何かあったのすか?誰の葬式っしゃ?=一体何があったのですか?誰の葬式ですか?」と言ったらしい。
びっくりして倒れる人や 腰を抜かす人が出たらしい。
マンガみたいな話だけど 本当の話だ。
ばっぱは 三杯目の「かすとり焼酎すぺしある」を空け「ん”!ついでけろ=飲んで空だから 作っておくれ」と おれに催促した。
作りながら「ばっぱ…で どうしたんだ?」と言ったら ばっぱは「こ”の宝物!今までどごさいってだのっしゃ?!=この 大馬鹿者 今まで何処に行ってたのか」と怒鳴りつけ 怒鳴りながら ぐぅ~で じっちの頭を数十回殴ったらしい。
おれは 腹がよじれるくらい 吐きそうなくらい笑った。
しかし ばっぱは話しがひとしきり終わると 何時もの寡黙なばっぱになっていた。
…が…叔父 叔母が上がってきて「どうしったのや?ん?ばっぱ 機嫌よがすな。何杯飲んだのっしゃ?=話は終わったのかい ばっぱは機嫌が良いみたいだけど 何杯飲んだのか?」と おれに聞くから「まだ四杯目だ」と言った。
叔父叔母の顔が 見る見る変わって行った。
「だめだすぺ!?!=駄目だろう そんなに飲ましては」と 急にうろたえ始めた。
ばっぱの顔を 改めてつくづく見たら…顔が桜色になって 細い目が光っていた。
眼光鋭し!とでも言うんだろうな。
つまり 昔の話をおれに話している内に「かすとり焼酎すぺしある」が ばっぱの脳みそを どう変化させたか知らないけど きっと脳みそと一緒に盆踊りでも始めたんだろう。
ばっぱは「よべ…はや”ぐよべ=この言葉は 解読不可能」と言った。
おれは「誰を呼ぶの?」と言うと 叔父叔母は階下に行って電話すると言う。
気になって気になって ばっぱに聞いた。
「ばっぱ 誰を呼ぶの?」と言うと ばっぱは「ぜんぶだ=すべてだ」と言う。
20~30分過ぎた頃 叔父叔母が 途方に暮れた顔をして おれに「飲み過ぎだいっちゃ…どうも…=ばっぱは 定量をとっくにオーバーしているんだ どうしよう」と言った。
おれは逆に それが楽しみになって来た。
わざとおれは バーボンを一気飲みした。
するとばっぱは「ん”!!!」と おれに向かって「かすとり焼酎すぺしある」の催促をした。
おれは しめた!と思い作ってやると 何時の間にか居たじっちが 夏でもないのに ステテコ姿で傍に居た。
電話から小一時間経った頃 何と 仙台の親戚が集まり始めたんだ。
みんな迷惑そうな顔をして まず ばっぱに挨拶をし始めた。
つまり じっち ばっぱの子供達を 呼びつけたんだ。
おれの名前を呼ぶ声が 階下から聞こえたから行った所 何と従兄弟達も大勢来てたんだよ。
従兄弟達は「あんただすべ?どうせ飲ましたの これから宴会だわ…=あなたでしょう飲ませた原因は これから宴会だ…どうしよう」と言った。
上で おれを呼ぶばっぱの声がした。
二階にみんなで上がると じっちがドジョウすくいを テープの音楽にあわせて踊っている。
叔父叔母連中は「可愛そうに」と言うような顔で 手拍子だ。
叔父叔母の話だと ばっぱは 三杯飲むとこの調子だと言う。
あれ?…でも もう五杯目だぞ…と思ったおれは「じゃあさ 五杯くらい飲んだら どうなるの?」と聞いたら「そう言う危険な話はやめでけろ!=そう言う危ない話は するもんじゃあない」と 叱られた。
叱られても もう遅いじゃん。
目の座ったばっぱは その後しっかりと 一人一人に芸をさせた。