宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

〈一〇〇五〔暗い月あかりの雪のなかに〕〉

2016年09月26日 | 『詩ノート』
一〇〇五  〔暗い月あかりのなかに〕   一九二七、三、一五、
   暗い月あかりの雪のなかに
   向ふに黒く見えるのは
   松の影が落ちてゐるのだらうか
   ひるなら碧くいまも螺鈿のモザイク風の松の影だらうか
   やっぱり雪が溶けたのだ
   あすこら辺だけあんなに早く溶けるとすれば
   もう彼岸にも畑の土をまかないでいゝ
   やっぱり砂地で早いのだ
   毎年斯うなら毎年こゝを苗床と
   球根類の場所にしやう
   その球根の畦もきれいに見えてゐる
   みちをふさいで巨きな松の枝がある
   このごろのあの雨雪に落ちたのだ
   玉葱とぺントステモン行って見やう
   あゝちゃうどあの十六のころの
   岩手山の麓の野原の風のきもちだ
   雪菜は枯れたがもう大丈夫生きてゐる
   なにかふしぎなからくさもやうは
   この月あかりの網なのか
   苗床いちめんやっぱり銀のアラベスク
   ヒアシンスを埋めた畦が割れてゐる
   やっぱり底は暖いので
   廐肥が減って落ち込んだのだ
   ヒアシンスの根はけれども太いし短いから
   折れたり切れたりしてないだらう
   さうさうこゝもいちめん暗いからくさもやう
   うしろは町の透明な灯と楊や森
   まだらな草地がねむさを噴く
   巨きな松の枝だ
   この枝がさっき見たのだったらうか
        昆布とアルコール
   川が鼠いろのそらと同じで
   南東は泣きたいやうな甘ったるい雲だ
   音なくながれるその川の水
        五輪峠やちゞれた風や
   ずうっとみなかみの
   すきとほってくらい風のなかを
   川千鳥が啼いてのぼってゐる
        「いちばんいゝ透明な青い絵具をもう呉れてしまはう」
   どこか右手の偏光の方では
   ぼとしぎの風を切る音もする
   早池峰は雲の向ふにねむり
   風のつめたさ
        「水晶の笛とガラスの笛との音色の差異について」
   町は犬の声と
   ここは巨きな松の間のがらん洞
        風がこんどはアイアンビック
             <『校本宮澤賢治全集第六巻』(筑摩書房)76pより>
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《鈴木 守著作案内》
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       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
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