ファイナルラウンドに勝ち残ったのは、オズワルド、インディアンズ、錦鯉の3組。
息子も私も勝者はオズワルドかインディアンズのいずれかだろうと予想していた。どちらもネタが面白かったし、どちらが勝っても納得の勝利だと思っていた。
審査員の勝者判定の時。一人目「オズワルド」が出た。二人目からは「錦鯉」と表示が5連続となって行った。
審査員の判定が出るたびに、いつもは地味で目立たない錦鯉の渡辺隆さん(髪の毛のある人)の驚きのリアクションが印象的だった。一つまた一つ、と「錦鯉」の名前が出るたびに、「えっ」「えっ」と体ごと大きく驚愕する姿に、釘付けになった。
錦鯉のネタはシンプルで古さも感じられたが、演じる熱量は3組の中でも群を抜いて熱かった。彼らの芸にかける情熱が、こちら側にも十分伝わるものだった。情熱で勝ち取った勝利と言えるだろう。
勝利が決まったとき、号泣する長谷川雅紀さん(髪の毛のない人)とは対象的に、先程見せた大きなリアクションから一転して、いつもと変わらない(ように見える)渡辺隆さんを見て、「クールだな」と思った。それ以来注目するようになった。
M-1優勝前から、錦鯉は知っていた。
大声で「こーんにーちはー」と登場するスキンヘッドで大きな目の長谷川さんは一度見たら忘れない。でも、渡辺隆さんは、長谷川さんがあまりに目立つので、あまり認識していなかった。
失礼な言い方だが、渡辺さんはいわゆる「じゃない方の芸人」だ。
一概には言えないが、コンビの芸人は、ブレイクした後、大抵目立つ方の芸人から名前を覚えられるように思う。
例えばオードリーで言えば、きまり文句「トゥース」と七三分けの個性的な髪型、そしてピンクのベストで春日が目立って知名度が上り、名前もすぐに覚えられた。相方の若林は「春日じゃない方の人」としてブレイク当初は名前が春日ほど認知されなかった。
でも「じゃない方の芸人」も素晴らしい才能を後々開花させるのが常で、若林も司会業、執筆活動と様々な才能を知らされることになった。
M-1優勝後、錦鯉のこれまでの軌跡をドキュメンタリーで見た。
札幌市出身でなかなか芸人としてめがでなかった下積みの長い長谷川さん。一人暮らしの狭くて古いアパートでの取材は、これまで売れなかった芸人然としていた。
一方の渡辺さんは、大学へ進学しながらも芸人への道を選び、大学を中退した。
渡辺さんはお父さんと二人暮らし。撮影場所の自宅は整然としていて、一般家庭のようであり、およそ芸人の実家という風はなく、「サラリーマン渡辺隆さんの実家」と紹介される方が普通な感じがするほどだった。
個別インタビューでは二人とも、「お互いがいなければ成し得なかった」と口を揃えて言い、お互いを思いやるコンビ愛が感じられて好感が持てた。
前年の2020年のM-1で決勝に進出し、結果的には4位にあまんじた。
渡辺さんの言葉によると、当時そこそこ売れていたし、「M-1の決勝に進出できただけで良かったじゃないか」と一旦は思ったそうだ。だが、そこから「いや、ここまで来たんだから王者を目指そう」と覚悟を決めて2021年のM-1に臨んだということだ。だからこそのあの熱量だったのだろう。
バラエティー番組にもよく出るようになった錦鯉。
「有吉櫻井the夜会」に出たときも、目立つ長谷川さんが詰まってしまうと、渡辺さんが脇からそっとサポートする、控えめで奥ゆかしい感じが良かった。
最近楽しんでいるドラマに「俺の可愛いはもうすぐ消費期限」がある。主演はHey!Say!JUMPの山田涼介君で共演は芳根京子さん。
その1話目の放送を見たときだ。ビール会社の営業である山田君が営業先へ行った時に、出てきた本部長。その役を演じていたのがなんと錦鯉の渡辺隆さんだった。注目していた渡辺隆さんが出てきて、「えーっ」と驚きと共にうれしかった。
おまけに役にスンナリとはまっている。しっくり感が半端ない。営業先の本物の本部長を連れてきたのではないかと思われるほどの等身大の本部長。さすが「The オジサン・オブ・オジサン」
お芝居も、違和感なく本部長。
これからもこんなオファーがいっぱい来るといいな。本人が望んでいるかどうかはわからないけど。
なぜだろう。渡辺さんを見てると安心するのは。芸人ぽくない見た目。普通のオジサン感が何故か心地良い。
普通に大学を卒業していたら、今頃ホントに本部長をやっていそうだ。その普通感がいい。会社にいたら、きっと仕事も何でも卒なくこなしそうだ。
長谷川さんも、個性的な見た目と真面目でピュアな人柄を売りに、頑張ってほしい。
奇しくも、今日から北海道発の冠番組「錦鯉が行く!のりのり散歩」が始まった。
明日から5月。青空に鯉のぼりが泳ぐ如く、これからも錦鯉がお笑い界を元気に泳いで活躍していくことを期待している。