この間のダジャレ、「ジャパン」が忘れられず、「今日はダジャレは無いんですか?」と言う言葉が喉元まで出かかったけれど、お年寄りであるOさんに、変なプレッシャーをかけてもいけないと思って飲み込んだ。
それに、その日のお膳には、私が考えてもダジャレになりそうなネタのおかずもなかった。
今日も、Oさんに配膳した。するとまた、思いがけず私の目をしっかり見て話しかけてくださった。
「今日は暑いのかい?涼しいのかい?」
お住まいの建物から、外へ出る機会もほとんど無いOさん。
エアコンの効いた施設内は、常に快適な温度に保たれている。私に外の気温を確認してみたかったのかな?
今朝家を出る時は、薄手の上着を着ても暑くは無かったので、
「そうですね~涼しい方ですかね」と答えた。
そう答えた時には、Oさんは既にお膳の朝食に目を落としていたけれど、私は話しかけてくれたことがうれしかった。
今日はこちらから声をかけたお年寄りもいた。
いつも明るく時々おどけてくるAさんだ。
Aさんはお食事をいつもきれいに平らげているので、小さくて痩せているけど、すこぶる元気でお茶目な方だ。
昼食の下膳の時のこと、傍らの応接セットに数人の方がくつろいでいた。その中にAさんもいた。
Aさんはサングラスをかけて、無言でじーっとこちらを見ていた。先日は、違うサングラスをかけていたおしゃれなAさんだ。いつもなら話しかけてくるのに、何か言ってもらいたげだ。
私はAさんを見つめながら、「まぶしいんですか?」と尋ねると、周囲のお年寄りが少し笑った。すかさず「カッコいいですね~サングラス」と言ったら、Aさんは歯を見せてニヤリと笑った。
そんな声かけをしながら、お膳を回収していると、Aさんは私のそばに来て、まるでスーパーマンが、スーツから変身するときの様に、着ていたパーカーの胸元を開いて、中のTシャツの柄を見せてくれた。
そこには、スーパーマンのSの文字ではなく、「クレヨンしんちゃん」の大きな顔がプリントされていた。
「クレヨンしんちゃん」は坊主頭、Aさんも坊主頭…と言うよりも、スキンヘッド。
Aさんは「今度から、クレヨンしんちゃんて呼んでもらおうかな?」と言った。
私は笑いながら「ブリブリ〜なんて、やらないでくださいね」と軽口を叩いて厨房へ戻った。
後から考えたら、Aさんの下のお名前は「しんちゃん」だった。ああ、なるほど。それで、ご家族かどなたかが、あのクレヨンしんちゃんのTシャツをプレゼントされたのだろう。遅ればせながら、Aさんとクレヨンしんちゃんのつながりを発見した。
やはり今日も直ぐにピンと来なかった私。
打っても響かない自分にちょっとがっかりしながら、時間差でアハ体験をしたのだった。