1980年前後の頃の話だ。
その当時の平均的な結婚年齢は確か25歳前後だったと思う。多くの人が30歳になる前に、初めてのお産をしていた頃だと思う。
周囲の先輩たちが言うには、高齢出産の人の母子手帳には、「高という漢字が◯で囲まれたゴム印」が押されるということだった。
当時の女性達はみんな、それを避けたい事の様であった。
理由は、やはり年齢と共にお産のリスクも高くなり、生まれてくる子供にも障害が出やすくなるからというものだった。
細胞が若い方が何かと良いらしいということは、良く分かった。
後に私も結婚して、初めての子供を出産した。
過去の先輩たちのアドバイスを散々聞きながら、諸事情により、第一子を出産したのは、私が35歳の時だった。「マルコウ」である。
しかし母子手帳には、噂に聞いていた「◯高」のスタンプはどこにも無かった。
カルテに押されているのだろうか。
長男の出産からしばらく経って、やはり一人っ子はかわいそうだと思い、兄弟をもう一人と思ったけれど、こればっかりは神様にお任せするしかない。
結局4年が経過し、39歳の時に二人目を出産した。かなり遅めの出産だ。
子供たちを育てながら、よく成人式をイメージした。
息子が20歳の時、私は55歳。娘の時に至っては、ほぼ60歳。ハツラツとした青年の彼らと、よその母親よりぐっと老けた自分のイメージが浮かぶ。
よく20代前半で子供を産んだ人などから、「娘と一緒に外出したら姉妹だと間違われた」と嬉しそうに笑顔で話す人の話を聞き、羨ましく思っていた。
私の場合はせめて、娘と並んで歩いて、祖母に間違われない様にしなきゃと、若作りに力を入れる覚悟をした。
私が子供を持った1990年代頃は、女性の社会進出が盛んになっていたので、次第に晩婚傾向が強まっていたように感じる。結果的に出産年齢も全体的に遅くなり、30歳以降に出産する人達の割合も増えていたような気がする。
新聞の読者投稿欄には、「40歳を過ぎてから出産し、成長と共に動き回る我が子に、体力が追いつかない」と嘆いている女性の文章も目にした記憶がある。
そんな事からも、体力のある若い内に産んでおくに越したことはないのだなぁ、と思ったものだ。
時は流れて現在。
介護の話がメディアを通して耳に入ってくるようになった。年齢的に私の関心がそちらへ移ったのだ。
70代の子供が90代の親のお世話をする老老介護が大変だと聞く。
自分に照らしてみた。私が80歳になった時の子供たちの年齢は、息子が45歳、娘は41歳。子ども達が若い!
これまでは遅い出産のマイナス面ばかりを見てきたが、メリットがこんなところにあったとは。
子供たちに、老いた自分がお世話になる気は毛頭無いけれど、万が一そうなった時に彼らが40代であるという事は、心強い。安心感がある。
若い内に出産するのも、遅くに出産するのも、比較するものではないし、正解というのも無い。なにせ、天からの授かりものなのだから。
ただ、遅くに産んだことの良い点を見つけて、ちょっとうれしくなったのだ。