好きな俳優さんが出ていたりすると、よーく見てしまう。
最近は季節がら、これから暑くなると消費されるであろうビールのコマーシャルが多い。
色々なタレントさんが、各メーカーのビールを飲んで、「かーっ!うまい」とか「ほんと最高!」みたいなセリフを言うけれど、私が飲んでみたいと真に思うのは、タモリさんのCMのビールだ。
しっかり味わってから「うまいね〜」の一言。あの一言に、真実が詰まっている気さえする。
飲み物のコマーシャルは、俳優さんが飲んだように演技しても、実際飲んでいないことも多い。日頃演技が上手な俳優さんでも、それがはっきりわかってしまうので、いくら「おいしい」と言っても、説得力がない。
その点タモリさんは、本当に美味しそうに飲んでいる。
CMには、1~2分という短い時間の中に伝えたいメッセージがギュッと凝縮されているので、映像として見ると、なるほどと思わされることも多い。ドラマ仕立てだと、なおさらじっくり見てしまう。
俳優の滝藤賢一さんが出演しているカードローンのコマーシャルで、とても共感したものがある。
先輩と後輩社員のやり取りのシリーズの中の一編。
滝藤賢一さん演じる先輩と後輩社員と、二人でタクシーに乗り込んだ時に交わされる会話。
「プレゼン初めてか?」と後輩社員に尋ねる滝藤さん。後輩の「はい」という返事を受けて
「いいな、初めて。初めてのことが無くなってくってのは、寂しいもんだぞ」
そしてタクシーを降り、最後に後輩の背中をパンと叩き、滝藤さんが一言。
「ちゃんと楽しむんだぞ、初めてを」
そうなんだよ。初めての事は楽しむべきだったのだ。年を取るとドンドン減っていく“初めて”を…。
何十年も生きてきて、今体験する「初めて」と人生経験が浅い時の「初めて」では、ドキドキの度合いが全く違う。
そんな事を思い出したのも、手元にちょうど「ベビー爪切りハサミ」を手にしていたからだった。
手のひらに収まるほどの小さなハサミは、長男が生まれた時に、爪を切るために買ったものだ。あれから29年ほど経つ。
小さなハサミは平らな所に置いてみるとわかるのだが、刃先にかけて浮き上がっている。赤ちゃんの爪を切りやすいように、少し反っているのだ。その形が、眉毛を整えるのに重宝し、未だに使っている。
新米の母親になったあの頃、子育ては何をするのも初めてだ。
息子が伸びた小さな爪で顔を傷つけるので、切ってあげようと試みたときの「初めて」が思い出される。
息子の小さな小さな爪。新生児の指先は恐ろしい程に小さい。そして、よく動くので切るのが難しい。失敗して息子を傷付けるのじゃないかと、ドキドキしたあの感覚を思い出す。
振り返ってみれば、爪切りに限らず、子育ての「初めて」は、楽しむどころか心配な事だらけで、バタバタとその場その場で無我夢中で対応していたら、あっという間に過ぎ去って行ってしまった。
小さな宇宙人みたいだった新生児の赤ちゃんは、寝返りをうち、ハイハイをしてつかまり立ち、歩き始め、あれよあれよと言う間に青年になってしまった。
成長するに従って、どんどん変貌する息子。それぞれの年代のあの可愛い幼子達は何処へ行ってしまったのか。どの子も息子であることに変わりないのに、あまりに成長が早くて気付いたら、もう“あの子達”はいない。
成長した子供たちを見ながら、「初めて」を楽しむ余裕など無かったなぁと、滝藤賢一さんのセリフを聞いて思ったのだった。
それでも、探せばまだまだ私にとっての「初めて」は存在する。
それが何であれ、楽しまなければ…損だよね。