二泊三日の日程の内、二日目は娘と私がユニバーサルスタジオへ行き、息子と夫は淡路島へ行くという別行動だった。


その日の彼らの行動は、夜に旅先の宿で聞いたものの、詳細を知りたいと、息子が書くブログをずっと心待ちにしていた。
息子は高校生の時からブログを書いているので、もう15年ほどになるのではないだろうか。ブログ歴3年程の私と比べると、息子はブログの大先輩である。
ブログは仕事の合間を縫って書いているので、多忙らしく、なかなか思うように書けないらしい。
つい先日、大阪旅行の別行動の日のブログがアップされ、「男二人旅」の全貌が明らかとなった。
明石海峡大橋を眺め、瀬戸内海の海を臨み、海上舞子プロムナードを楽しみ、橋の科学館を見学して、淡路島へと渡ったことを知った。
息子は夫の希望を最優先にして、かいがいしく旅案内に努めていたようだ。
その日淡路島から大阪の宿へ戻り、少し休んでから近場で夕食を済ませてから、夫の希望で再び道頓堀を歩いたとあった。
そこで、前の日に家族みんなで歩いていた時から夫が”良さげな喫茶店“だと目星を付けていたお店に入ってコーヒーを飲んだという。その喫茶店の名前は「丸福珈琲店」という。
何だか聞き覚えのある名前だった。
もしやと思い、昨年の写真を確認した。
昨年、私は単独で関東圏に住む娘に会いに行き、帰りに羽田空港内の”良さげな喫茶店“に何気なく入ったのだった。レトロな雰囲気が心地よく、コースターを見ると昭和9年創業とあった。そこが正に「丸福珈琲店」だったのだ。偶然の一致。
その時に私がお店のコースターの写真を取った後、娘が私の写真を取ってくれた。


帰札後、息子にこのコースターと私の写真を対で見せた所、どちらもショートヘアーでほぼ同じ構図だったことから、「シンクロしている」と息子が言って、一緒に笑った記憶がある。
時を違(たが)え、場所を違えて、私と夫がそれぞれ良さそうな喫茶店だと選んだのが「丸福珈琲店」。
2022年に娘と私が関東の羽田空港店へ、2023年に息子と夫が関西の千日前本店へ。そんな“ただの偶然の一致”がなぜだかとても嬉しい。
私と夫がそれぞれに惹きつけられた理由は、取りも直さず、昭和9年創業の丸福珈琲店の長年に渡るたゆまぬ努力が作り出した、揺るがない魅力にこそある。人気店ゆえの立地の良さもあったのかも知れない。
コーヒーの美味しさはもちろんの事、その時食べたサンドイッチもスイーツも全て格別の味だった。サラダにかかっていたオリジナルのドレッシングがまた、最高に美味しかった。その時「さすが東京の喫茶店」と思ったのだが、本店は大阪である。
丸福珈琲店の公式サイトによると、創業者は鳥取県の商家の末弟として生まれ育った伊吹貞雄氏。
当初目指したのは、レストランのオーナーシェフだった。
志を抱き、くいだおれの街大阪へ居を移すも、レストランを出店するに当たり、銀座や帝国ホテルに憧れ、上京した。
東京の武蔵小山で洋食レストラン「銀嶺」のオーナーシェフをしていたが、当時流行りはじめのコーヒーを食後に提供しようと、独自の研究を始める。研究に次ぐ研究の末、納得のいくコーヒーへ辿り着いた。
そのこだわりの研究は、並々ならぬものであったことが、サイトには詳細に書かれている。
大阪の料理仲間を招いてコーヒーを提供したところ、大阪にまだなかったコーヒーを広めるべきだと提案され、軌道に乗っていた「銀嶺」を閉め、昭和9年(1934年)大阪の新世界に珈琲専門店「丸福珈琲店」を開業したということだ。
創業者伊吹貞雄氏のこだわりは、今もお店のそこかしこに息づいており、氏のセンスの良さがお店の雰囲気を醸し出している。現在では珍しいコーヒーに添えられた角砂糖もその一つだ。
居心地の良い喫茶店で、それぞれに楽しいひと時を子供達と過ごせたことは幸福だ。そして改めて、夫婦は年を経るごとに似かよって来るのだなあと、つくづく知らされた出来事でもあった。
いつか叶うなら、今度は家族4人で丸福珈琲店を訪れたいものだと思う。
気軽に行ける距離だと良いのだが、北海道からはかなり遠い。