ちょっぴり寂しい。
そんなわけで、幼かった頃の彼らと過ごした日々を、最近懐かしく思い出す事が多い。
このまま老いて行ったら、万が一ボケた時、「自分はまだ30代で子育て中の母親だ」と思い込んでしまうのでは無いだろうか。
そうして、ボケた私をたまに介護する子ども達に向かって、
「どちら様か存じませんけど、ご親切にどうもありがとうございます」
なんて言ってしまうんじゃないだろうか。
今日もお風呂に入りながら、幼い子供達との出来事を思い出していた。
お風呂はいつも息子と娘と3人で入っていた。あれは息子が年長さんか1年生で、娘は2~3歳の頃のことだった。
暑がりの娘は湯船の中に入っても、立っている事が多かった。湯船の縁に手をかけて、洗い場の兄とやり取りする事も多かった。そんな時、娘のプックリしたお腹は、バスタブにぴったりとくっついていた。何かの拍子にバスタブからお腹を離した時の事、
「ピトーン!」
という、何とも可愛らしい音が、風呂場に響いたのである。
娘の小さなおヘソが、吸盤みたいにバスタブにくっついて、離れる時に出た音だった。丁度、吸盤を外す時の様な状態が、娘のおヘソとバスタブの間に起きたのだ。
その音を聞いて、娘と私は顔を見合わせて思わず笑った。とっても良い音だったのだ。それで、何とかもう一度あの音を聞きたいと思い、娘と協力して、お腹を何度もバスタブに押し付けたのだが、とうとう“あの音”を再現する事は出来なかった。
その後もお風呂に入る度に試みてみたが、二度とあの音を聞くことはなかった。
あの音、誰かもう一度聞かせてくれないかなあー。
ボンヤリ考えていたら、不意にお笑いコンビの「ゆんぼだんぷ」が頭に浮かんだ。
彼らのネタは、「まるで鏡のような水面に雨の雫が一滴落ちる音」の口上で始まる。
丸々と突き出た双方のタプタプのお腹に、霧吹きで水をかけ、「参ります」の掛け声で二人のお腹を合わせると「タポ〜ン」と小気味の良い音が生まれる。
音の余韻の後に「う~ん、気持ち良し」の決めゼリフで終わる。
あの音も初めて聞いた時は、不思議だった。湿った布袋様のようなお腹を打ち合わせるだけで、雫の音が聞こえてくるのだから。
あれはあれで良い音だけれど、残念ながら、娘の「ピトーン」の音の可愛さにはかなわない。
小さなおヘソが奏でた幻の音。ちっぽけな事だけど、忘れられない娘のおヘソのエピソードだ。