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ポジティブな私 ポジ人

河崎秋子さんの本棚で見つけた本

先ごろ小説「ともぐい」で直木賞を受賞された河崎秋子さんは、早くからその才能に注目され、地元の新聞では、羊飼いをしながら小説を書く方として、何度も新聞で取り上げられていた。

同じ北海道の人間として、羊を飼いながら本を書くというスタイルに、密かに心惹かれていた。

現在は文筆業をメインとして、羊を飼うことは辞めてしまわれたようだが、NHKの「北海道道(ほっかいどうどう)」という番組に出演されるという事で、興味を持って見た。

司会でインタビュアーの鈴井貴之さんが河崎さんの家でインタビューされる様子が映った。背景には、膨大な書物を収めた本棚があり、どんな本が収まっているのか私は興味津々だった。

真っ先に目に入ったのは、久保俊治氏の「狩猟教書」だった。きっと「羆撃ち」も当然読んだのだろうなあ、とやけに嬉しくなった。そして、その隣に並んでいたのが、「北海道残酷史」だった。確か番組内で河崎さんはその本を手にとって、鈴井さんにチラリと示したと記憶している。

私は直ぐにその本を入手した。著者は、合田一道。

早速読んでみた。表題の通り、北海道における過去の残酷な事件事故が多く載っていた。

本の構成は、第1章から6章の松前藩時代、幕末時代、明治、大正、昭和戦前と昭和戦後に分かれていた。

特に心に重苦しく残ったのは、松前藩時代。海の神を鎮めるためと称して、十代の罪なきアイヌの女性20人ほどに、重石を付けて生贄として海に投げ込んだという事件。
過去の事とはいえ、人命を軽んじた出来事に憤りを感じた。

明治時代には、バッタの大群が農作物を食い荒らす事態が四年間も続いたという。当時の記録に「恰モ雪花ノ天ヨリ降ルガ如シ」とあることから、凄まじい事態が想像される。
子供の頃アフリカのイナゴが畑を食い尽くす映像を見たことがあったけれど、あれに近い状況が月寒や真駒内等、身近な場所でもあったのだと知って驚いた。
息子からバッタ塚の存在は聞いていた。バッタ塚とは、大量のバッタの死骸を埋めた場所の事だが、より具体的に過去の事実を知ると、よりリアルな歴史的事実として見方も感じ方も変わる。想像を絶する量のバッタに、ご先祖様は苦労したんだなあ。

大正時代の章では、常紋トンネルの建設にタコと呼ばれる土工たちが酷使され、死んだ者は路傍に埋められ、ある者は生きたままトンネルの壁に埋められたという。3年に及ぶこの工事では、百数十人が亡くなった。

このトンネルが開通して以降、奇妙な噂が流れ、現在でも心霊スポットとして有名だ。
虐待され、まともな物を食べる事も、休むことも許されなかった人々の、辛く苦しい無念の思いは、永遠に鎮まることは無いのだろう。酷い話である。

道民には有名な三毛別ヒグマ事件も掲載されている。最近もクマの出没のニュースが続いているが、三毛別のヒグマは一匹で10人もの人を殺傷した、とんでも無いクマだった。

昭和戦前の章では、太平洋戦争の最中、昭和17年4月中旬に紋別郡下湧別の浜に機雷が2個漂着したという。
当時の日本は軍事一色で連勝に沸き立っており、機雷の処理を戦意高揚の機会にしようと、あろう事か一般の見物人を募ったらしい。
機雷の処理は遠軽署に依頼され、まだ準備段階だった。それでも見物人は集まり、時間前なので避難もしていなかった。
2つの機雷の距離を離そうと動かしたその途端、機雷は大爆発を起こし、側にいた人もろとも吹き飛ばされるという大事故が起きた。その爆破で一般の人子供も含め106人が亡くなったという。爆破処理に付いて熟知した人が関わったとは思えない痛ましい出来事だ。

昭和時代戦後の章では、強制連行された中国人、劉連仁(りゅうれんじん)が脱走後、終戦を知らずに13年もの間、石狩管内当別町の原始林の中に穴を掘って暮らしていたという事件もあった。
同じ様に終戦を知らなかった横井庄一さんや小野田寛郎さんよりずっと以前の、昭和33年の出来事だ。

こうして過去の大きな事件事故を読みながら、自分が知らなかった北海道での出来事にただただ驚愕するばかりだ。

人権に関わる面で見れば、現代は過去と比べれば、より良くはなっているものの、相変わらず差別や偏見は存在する。相変わらず悲惨な事件や事故は多いし、世界的には、あちこちで戦争は起こっている。

北海道だけで無く、今後もこの日本で、あるいは世界で、残酷史は記録され続けて行くのだろう。

河崎秋子さんの「ともぐい」はまだ読んでいない。内容は、猟師とヒグマの死闘がメインとなるフィクションらしい。
猟師とヒグマの死闘といえば、ノンフィクションの「羆撃ち」を思い出す。著者の久保俊治さんの文章に、痺れるほどの感動を覚えた私は、河崎さんの「ともぐい」を読む事に躊躇してしまう。

先日、久保俊治さんの訃報に接し、大変驚いた。まだ76歳の若さだった。人生100年と言われる時代に、早い旅立ちだと残念に思う。心からご冥福を祈る。

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