オー・ヘンリーの短編は、いわゆるオチのある物語で、読後も色々と考えさせられるお話ばかりで好きだった。
オー・ヘンリーの短編は他にも「賢者の贈り物」「20年後」等を読んだ事がある。
「賢者の贈り物」は、若く貧しい夫妻が、お互いのクリスマスプレゼントを送るために、それぞれの大切な物でお金を工面して、プレゼントを用意するのだが…。
その結末に一瞬愕然とするのだが、希望も生まれる実にうまく出来たお話だ。
また、中学の英語の教科書に載っていた「20年後」は、二人の男が再会の約束を皮肉な形で果たす事になった話。
中でも最初に出会った「最後の一葉」は、意外な結末に子供だった私は大きく心を揺さぶられ、いつまでも忘れられない作品となった。
画学生や老齢の画家が登場する、絵にまつわる物語であったからかもしれない。
「最後の一葉」を思い出した時、オー・ヘンリーとは関係なく、もう一つ思い出した事があった。
数年前、娘とファッションビルを連れ立って歩いていた時の事だった。
とあるショップの壁に飾られたオレンジとアイボリーのツートンカラーのセーターに目がとまった。
それは、当時流行っていたデザインで、セーターの一部が毛皮のようにフワフワになっているシャギーニットだった。
「あっ、あれいいなー。」思わず呟いた。
娘が直ぐに「当ててみたら」と言ってくれたので、お店に入った。
セーターは同じデザインで、グリーンの色違いもあった。
どちらの色にしようか迷っていると、ショップの店員さんがオレンジのセーターを示しながら、
「いいですよねーこれ。人気なので、これが“最後の一枚”なんですよ。」と言った。
“最後の一枚”が“殺し文句”となり、私はオレンジ色のセーターを買うことに決めた。
お会計を終え、「良かったね」と娘に言われ、私も満足してショップを後にした。
少し歩いて何気なく振り返ると、「最後の一枚」と言ったあの店員さんが、私が買ったのと全く同じオレンジ色のセーターを先程の壁に飾っている所だった。
「最後の一枚」嘘だったんかい。
二枚舌の店員さん。この手法で何枚も売りさばいてきたのだろう。それが商売と言うものか。口車に乗った私も私だけど。
でも、まあ、気に入ったからいいけど。
街路樹の葉、オー・ヘンリーの「最後の一葉」。そして、すっかり忘れかけていた「最後の一枚」のセーターのエピソードを連想ゲームの様に思い出した日だった。