原稿用紙を広げて書き始めようとするが、「おもしろかった。」この1行以外何も書けない。
そこからは苦悩し、結局父に泣きつき、何とかマス目を埋めて仕上げたものだった。
文学には複雑な人間関係が描かれる事が多い。
自分は、俗に言う「単細胞」。複雑な事が苦手。人間関係も「極力シンプルに」を心がけて来た。
そんな私だから、文学を読み解く事が中々に難しい。
複雑で苦渋に満ちた主人公の人生を読みながら、「もっと楽になれる方法があるのに、何故主人公はこんなに苦悩し続けるのか」と、そんな事を考えてしまう。
数年前にカズオ・イシグロの「わたしを離さないで」という作品がドラマ化された。
出演は、綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみ、と俳優陣が良かったので見てみたが、雰囲気が暗い。その上、どういう状況なのか背景も謎のまま、物語が進んでいく。そのうちだんだん興味を失って、途中で見るのを辞めてしまった。
最近になって、どんなストーリーだったのかが気になり始め文庫本を購入した。
カズオ・イシグロは1989年「日の名残り」でブッカー賞を受賞し、2017年ノーベル文学賞を受賞した。
「わたしを離さないで」も受賞こそしなかったが、ブッカー賞ノミネート作品だ。
読み始めてみると、やはりドラマと同じ、暗く謎に満ちた展開だった。
通勤電車の乗車時間を利用して、何とか読み終えた。
小説の最後まで辿り着けば、謎に満ちた状況、主人公たちがどんな宿命を背負って生まれてきたのかが、一気に明らかとなる。
近未来的であり、そんな日が来る可能性が無きにしもあらずと思わせる物語だった。
ドラマ視聴で挫折し、読書で補完し、気持ち的にはスッキリした。
けれども翻訳者と相性が悪かったのか、文章に違和感を覚えた。
特にティーンである男の子のセリフが、昭和のおっさん的言い回しで鼻についた。
主人公を取り巻く周囲の仲間の心の動きの表現もピンと来ず、つかみづらかった。
こうなって来ると、今度は途中で辞めてしまったドラマの方が気になり出す。
機会があれば、ドラマを見てみようと思った。
10代から20代にかけて読んだ本で感動した文学は恋愛系が多い。
シャルル・プリニエの「醜女の日記」
ジェーン・オースティン「高慢と偏見」
この2作品は特に楽しめた小説だった。
「醜女の日記」は、自分の顔にコンプレックスを持っている女性の恋愛物語。
自分が欠点と感じていても、他者からはそう認識されない場合もある、ということをこの小説から学んだ。
自分自身がコンプレックスの塊だった高校生の時に読んだ小説だ。
「高慢と偏見」も20歳前後に読んだ小説で、中々すんなりと進展しない主人公達の恋愛に、ヤキモキしながら楽しんだ。
ちょっとミステリー要素のあるシャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」もかなり私のお気に入り。
エミリー・ブロンテの「嵐が丘」は、ちょっと歪んだ恋愛であまり共感は出来なかった。
無垢な女性の波乱万丈で理不尽な人生物語、トマス・ハーディの「テス」。
男性たちの身勝手な行動にムカつき、それに翻弄される主人公に対しても同性として心穏やかではいられなかった。
映画を劇場で観たことを思い出す。
ナターシャ・キンスキーのみずみずしい美しさが、彼女に降りかかる不幸を一層際立たせていた。
フランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」
中学1年生の時に出会った本。
読みながら、内容は中学生にはちょっとドキドキするものだった。
子供だった自分が大人の世界に一歩足を踏み込んだ様な、そんな感覚を今も思い出す。
サガンの作品が好きだった。
作家自身も当時良くメディアに登場していた。
ショートヘアがよく似合う、知的な風貌の作家で、私は憧れていた。
今でも読書感想文は苦手。
久保俊治氏の「羆撃ち(くまうち)」が近年最も感動した本だったので、何とか感想文を以前このブログで書いたけれど、読み返すとやはりヒドイ。
私が20代の頃、父は職場の会報誌に原稿を依頼された事があった。
父は書き上げた原稿を私にチェックする様依頼してきた。
冒頭は確か
「ビシッ」と精神棒が振り下ろされる音が響く。
と言う様な、軍隊なのか、それとも職場での訓練中なのか、誰かが叩かれるシーンから始まっていた。
父が精神的にも肉体的にも鍛えられた若い頃のエピソードだったと思う。
遠い昔、読書感想文で散々父のお世話になった私が、まさか父の原稿チェックを依頼される日が来るなんて。
おこがましいと思いながら、読んだ。
私は読書感想文は苦手だったが、五教科の中で国語の成績は良い方だった。父が私に依頼してきた理由もそのためだったと思う。
自分が書いた文章が他者からどう見られるのか、という事も合わせて知りたかったのかも知れない。
とはいえ、私は文章がうまかったわけではなかった。それでも父へのご恩返しと思い、生意気にも2~3箇所何か指摘した様な気がする。
父の原稿の載った会報誌は、物持ちの良い父はきっと取っておいたと思う。
でも、母の事だ、父亡き後は全部捨ててしまったことだろう。
もう一度読んでみたかったな。